《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》初詣・二年目

「そもそも、瑞樹と佳奈はこーすけが辭めたとしても離さない」

しだけ心が暖かくなったような気がしたその時、安倍がそんなことを口にした。

「んんっ!?」

「晴華っ!?」

突然安倍に名指しで言われたせいで、宮野と淺田は驚きや焦りを混ぜてびながらバッと安倍の方へと振り向いた。

だが、俺も微妙な表をしているだろう。

「あ、あはは……でも、それを言ったら晴華ちゃんもじゃない?」

「ん。そう。私も」

……一応、こいつらの気持ちは知っているつもりだ。

だが、前にも何度も考えたが、応えるのかとなると……わからない。

『応えない』から『分からない』になっただけ進歩しているのかもしれないが……はあ。我ながらため息を吐かざるを得ないな。

自分でも自覚しているが、俺はヘタレで優不斷だ。けないが、ギリギリの狀況になるまで自分からはかないだろう。

だがそれだとこいつらに悪いし、そもそもの話として歳が離れすぎている。

だから、こいつらには別の人を見つけてほしい。それが、こいつらのためだろう。

「——で! ……さっき先生と何話してたの? なんか様子がおかしかったけど?」

「そうか?」

淺田が強引に話を変えた。まあそのほうが俺としてもありがたい。

しかし、淺田は桃園先生の様子がおかしいといったが、そうだったか?

まあ、なんか最後の方は変だったと言われればそうかもしれないな。

だがあれは、他人に弱音を吐いてしまったから恥ずかしかったからだと思うぞ。それを『生徒』であるこいつらに言うつもりはないけど。

「……けど、理由はわかるような気もするわね」

しかし、宮野にはその理由がわかったのか、こっちを見ながらそう言った。

だが、ジト目っつーかなんつーか。そんなじの微妙な目でこっちを見ている様子からすると、なんか違う気がする。

「そうか?」

「どうせまた口説いた」

「馬鹿言え。誰かを口説いたことなんてねえよ」

おい安倍。なんだその目は。まるで「え? まじで言ってる?」みたいな目をしやがって。

俺は今まで誰かを口説いたこともないし、告白したこともないぞ。

「……じゃあ、なんかいいじのことを言った」

だがそんな言葉では納得できないのか、怪訝そうな顔をしてもう一度問いかけてくる。

「なんかってなんだよ」

「さあ?」

「あの……多分ですけど、教師であることを褒めたりしませんでした?」

要領を得ない安倍との會話に注釈をれるように北原が言う。

教師であることを褒める? したな。つい今し方、そんな話をしてた。

だが、それのなにか問題があったか?

「したな」

「なら、多分それだと思います。桃園先生、若い上にだからって、周りよりも低く見られているみたいなんです。しかも、新任なのに瑞樹ちゃんみたいな特級の生徒をけ持ったせいで、同期からもよく思われていなかったらしくて、悩んでたみたいです」

あ〜。まあよくある職場でのあれこれか。

そういうのはどこだってあるもんだし、俺だって冒険者になる前は経験したことがあるが、もうそう言うもんだって諦めて慣れるしかないんだよな。

「で、そんな時にこいつが褒めて口説いた?」

「多分だけど」

「口説いてねえよ」

北原もそこで肯定してんじゃねえ。もうし否定するそぶりくらい見せてくれ。

「……伊上さんは、桃園先生のことをどう思ってますか?」

普段は大人っぽく振る舞う宮野だが、なぜだか今日はし子供っぽい態度だ。

「まるで咎めるようなじだな」

「どうなの?」

宮野の言葉に乗るように淺田も問いかけてきたが、俺としてはほとんど會ったこともないような相手にそんななんて持ったりしない。

まあ一目惚れなんて可能もあるかもしれないが、なくとも俺の場合は違うと斷言できる。

「どうとも思ってないし普通にお前らの教師ってだけだが……なくともお前達を相手にするよりは健全だよなぁ」

とはいえ、なんのもないとは言っても、それでも宮野や淺田を相手にしてをするよりは健全だろう。なにせこいつらは未年であっちは大人だし。

「あたしだって、後五年もすれば同じだし」

「その頃には俺はとっくに四十になってるっての。他を探せや」

「やだ」

を尖らせて言葉なに拒否した様子はまるで子供のようだ。

子供のよう、なんて言ってもこいつはいつものことだが、なんだか今日に限って宮野もこいつもしはっちゃけてるじだ。やっぱり正月だからだろうか?

だが、不思議とそんな態度が似合っているようにじた。……まあ、子供のようって言っても、実際こいつらはまだ子供だしな。

そんなことを考えていると、宮野がし思案げな表をした後に楽しげに笑みを浮かべて口を開いた。

「伊上さん。今の世の中、若返りの薬ってあるんですよ? 正確には若返るのではなく治癒の応用で細胞の活化と強化ですけど、結果としては若返るらしいですね」

「……なんで今その話をした?」

その話は聞いたことがある。正確にいうなら、若返りってよりは全盛期を取り戻すってじだったはずだ。

だから全盛期が來ていない子供が飲んでも健康になるだけで、特に害はないものになっている、みたいな話を聞いたことがある。

まあめちゃくちゃ高いし生産量がないから何年何十年待ち、みたいな予約がずっと先まで埋まってるそうだ。

だが、それはいいとして……なんで突然その話をしたんだ?

