《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》新年の待ち合わせ

研究所でニーナをえて騒いだクリスマスから數日が経ち、年が明けた。

去年は……というか去年も々あったが、今年はどうなるかね? 平穏無事に終わればいいんだが……。

そんな自分でもちょっと無理かもしれないという願いを考えながら、待ち合わせ場所である學校の正門にやってきた。

最近は毎日のように見ている學校だが、それでも人がいないってだけでなんだか新鮮にじるもんだな。休みなのに來ているってのも加わって尚更だ。

待ち合わせまで……後二十分もあるな。バスで來たから仕方がないとはいえ、これから待つのも面倒だし、電話でもするか。

「あら?」

そう考えて正門に寄りかかり、いざケータイを取り出そうとしたところで不意に背後から聲が聞こえた。

背後から、と言っても寄りかかっている正門の壁からではなく、そこからしずれたところからだが。

「伊上さん。どうされたんですか?」

ケータイを取り出す手を止めて聲の下方向へと振り返ると、そこには年若いがこっちを見ていた。

「ん? ああ、えー……桃園先生か」

一瞬どこかで見覚えがあるような気もするが誰だっけと思ったが、そういえば一年の時から宮野達の擔任をやってる人だ。

……ふと思ったんだが、一年と二年両方一緒ってのは偶然……ってじでもないよな。

確かこの人、新人だけど特級の宮野を任されたって言ってたし、多分押しつけられてそれが継続中なんだと思う。

まあ、その辺に事があったとしても、俺に関係ないし特に首を突っ込むことでもないだろうから放っておこう。首を突っ込んでどうこうなるもんでもないしな。

何かやるにしても々が話を聞いてやるくらいだが、この人だってほとんど面識のない俺なんかに話すことなんてないだろう。

「はい。それで、學校にご用事でも?」

そう問いかけてきた表は俺が不審者に思えたから、ではなく、純粋に気になったから尋ねただけのように思える。

まあ一応、というかそもそもこの人が俺を引きれたわけだし、俺の立場を知っているから不審者とは思わないか。

それでもこんな正月の日に學校に來るようなやつは不審に思われても仕方ないかもしれないから、そう思われなかったことには謝だな。

「ああいや、約束があるんで、その待ち合わせですね」

「待ち合わせ? ああ。宮野さん達ですか」

「ええ。子供の送迎ってこんな気分なんですかね?」

「ふふ、お疲れ様です」

俺の冗談に対して笑う桃園先生はふと笑うのを止めるとほっとしたように息を吐いて、それまでとは違った疲れたような笑みを浮かべた。

「でも、仲良くしていただけているようで安心しました」

「そうですか?」

「はい。最初はすぐに辭めるとのことでしたので、し不安があったんです」

そう言えば、最初は本當に三ヶ月だけですぐに辭めるつもりだったな。

それがどういうわけかこんなに一年以上も一緒に居る事になるなんて、まあ思ってもみなかった。

今だと辭めさせてしいって気持ちはあるが、あいつらと一緒にいてもいいって気持ちもあるんだから、人間どう転ぶもんかわからないよな。

「ああ……まあ、々とありまして。桃園先生に言ったのとは別になりますが、宮野達が學生のはあいつらを見守っていようかと」

「そうですか。そうしていただけるのでしたら、私としても喜ばしい限りです」

桃園先生はそう言ってもう一度笑うと一転、真剣な様子で俺を見つめてきた。

「——伊上さん。宮野さん達をよろしくお願いします。あの子達はなぜだか々と巻き込まれるようですし、その度に伊上さんが助けてくれているのはわかります。そのせいであなたが大怪我をしたことも、知っています」

……いやそれ、あいつらのせいってか、俺のせいじゃねえの?

