《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》帰ってきてから狀況確認

「いやー、今回も大変だったみたいだね」

「笑い事じゃないですよ、まったく」

今日は研究所にて佐伯さんと話に來たのだが、目の前で笑っている佐伯さんとは違い、俺は笑う気にはなれずため息しか出てこない。

宮野達學生との修學旅行を終えた俺は日本に戻ってくることができた。

まさかただの旅行だと思ってたのにテロに巻き込まれるなんて思ってみなかった。……いや、ほんのしは思ったけど、まさか本當に何か起こるなんて考えないだろ?

そんなわけで、戻ってきたもののそのまま何もしないわけにもいかず、こうして今日は研究所に報告に來たのだ。

救済者軍に関わるテロについてだし、あれだけ大事になったんだ。一応報告っているだろうが、それでも直接話しておいた方がいいだろうからな。

それ以外にもあっちでそれなりに大怪我をしたのでな検査をけておきたいってのもあるし、ニーナのところに行かなくちゃって理由もあったが、まあそういった諸々を含めての理由があってきた。

「はは。まあ生きてるんだからいいじゃないか。傷跡も殘ってないんだろ?」

「まあそれはその通りですけどね? 俺としては旅行先で面倒に巻き込まれるのは二回中二回なんで、旅行がトラウマになりそうですよ」

左手をグチャッとして左足をスパッといった狀態にはなったものの、今では後癥もなく元通りになっているので問題ない。

とはいえ、それは的には問題ないってだけだ。

前回も突発的なゲートの出現で巻き込まれたが、旅行に行くたびに騒に巻き込まれるとなると、もう旅行なんて行かなくてもいいかなと思える。

こっちに戻ってくる際に、向こうのお偉いさんから『いつでも來てね(要約)』なんて言われたが……絶対に行かねえ。

ただまあ、問題がないわけでもない。問題ってか、なんかもうちょっと違うアレだけど……

「そうは言うけど、君の場合は旅行なんて行かなくても騒に巻き込まれるんだから、関係ないんじゃないかな?」

その通りだ。俺はし前に宮野達の文化祭の準備をするために一緒にダンジョンに潛ったのだが、その時にも厄介なことに巻き込まれ、院することになった。

そう。今佐伯さんがいったように、俺の場合はなぜか特段おかしなことをしなくてもおかしなことに巻き込まれる。

「……特級の呪いの専門家でもわからない呪いって、あると思いますか?」

「どうだろうねー。でも、この間も々と調べたばっかりなんだし、その時はなんともなかったんだろ?」

その際に俺が死ぬとニーナの制的な面で問題があるので、國が頑張って対処してくれたのだが、その結果は何の呪いにも魔法にもかかっていなかった。

「それでも片鱗も摑ませないような呪いがあるとしたら、それはもはや神様とかそういう奴らの領域じゃないかな?」

「神様かぁ……俺、無神論者で良かったですよ」

「神様を信じてたら絶してたって? そこは、ほら、神の試練とかって考えておいたらどうだい? 神様は越えられない試練は人に與えないって言うし、きっと神様も君のためを思ってくれてるんだよ」

「そもそも試練なんて求めてないんですけどね。俺のためを思ってるんだったら、そっとしておいてほしいですよ、ほんとに」

誰かに試練を與えなければならないんだったら、俺なんかじゃなくて本當に神様を信じていて試練を求めているやつに與えてやった方がいいと思う。と言うかそうしろ。こっちに無駄な試練なんて寄越すんじゃない。

「でもまあ、君のおかげでこっちでもある程度は報が流れてきたわけだし、その報をもとに日本にいた救世者軍のメンバーは多なりとも消せたよ。それから、施設もいくつか潰せた」

「……そうですか。唯一の救いはそれですね」

救世者軍を消せたってことは、奴らによって傷つく人が減ったってことだ。

そして施設を潰せたってことは、そこで捕まっていたであろう俺が〝対処〟した子供たち以外の者が、もう苦しむことがないってことだ。

俺は勇者じゃないし、誰も彼もを救いたいと思っているわけでもない。実際に救える力があるわけでもない。

だがそれでも苦しむ子供達を減らすことができたのなら、手足を潰して地面を這った甲斐があるってもんだ。

「ただ、一つ懸念もある」

しかし、佐伯さんの話はそこで終わらなかった。

「……君は人が命をかけて行するのはどんな時だと思う?」

「……大切な何かを守るとき、ですかね」

當たり前のことだが、命ってのは人間だけではなく生きにとってとてつもなく大事なものだ。

そんな命をかけるってのは、ありていに言って普通の狀況ではない。

だが、普通ではないのだとしても生きってのは、子供や番いを守り、助けるために本來の実力以上の力を発揮することがある。

人間の母親が妊娠していると子を守るために攻撃的になって夫と喧嘩をするなんて話を聞いたことがあるし、普段は人を襲わないようなが卵や子供を守るために人を襲うようになる、なんて話もよく聞く。

つまるところ、大切な何かを守る時であれば、どんな生きであれ普段はやらないようなことをやるし、命をかけることだってあるってことだ。

「ああ。それは正しい。だが、それだけかな?」

だが、その答えは佐伯さんの求めていたものとは違ったようだ。

しかしなんだな。そうなると、なんだろう?

