《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》クリスマス會
放たれた炎の球は常人では捉え切ることができないほどの速度で打ち出され、瞬く間に淺田へと迫っていった。
だがそれと同時に、そのまままともにければ大ダメージは免れないであろう炎に向かい、逆に淺田は武を構えた狀態のまま自ら突っ込んでいった。
結果——
「うぬ、ぎっ——!」
ニーナの炎と淺田の大槌は、ものすごい衝突音を起こして周囲に炎を撒き散らした。
だがそれで終わったわけではない。
両者の攻撃がぶつかった後も攻撃は止まることがなく、二つの攻撃がぶつかった地點から太の如く輝く炎が溢れ出し、周囲を焼きながら鬩ぎ合うこととなった。
部屋の隅でかなり離れた場所にいる俺たちにさえその炎は屆き、結界で防がなければならないほどだ。
あれだけの力が込められた魔法と正面からぶつかって行って対抗できているのは、凄いと言うよりも凄まじいと言えることだが、狀況としては淺田の方が分が悪いようだ。
淺田は俺が佐伯さん達に用意できるだけ用意させた熱耐の裝備をつけているが、それでもニーナの炎は防ぎ切れないのだろう。淺田は苦しげな聲を上げながらそれでも引くことなくニーナの炎にぶつかっていく。
普通ならどれほど圧されていようが炎にることなんてできないだろう。
だがあれは、炎の〝魔法〟だ。魔法には魔力があればれることができる。ダンジョン産の素材を使った武ならば魔力がこもっているので、何もしなくともることはできるのだ。
だが、それはることができるってだけの話。
淺田の持つ武で炎にれるようになったところで、その炎の威力自が変わるわけではないのだ。
そしてその炎がどれほどの威力があるのかと言うのは、余波だけでも離れた場所にいる俺たちにも屆くほどの熱と炎によって理解できる。
だから両者互角に鬩ぎ合っているように見える今も、淺田のは焼かれ続けていることだろうと言うのも、わかってしまう。
それでも淺田は、を焼かれながらも引くことなくニーナの炎に大槌で対抗している。
だがそれもいつまでも続くというわけではない。を焼かれ続けている淺田も、そんな淺田に迎撃され炎を撒き散らし続けているニーナの魔法も、どちらもその力を減らし続けていた。
そして、ついにその時がやってきた。
「いっ、やあああああああ!」
炎の勢いが弱くなったのか、それともこれ以上は自分の強化を維持できなかったのか、淺田がニーナの炎とせめぎ合っていたはずの大槌を勢いよく振り抜いた。
それと同時に炎の球を形作っていた魔法が破壊され、込められていた魔力を全て発に変えて放出した。
「淺田っ!」
「佳奈っ!」
それまで撒き散らされていた炎とは比べにならないほどの熱量を轟音と振とともに放った発。
その中心にいたはずの淺田に向かって、俺たちは心配しながらび聲をあげ、無事を確認するべく部屋の隅から淺田がいたであろう場所に走り出した。
しかし、発によって煙が舞い上がっていたせいで視界が悪く、魔力も使い果たしたのか淺田の場所がわからない。
それをどうにかするために宮野が風を巻き起こして煙を散らさせる。
宮野の専門は雷だが、この程度の魔法は他の屬であってもできるように教えていた。
だからできること自は不思議ではないのだが、宮野もよほど心配しているのだろう。その魔法はかなり適當で強引なものだった。
だが、煙を払い視界を確保すると言う目的を果たすことはできた。
「淺田っ!」
煙が晴れた先、ニーナの炎と淺田がぶつかり合い発が起こった場所から離れてはいたが、それでも淺田は先端の叩く部分が壊れて棒だけとなった大槌を杖のように突き立て、それに寄りかかりながらも立っていた。
「……はんっ! これでどうよ!」
そんな淺田に駆け寄っていったが、淺田は俺たちのことなんて意識にないようで全を焼かれ、なんとかに纏うことができる程度までボロボロになった服を纏った狀態であっても尚、鈍ることのない瞳でニーナを見つめながら笑った。