そう思ったが、桃園先生の真剣な様子を見るとそれを口に出すことはできなかった。

「ですが、私はあの子達に死んでほしくありません。それはあの子達が勇者だからとか力があるからではなく、ただ一人の教師として、教え子には幸せになってしいと思っているから。だから、お願いします。私では、教師として失格かもしれませんがあの子達を守るどころか、導くことも何かを教えることもできませんから」

そう自する桃園先生の表は笑っているが、どこか悲しげなものが混じっているようにじられた。

だからだろう。俺が口を開いたのは。

「……そう思ってくれている人がいるだけで、それは支えになりますよ。力になりたいと思うことができるのなら、生きてしいと願うことができるのなら、それは何もできないわけじゃない」

あいつらはこれから先、敵が増えるはずだ。

今だってそれなりに勇者である宮野や、勇者のおこぼれに預かっていると思われている淺田達のことをよく思っていない奴もいるだろうし、學生を終えて社會に出て々と活していけば、その數ももっと増えていく。

そんな中で、純粋にあいつらのことを思ってくれている人がいるってのは、それだけで心強さになるもんだ。ただ一人。たった一人だとしても、そう思ってくれている人がいることを知っていれば、それは心の支えたり得る。

だから、この人は教師として宮野達に何もできていないわけなんかじゃない。

「桃園先生。あなたは立派な教師ですよ。……できることなら、俺が學生の時にあなたが擔任ならよかったと思うくらいです」

生まれた時間的に無理な話だが、俺がこの學校に短期でった時にこの人が擔當の教師だったのなら、あのクッソふざけた詰め込み授業も、しは楽しいと思うことができたかもしれない。

「あ……」

あまり関わりのない俺なんかに弱音みたいなことを言ってしまったことが恥ずかしいのか、桃園先生はわずかに顔を赤らめて俺から視線を外した。

まあ俺だって自分の悩みや弱みをそれほど親しくないやつに吐してしまえば、恥ずかしさはじるし、この反応も仕方のないものだろう。

「そ、そうですか? いえ、そう言っていただけると、その、嬉しいですね」

桃園先生は吃りながらそう言って、最後には俺から視線を外したままだがそれまでの悲しげな表を消して嬉しそうにはにかんだ。

だが、直後ハッとしたように顔を上げて辺りをキョロキョロと見回し出した。なんだ?

「えっと、その……あ。み、宮野さん達が來たみたいなのでこれで失禮します!」

そう言うと桃園先生は學校の方へと小走りに去っていき、代わりにそれとはし外れた方向……寮のある方向から宮野達がやってきた。

「何話してたの?」

「新年の挨拶がそれかよ?」

桃園先生とれ替わりでやってきた宮野達だが、新年初めてだと言うのにかけられた言葉は淺田のそんなぶっきらぼうなものだった。

だが、俺がそのことを注意すると、それは正しいと思ったようで、怯んで他の三人と顔を見合わせた。

「「「「あけましておめでとうございます」」」」

「ああ。あけましておめでとう」

これでこいつらとの正月も二回目か。まじで長い間一緒にいるな。本當はもうとっくに辭めてるはずだったんだがな。

まあ、楽しくないわけじゃないし、こいつらが卒業するくらいまではいいか。

……あ。そういやあ、さっき桃園先生とは新年の挨拶をしてなかったな。

宮野達に新年の挨拶をしたことで思い出したのだが、今更思い出したところで仕方がない。

「今年もいい年に……今年〝こそ〟良い年になるといいですね」

「おい、なんで言い直した」

宮野は言おうとした言葉を一旦止めて言い直した。

その理由は俺もわかっているが、それでも反的に聞き返してしまった。

「だって伊上さん、去年がいい年だったって本気で言えます? いえ、私たちにとっては楽しいこともありましたし、決して悪い年ではなかったんですけど……」

「でも、楽しいことがあるのと同時に問題もあったじゃん」

院が二回もあった」

「私たちの長にもなったし、こうしてみんなで集まっていられるけど……何事もなかったとは、言えないよね」

去年あった事と言ったら……あー、まずは學校の襲撃か。あの時は敵に捕まって危うくニーナが大規模破壊と大量殺人を行ないそうになったんだったな。

あの時は々と大変だったが、あれのおかげでニーナの長にもつながったし、俺たちの関係の改善にもなった。そしてそれはニーナだけではなく、こいつらともだな。

俺自、あの時に々とあったからこそ、まあ多なりとも前に進める……とは言えないかもしれないが、後ろを見ないことができるようになった。

で、その次は、なんだったか……ああ、クラゲか。

襲撃の時も大概だったが、あのクラゲの事件の時もひどかったな。あの時の出來事のせいで院する事になったんだった。いや、院したのは俺自のせいなんだがな。

そんなクラゲ事件の起こりは、文化祭の準備をするためにダンジョンに潛ったわけだがその時にちょうど救世者軍の奴らの何某かの計畫に遭遇してしまったようで、本來いるはずのないモンスターが出現し、死にかけた。