「後、長壽薬なんてものもありますよ。壽命が倍になるそうで、高かったです」

「だからなんでその話を……買ったのか?」

「はい。の子はいつまでも綺麗でいたいものですから」

それはわからないでもないが……そうか。

言葉のニュアンスからしてそうかもしれないと思ったんだが、本當に買ったのか。

「ちょっ! 瑞樹あれ買ったの!?」

「ずるい」

「で、でも、確かあれ、一億円いってるって話してなかった? それに、優先順位があって予約に二十年かかるって……」

一億円に二十年先か。若返りや長壽を求めるのはわかるが、そんなにするの……いや、安い方か?

「これでも『勇者』だもの。死なれたら困るだろうし、優先的に買えたわ」

宮野はそう言って茶目っ気混じりに笑った。

だが、なんだろうなぁ。やっぱし子供っぽくなってるような気がする。

それが悪いとは言わないし、むしろ今までこいつは気負いすぎてたわけだからこうして笑ってられるのはいいことだと思う。

考えられる要因としては、やっぱりあれか? ちょっと前に、淺田たちチームメンバーとの関係の指摘したし、直接見てたわけではないが改善もされたみたいだが、その影響だろうか。

仲間と話し合って関係を見つめ直したおかげで気負うことがなくなった、とまではいかなくても気持ちを楽にすることができた結果がこうして笑ってられるんなら……ま、いいか。

「……はぁ。——とりあえず行くぞ。バスを乗り過ごしたら面倒だからな」

とはいえ、いつまでもここで話しているわけにはいかない。

バスは數時間に一本というほどないわけではないが、それでも好きな時に出られるというほど多いわけでもない。だいたい三十分に一本くらいか。

まあ、これでも多い方だけどな。本當に隅の方だと一時間に一本なんてザラにあるし。

そんなわけで話を區切ってバス停まで歩き出し、そこからバスに乗って神社へと向かった。

「相変わらず人がいっぱいいるわね」

「ねー。普段はこんなに集まってるのなんて見ないから、ちょっと新鮮かも」

「……煩い」

「あはは、こればっかりはしょうがないんじゃないかな、晴華ちゃん。靜かだと、それはそれで雰囲気がないもん」

正月の神社ってのはどこも混んでるもんだ。特にここみたいな大きめの場所だと屋臺も結構な數が出るし仕方がない。

普段は學校とダンジョン、たまに駅前やなんかにいく程度で、人混みってほどの場所はうろつかない。まあ田舎だしな。

なので、こいつらにとってはこれだけの人がいるのは珍しいことだろう。しテンション高めになった気がする。

「で、今年もこの列に並ぶわけで……」

が、そんな楽しげな聲をしていた淺田だが、すぐに嫌そうな聲でこっちに振り返ってきた。

その指を差している先には何十では済まず、何百という人が集まって並んでいる長蛇の列があった。みんな參拝の客だ。

「なんだ。嫌なら止めとくか?」

「な訳ないでしょ」

「せっかくここまで來て參拝しないのはないですよ」

だよな。俺としてもここまできたのなら普通に初詣して帰りたい。

まあ特に祈ることも願うこともないんだけど。

だってそもそも神様信じてないし、いたとしても、神様だって普段から信じてないのにこんな時だけ頼み事するやつの話なんていちいち聞いてないだろ。

なので俺は願い事なんてしていないわけだが、ならわざわざ列に並んで賽銭までして何をしてるのかってーと、一年の區切りと覚悟だな。

去年も一年生き延びてこられた。今年も頑張ろうって、とりあえず祈る形でいないだろうと思っている神様に話しかけることで自分に言い聞かせている。

もし本當に神様なんていたとしても、どうでもいい奴らから頼まれごとされるよりはただ報告を聞いてる方が楽だろ。

まあ、もし本當に神様なんているんだったら一発毆ってやるけど。

「——でさー、この間は違うのを使って思ったんだけど、やっぱり新しいのを買おうかなって。どう?」

で、參拝することになったので列に並んだのだが、これだけの數が捌けるまでそれなりに時間がかかる。

宮野たちは冒険者って言っても、基本的ななんかは普通に年頃のの子たちだ。

だからこそ、ってわけでもないが、待ち時間があれば楽しくおしゃべりをしてもおかしくはないわけで、俺みたいなくたびれたおっさんとは違って楽しげに話しをしている。

「そうねぇ。今使ってるのも結構長いし、いいんじゃないかしら」

「なら、私たちも変える?」

「佳奈ちゃんほどじゃないけど、々と直しながら使ってるから、不安があるよね」

聞いてる限り話は普通だ。直しながらだとか不安があるとか、し微妙なラインも混じっている気もするが、子高生がしていてもおかしくない會話だ。

……これが武の話じゃなければな。

どうやらこいつらは今使っている武を変えるかどうかを悩んでいるらしい。

お前らは子高生なんだからもうし別の話があるだろうとも思うが、武をどうするかは冒険者として大事なことなので、そんな華のない話題であっても仕方がないといえば仕方がないか。

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