そんな言葉に、無事なんだとわかった俺たちはその足を止めて淺田とニーナの二人の様子を見るが、ニーナは珍しいことにポカンと間の抜けたような表をしながら淺田のことを見ていた。
あまり、というかほとんど見たことがないニーナの様子だが、その理由はわかる。
おそらくはあれだけ力を込めた攻撃を生き殘られるとは思っていなかったんだろう。
「どう? なんか言ったら?」
「……いき、てる?」
淺田は勝負が終わって自分を見つめても何も言わないニーナに対して聲をかけたのだが、ニーナはまだ気の抜けたような狀態で首を傾げている。
「そうだけど、生きてちゃまずかったわけ?」
「……生きてる」
もう一度淺田が聲をかけたが、ニーナはそれに応えることなく先ほどと同じ言葉をもう一度繰り返した。
だがその言葉は先ほどよりもはっきりしており、表には安堵のが浮かんでいた。
そんなニーナの様子に困したのだろう。淺田はわずかに狼狽えたようにを震わせた。
「お父様!」
そして、ニーナは安堵から歓喜へと表を変え周囲を見回すと俺へと視線を止めると、そう言いながら走り寄ってきた。
「お父様! お友達が増えました!」
「お友達って……」
「お前のお友達の増やし方、隨分と、なんだ……暴っていうか、熱的だな?」
「はい!」
ニーナは笑顔で返事をしたが、俺はなんというか、すごく困している。
だって今、命をかけた勝負の後だぞ?
一応ルールは設けたが、それでも危険があったことに変わりはなく、その直後に『お友達』と言われても反応に困る。
河川敷で拳をえたら友達、ってか? ……いつの時代の『友達』だよ。
でもそうか。どうやらニーナ的には今の勝負が終わったことで淺田はお友達認定されたと言うのは間違いないようだ。
それはニーナの反応を見ればわかる。
淺田はなんとも言えないような表をしているが、ニーナはそんなこと気にならないようで心の底から喜んでいるようだ。
「淺田。お疲れさん。よくやったな」
今まではニーナの言のせいで理解していなかったんだろうが、俺が聲をかけたことでようやく実が湧いたのだろう。
淺田はそれまでの微妙な表から段々と喜に富んだものになり、隠しても隠し切れない喜びがじ取れた。
「まあ、これくらいは當然よね!」
そして自慢する……いや、誇るかのようにを張ったが、その様子はどこか褒めてもらいたい子供というか子犬というか、なんかまあそんなじに見えてしまった。
しかしだ。本來なら褒めてやるべきことだろうし、素直にすごいと言ってやりたいところなのだが、今はまずい。
いや、まずいというか、そんなことをしている場合ではないというべきか。
「教えた甲斐があるってもんなんだが……服を用意しておいたから著替えとけ」
「ふえ?」
……まあ、なんだ。今のこいつは炎を喰らったせいで服が燃えているわけで、ほとんどに近いようなギリギリセーフと言えるけどやっぱりアウトみたいな際どい格好をしている。
まだ著るとして裁を保っている水著の方がマシなんじゃないかという格好だ。早く著替えた方がいいだろう。だろうっていうか、著替えてしい。まじで。
「……ああああ!? なんでえ!?」
淺田は俺の言葉に呆けたような聲を出すと下を向いて自分の姿を見たが、そこでピシリと石になったかのように固まり、そして突然奇聲を上げて慌て出した。
「なんでも何も、さっきの奴に決まってんだろ。は強化できても、服は普通のものじゃ耐え切れるわけがない。もうボロくなってるし、さっさと著替えろ」
「み、見るなあああ!」
「だから著替えろって言ってんじゃねえか。更室はそっちのドアから出てすぐ右だ」
俺の話を聞くことなく混しながらんだ淺田にそう教えてやると、その瞬間走り出していった。
とりあえずここにいさせるよりも更室の方がいいだろうと思ったんだが、あいつ替えの服なんて持ってないよな?
佐伯さん達に頼んだらもらえるだろうか?