あの時は、特級や一級と一緒にいたことで警戒心が以前よりも薄れていたんだろうと今になると思う。だからこそ、あんな神干渉を喰らって危険な狀況に陥ってしまった。

こいつらは力はあってもまだまだなところもあるんだから、俺がしっかりしないといけないんだと再認識した。

その次は修學旅行……の前に一応お嬢様との戦いも出來事っちゃー出來事か。あの時は俺にはあまり危険はなかったし、イベントの一つとしてそれなりに楽しめたな。

あれは去年……じゃなくて一昨年か。そん時の諍いの延長戦みたいなもんで、一年時の宮野とお嬢様——天智飛鳥の喧嘩っつーか勝負の結果に納得がいかないから再戦を約束したんだったな。

その結果、再戦したがまた宮野達は負け、お嬢様達は勝ったはずなのに結果が納得いかなかったらしい。

まあそれも理解できる決著だったがな。本人達の勝敗ではなく、戦いのルール敵に負けただけでそれだって事故のようなもんだったし。

多分今年の三年時にも再戦を挑んで來るんだろうと思うが、両者ともにその時はより強くなっているだろうから、參加する俺もより必死にならないとだな。

……待った。今俺は自然と參加しようと思ったが、そう思えるようになってるのは良いことなんだろうか?

こうして考えを帰ることができたのはいいことなんだろうが、こう言う考えを當たり前だと思っていると、なんだか卒業してもずるずると一緒に行する事になりそうな気がするな。

……まあ、いいか。それはその時にならないとどうにもならないだろうし、今考えても無駄だろう。

と言うわけで次だ。というか最後だな。

最後の出來事は修學旅行だが……あれは忘れるはずもない。ついこの間の出來事だし、あれが一番やばかったからな。的にも、そんで神的にも。

修學旅行では、行った先でかつての知り合いに捕まり、強制的にあいつらの作戦に協力させられた。

だが、俺たちが作戦を開始する前に敵——救世者軍の奴等に逆に襲撃をけ、さらには街にまで被害が出た。

それを止めるために戦って、特級で勇者のジークと一緒に奴等の拠點に突撃したんだが、そこでまあ々あって左の腳をスパッといって左の手をグチャッといったわけだ。

そんで二度目の院。

魔法があるからすぐに治るとはいえ、完治するまでにはそれなりに時間が必要だったし、宮野達には怒られるし泣き付かれるしで大変だった。

こうして去年一年を思い返してみると々あったわけだが……ちょっと待ってほしい。一年が濃すぎねえか?

俺、ただの……とはまあ言わないが、それでも三級だぞ? なんでこんな事件や事故に巻き込まれまくってんだ?

「そういうわけで、今年も何かしら起こるんじゃないかなー、と」

宮野はそう言って微妙な笑みを俺に向けてきたが、それは同意を求めるものか? ……絶対に頷いてやんねえ。

今年こそは何にもない年にする——ことができるといいなぁ……。

「なら俺を解雇してくれよ。それだけで隨分と安全が上がると思うぞ?」

元々俺がこいつらと一緒にいるのは、歳が嵩んできた仲間達よりも安全だろうと言うことでチームにる事にしたんだ。した、と言うか勝手にチームにる事になったんだがな。

そうして一緒に行する事になったわけだが、どう言うわけが三級どうしで組んでダンジョンに潛って危険を冒してた時よりも危険に遭遇するようになった気がする。

確かに通常のダンジョンでは危険はなくなったし、稼ぎも多くなった。それ自は嬉しい。貯金が八桁もあるようになったんだからそれ自は喜ばしいことだ。

だがしかし、危険度合いでいったらどうなんだろうな?

一緒にいたら俺もそうだが、こいつらも危険になりそうな気がする。と言うか実際に危険な目に遭ってきた。

「教えることはない、なんて言ってた割に新しい技を教えてもらったし、まだまだ離すつもりはありませんよ」

しかし、これだけ事件に遭遇するのが普通ではないと理解し、実際に危険な目にあったことのある宮野は、そう宣言した。

こいつらを危険に曬したくないと思う反面、危険になるかもしれないとわかりながらも言われたその言葉が、しだけ嬉しかった。

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