《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》瑞樹:四人の覚悟
「……ねえ、ちょっといい?」
「……なにかしら?」
とはいえ、いかに普通の冒険者なら死を覚悟するようなドラゴンが相手だとは言っても、瑞樹達四人はドラゴンを倒したことのある浩介から教えをけ、どんな狀況でも対処できるように鍛えてきたのだ。
ドラゴン程度、苦戦はするかもしれないが大怪我を負うことなく倒すことができるだろう。
「ドラゴンってモンスターの中でも強くって、個じゃなくて種族的に特級なんでしょ?」
「そうね。會った事はないけど、いえ、なかったけど、そのはずよ」
「じゃあさ、なんでそんなヤバめのがこんなにいるの、って聞いてもいい?」
——それが一だけだったのなら、だが。
「そんなの、私が聞きたいくらいよ」
現在瑞樹達の目の前には、ドラゴンが〝複數〟ゲートをこえてこちら側にやってきていた。
その數は五。
十にも満たない片手で數え切れる程度の數でしかないが、侮ることなかれ。適切な対応を取らなければ一でも國を落とすことすらも可能な怪がドラゴンだ。
それが五となれば、まさに危機的と言っていい狀況なのだ。
自分たちの想像を越えて普通ならありえないその景に、瑞樹達はを固まらせた。
しかし、ドラゴンは他にも周囲に人はいるにもかかわらず瑞樹達へと顔を向けた。
それは瑞樹達が覚醒者だからだ。その力の気配をじたからこそ、ドラゴンは瑞樹達へと意識を向けた。
そして自分たちの指先程度の大きさすらない瑞樹達の姿を確認すると、先頭にいたドラゴンがビルの如き腕を無造作に振り降ろし、叩き潰そうとした。
無造作な、ドラゴンからすれば特に力を込めたわけでもないだろうその攻撃。
だが、いかに覚醒していようとも、まともに食らえば死んでしまうであろう一撃だ。
だから佳奈は跳んだ。守られているだけではない。自分こそが守ってやるんだという思いを込めて。
「ッ! ——ヤアアアアアッ!」
そして、弾き飛ばした。
振り下ろされていたドラゴンの手を、強化されている能力をさらに強化して迎え撃ち、本來振り下ろされるはずだった場所とはかけ離れた方向へと弾き飛ばしたのだった。
「はんっ! 相手に不足なし! あんたらよく見ておきなさい! それから——瑞樹。あんたも」
ドラゴンの手を弾いた佳奈は著地すると、改めて大槌を構えてドラゴンを睨みつけ、背後にいた瑞樹達へと肩越しに視線を送った。
「修行の果、見せてやるんだから!」
そう言って笑うと、佳奈は瑞樹から視線を目の前にいるドラゴン達へと戻した。
「——ふっ。見るのはあなたの方よ、佳奈。私だって——」
自とは比べものにならないほどに矮小な存在であるはずの佳奈に腕を弾かれ、攻撃を防がれたのが癪にったのか、先頭のドラゴンは喚き散らすようにび聲を上げている。
だがそんなドラゴンの様子を無視して、瑞樹は一歩踏み出すとそのまま勢いをつけて走り出し、喚いているドラゴンの顔面目掛けて飛び込んでいった。
自分の顔に向かって跳んできたことに気が付いたのか、ドラゴンは先ほど別の小人からけた恨みをお前で晴らしていやると言わんばかりに大口を開け、瑞樹のことを食らおうとする。
しかし、そんなドラゴンの目論見は外れ、口を開けていたドラゴンは突然そのきを止めた。
ドラゴン自は何が起こったのかわからなかったかもしれないが、側から見ていたら瑞樹から閃が走ったのがわかっただろう。
いかにドラゴンとはいえ、生としてある以上は電気は弱點たり得る。
雷をけてきを止めたドラゴンに顔面に著地した瑞樹は、そのまま止まることなく跳び、位置を調整。
「——負けてないんだからっ!」
ドラゴンの鱗は戦車砲程度なら弾きかえすことができるが、その防は眼球にまでは適用されない。
故に、眼球に目掛けて突き出された瑞樹の剣を防ぐことはできなかった。
そして、刺さった剣からへと放たれた雷を防ぐこともまた、できなかった。
今まで脅威たり得る存在のいなかったドラゴンは、痛みに耐というものを持っていなかった。
おそらくは生涯で初めての怪我をしたであろうドラゴン。
そのあまりの痛みにび聲をあげるが、何が起きているのかわけがわからないようで、無闇矢鱈と手足をばたつかせるだけでろくに対応することもできず、そのまま絶命した。
「佳奈。隣に立つって言ってたけど、そう易々とはいかないわよ」
ドラゴンのに雷を流し込んだ瑞樹は、ドラゴンのきが止まったのを見計らってドラゴンから剣を抜いて跳び、佳奈の隣——よりも一歩進んだ位置へと著地した。
ドラゴンを一撃で倒すほどの魔力を使ったのはそれなりにきついものがあったのか、瑞樹は顔をしかめながら大きく息を吐き出した。
だが、すぐにそんな疲れた表を消すと、先程の佳奈の真似をするかのように肩越しに佳奈へ視線を向けて言った。
「上等っ!」
置いていかれるもんか、と武を握りしめた佳奈は瑞樹の〝隣に立つ〟べく一歩前に踏み出した。
——が、不敵に笑い合った二人は、直後揃って頭上へと視線を向けた。
「二人とも、熱くなりすぎ」
後方、し離れた位置から聞こえる大人しげな聲が聞こえると同時に、二人の真上を馬鹿みたいな規模の炎が通り過ぎていったのだ。
その炎は、仲間のドラゴンがやられたことで怒りと揺を混ぜてび、暴れ出そうとしていた他のドラゴン達に著弾し、ドラゴン達を包み込んで燃え上がらせた。
「でも、晴華ちゃんもやる気で満ちてるよね?」
「當然。負けたくないのも、強くなったのも、二人だけじゃない」
「だね。私も、置いていかれないようにしないと」
そう言って柚子はさらに何重にも結界を重ねていき、さらには瑞樹と佳奈へ結界と同じように何重にも強化の魔法をかけていく。
晴華はそんな柚子の言葉に答えながらも、普段にない力強いを瞳に宿して次なる大技の準備を始めた。
そんな頼りになりすぎるくらいに頼りになる後衛二人の様子を見た瑞樹と佳奈は顔を見合わせて笑うと、お互いに武を構えて正面の敵を見據えた。
複數のドラゴンに遭遇するなど、普通であれば出會った瞬間に諦める絶的な狀況だ。
だが瑞樹達はそれでも諦めることなく、不敵に笑って絶へと挑んでいった。
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