何か大切なものを守る以外に命をかける理由か……。

そうだな……あるとしたら……

「自暴自棄になった時?」

「そう。正解だよ」

今度の答えは合っていたようで、佐伯さんはしっかりと頷いた。

何も失うものがなくなった人間ってのは、後先考えることなく命をかけることがある。

しかもタチの悪いことに、そういうやつに限って無駄に頭を働かせて計畫的に周りを巻き込んで何かしらをしでかすもんだ。

そんなことを考える頭があるんだったら他のところに使えって思うが、それが最初からできるようなら、そもそも自暴自棄になるような狀況に陥ることはないだろう。

「今回君の協力もあって、救世者軍の計畫を潰すことができ、その戦力もなからず削ぐことができた。そして今回だけではなく、今までもそれなりの數を潰してきたはずだ。殘りの數がどれくらいいるのかわからないけど確実に奴らの邪魔をしているのは間違いない」

救世者軍はいろんな國で活してきた。

その度に誰々が奴らを止めた、とか、どれくらいの數を捕まえた、倒した、って放送されている。

今回だってそれなりの數のメンバーを倒したと思うし、拠點もいくつか潰すことができたんだから、邪魔をすることができているってのは確かだろうな。

「だが、だからこそ気を付けておかないといけない。追い詰められた生きってのは、時に僕たちの想定以上の行を起こすことがあるんだから」

「……最悪の場合、このあとすぐにでも世界中でテロを起こす、とかですか?」

「今日明日どうこうってわけでもないと思うけどね。テロを起こすにしても、小規模のもので終わらせるはずがないし、なくとも數ヶ月は大人しくしているだろう。だが……數ヶ月後にはどうなっているかわからない」

冗談などかけらも混じっていないような態度でそう言われてしまえば、いやでも何かあった場合の景を想像してしまう。

「そして世界の浄化を謳っている奴らなんだ。自分達の邪魔をした僕達みたいな國の上層部じゃなくて、なんの関係もない一般人だけを相手にテロ活、なんてのもあるかもしれない」

これまで救世者軍の襲撃は一般にも影響が出ていたが、それでもその場所の『上』の奴らを狙っていたから早く対処ができたってのはある。そう言う場所には相応の警備や設備が整っているもんだから、初が早いのも當たり前だ。

だが、これが一般人だけを狙うとなると、途端に対処が遅くなる。

何せ、世界中を常に警戒していることなんてできないんだから。

奴らは任意でゲートを開く手段を手にれた訳だが、それを街中でやられてみろ。

で、肝心の救世者軍の奴らはゲートを開いたら結果なんて見屆けないで即退散、なんて一撃離みたいな方法を取られたら、対処のしようがない。

そうなったら、最悪の場合人口が今の半分以下にすらなりかねないぞ。

「気をつけて、なんて言ったところで、なんの報もないんだから気をつけようがないかもしれないけど、それでも気にはしておいてくれ。何か異変異常をじたら、すぐに教えてしい」

「……ええ。わかりました」

佐伯さんの言っていることは正しい。何か異変があったところで俺にはどうすることもできないんだし、すぐに連絡すると言うのは正しい判斷だろう。

しかし俺は、すぐには返事をすることができなかった。

何せ俺は今までおかしな出來事に巻き込まれ続けてきた。

もし今後も何か起こるようなら、俺にそのつもりはなくともそれは俺のせいなんじゃないかと思えてしまったから。

「自分が関わったせいで騒ぎが起きるかも、なんて考えているのなら、それは自惚れだ。確かに君はんなところで々と活躍しているけど、所詮は個人でできることしかしていない。奴らが追い詰められたとじたのなら、それは奴らに敵対している全ての國のせいだ」

だが、そんな俺の心のうちを察したのだろう。佐伯さんは俺の考えを咎めるように言った。

「奴らを潰すのは必要なことだった。君だって、あっちで奴らの実験にしたこと、後悔はしていないんだろ?」

「後悔……は、してないですね。もうし上手くやれたんじゃ、とは思いますけど」

そうだ。奴らを追い込んだせいで自暴自棄になって、その結果多くの人が傷つくことになったとしても、俺はあの時イギリスで奴らを追いかけ、拠點を潰したことに後悔はない。

確かに、佐伯さんの言うように俺個人のできることなんて高が知れている。

あの時俺が行かなくても結果は変わらなかっただろうから、救世者軍が追い詰められたのは俺のせいではないのかもしれない。

俺があの時あの場所に行った意味なんてなく、行かなければこんなことで悩まなくても良かったのかもしれない。

だがそれでも、俺は俺があの子達を殺した事を、後悔していないし、するつもりもない。

……ただ、もしかしたらあの実験臺となった子供達を殺さなくともどうにか救う手立てがあったんじゃないかとも思う。

「いや。君の行は最善だった。仮に実験となった子供達を生かしておいても、治すためにはまた実験だ。それは、実験する相手や捕まる場所が変わっただけで、その子達に君が求めるような幸せはなかったはずだ」

「……ですかね」

「ああ。何せ、こんなところで上役を務めている私が言うんだ。間違いないよ」

こんなところ、ね。まあゲートやそれに関する研究所の所長なんてことをしている人が言うんだから、間違い無いのかもな。

あの時のことを後悔をするつもりはないが、……それでもしだけ、心が軽くなったような気がする。

「——そろそろ俺は……」

「伊上君」

その後はしばらく適當に話していたのだが検査の結果が出たので、そろそろ出ようかと口を開いた瞬間、それは佐伯さんの言葉によって遮られた。

「なんですか?」

「最後に一つ。これは機なんだけど、君には教えておこうと思ってね」

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