……そういえばこの部屋の中は上から見られているんだが、それは言わない方がいいだろうな。あいつの神衛生的にも、その発散をけ止める俺的にも。
「うう……ひどい目にあった」
「自業自得なんだ。こっちを睨むなよ」
更室に駆け込んだ淺田は無事にニーナから服を借りることができ、今は無事に著替え終わっている。
「で、これからどうするんだ? 戦いに來たわけじゃないんだろ?」
この場所に來たのはニーナに會うためだが、その元々の目的は戦いに來たんじゃなくてクリスマスパーティー的なものをやるために來たんだ。
「私はそれでも構いませんが? 瑞樹はどうします? 遊んで行きますか?」
「あはは……私は今日はいいかな」
まだまだ余裕のあるニーナは宮野に問いかけたが、宮野は引き攣った笑みで誤魔化そうとしている。
だが、ここで逃げられたとしてもお前はそのうちニーナの相手をするようになるんだぞ。
「そうですか。では次に來る時を楽しみにしていますね」
「次の時は戦うのが確定なのね」
「はい!」
それがわかったのか、宮野はどこか黃昏たじというか、哀愁漂う様子で遠い目をしながら呟いたのだが、そんな宮野に対してニーナはとても楽しげだ。
まあ、ニーナにとっては數ない上に初めての対等な友人だからな。仕方がないのだと思って諦めてくれ。
「——ねえ。なんだってさっきまではあんなに態度悪かったの?」
楽しげにニコニコと笑っているニーナだが、その笑みは宮野だけではなく淺田にも向けられるようになっていた。
だからこそ気になったのだろう。それまでのニーナと態度と今の違いが。
ニーナが自分に勝った相手を尊重するのはこれまでのことから淺田もわかっていただろうが、それがこれほどまでに変わるとなると、気になっても仕方がないのかもしれない。
「だって、立ってられない人がそばにいても、どうせ居なくなりますから」
ニーナはなんでもないことのように言っているし、その聲音も変わった様子はないように聞こえる。
だが、その表は違う。それまでと変わらずにニコニコと笑っているようにも見えるが、わずかながら歪んでいるようにも見える。
きっとそれはニーナなりの自己防衛なんだろう。
親しい者を作らなければ、殺して悲しい思いをすることもないから。
「あー、うー……じゃあ、あたしは認められたってことでいいのよね?」
「はい。これからよろしくお願いします」
「なら、元々はそのつもりで來たわけだしクリスマスらしいことをしましょう!」
淺田はそんな微妙な表に気づいてしまったのだろう。元々思いやりや気配りができるやつだからな。
だから言葉に詰まったようだが、それでも無理矢理話を進めることにしたようだ。
「クリスマスらしいこと? 何をするつもりですか?」
ニーナは先程自分が表を変えていたことに気がついていないのだろう。突然テンションが高くなった淺田の様子を不思議そうに見ているが、気にしないことにしたようだ。
「ケーキ作りよ!」
そんな宣言とともに、今度こそクリスマス會が始まった。
「これで良いですか?」
「あんた、かなり上手くない?」
「ケーキは初めてですが、これでも料理は練習してきましたから」
「じゃあ次はこっちお願い」
ケーキ作りに限った話じゃないけど、ああいう混ぜる作業って結構腕が疲れるんだよな。それでうまく混ぜられなくて失敗するんだが……まああいつらには関係ないか。あの程度で腕が疲れるなんてことはないだろうし。
これだけ見れば微笑ましいな。さっきまで命懸けの勝負をしてたとは思えないほどだ。
クリスマス會が始まったとは言っても、何もすぐに食べるというわけではないようで、まずはケーキを作るところから始まった。
勝負した部屋とは違って、こっちは元から許可を取っていたのでスムーズに事が運んだのだが、なんか一流レストランの廚房みたいな場所だ。
そこにいる子高生五人というのはなんというか、場違いがするな。まあ不備がないってことなんだし、楽しくやれてるならいいけど。
……にしても、あれだな。ニーナにも、こういう普通の友達みたいなことをする相手ができてよかったよ。
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