《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》と話しと拡聲

「……今の話、どう思う?」

だが、誰もが黙り込み、き出すことも無くなった靜寂を破るように俺は宮野達へと聲をかける。

あんな畫の後に最初に聲を出したのが俺だからか、その場にいた奴らの視線が全て俺達……俺に集まるが、そんなことはどうでもいい。今大事なのは仲間での意見、考えの確認と統一だ。

「え? ……えっと、あー……ちょっと待って、整理するから」

淺田は俺が聲をかけたことでハッとこちらを向くと、周囲の視線には気づかないまま、頭を押さえて難しげな表で悩み始めた。

「……私は……正直、ちょっとついていけないですね。いえ、言っていることは、わかるんですけど……」

「言っている容だけで言えば、納得できるものはあった」

「け、けど……そのために人を滅ぼすって言うのは……」

まともに答えられたわけではないが、それでも淺田が多なりとも話したおかげか宮野達も淺田に続くように、若干戸いながらも言葉を発した。

でも、そうだよな。確かに言っていることに確たる証拠はないものの、ゲートの発生理由だとか「そうなのかもしれない」と思う程度には説得力はあった。

だからあの仮面の言っていること、言いたいことも理解できる。人間はこの星にとっての害悪だ、ってな。

……人の魂から剝がれ落ちた負のがゲートを生み出すのなら、人が滅べばゲートは消える、か?

仮面の言ったゲートの発生理由が間違っていないのであれば、多分その考えは間違っていないだろう。

「……だとしても、ゲートがなんであれ俺がやることに変わりはない、か」

確かに人間は悪なんだろう。環境破壊や環境汚染。そんなもんを繰り返してきたんだからな。

だが、そんなことはゲートができる前から言われていたことだ。改めて言われることでもなく、言っちまえば今更だ。

地球のために人類全滅しましょう、なんて言われても、納得できる訳がないし、納得するつもりもない。

俺は死にたくないし、こいつらを死なせたくない。

こいつらだけじゃなくてニーナやヒロ達、それから姉とその家族。俺が守りたいものを壊すってんなら、それがたとえ神様であっても殺してみせる。

それが俺の願いで、覚悟だ。

それさえはっきりとしていれば、何がどうなろうと、誰が何を言おうと何をしようと、俺のやることは変わらない。

こんな狀況で自分の想いを改めて考え直すと、なんだか自然と笑えてくるから不思議だ。

「伊上さん。なんで、そんなに落ち著いていられるの? どうして笑っていられるの?」

だが、宮野はそんな俺の様子が不思議だったのか、いつもとは違って若干弱々しくじる聲で問いかけてきた。どうやら言葉遣いも気にする余裕がないようだ。

……不安そうだな。まあ當たり前っちゃあ當たり前か。

こんな狀況であんな演説があったら、間違っているのは自分たちなのかもしれないと思ってもおかしくないかもしれない。

こいつらはまだ學生っていう多な時期だし、ダンジョンに潛って人助けをしようなんて考える正義がある奴らだから、自分の在り方に迷うのも無理はない。

改めて周囲にいる奴らを見回してみるが、他の生徒たちだけではなく教導たちの中にも同じように混してる奴がいる。

まあ、教導だって俺なんかに比べると若い奴らしかいないし、正義だってある奴らだろうからな。迷うこともあるだろう。お前らは『教導』なんだから、もうちっとしっかりしろって言ってやりたいけどな。

……仕方ない。このまま何もしないで救世者軍の正義に共されたり自暴自棄に暴走しても困るし、どれくらい効果があるかわからないが、ちょっと手を打つか。

そう判斷すると、俺はできる限り靜かに、迅速に、一つの魔法を使ってから不安そうに聞いてきた宮野の言葉に答えた。

「そりゃあ、俺だって驚きはあるさ。でも、だからって『じゃあ地球のために死にましょう。人を殺しましょう』なんて思うか?」

「それは……思わない、けど……」

宮野は俺の言葉に答えたが、それはつっかえながらはっきりとしないものだった。

「より良い世界を作る。それは構わないが、そのために誰かを殺すってのは、れられないし、れるつもりもない。それに、そのことを容認すればそれは俺だって殺されるかもしれないってことだろ? 俺は死にたくないんだ。だからそんな世界の在り方なんて認めてやるか馬鹿野郎。ってわけだ」

普段の俺ならやらないような大袈裟に見える振りをえながら、俺は自分の考えを宮野と周りの奴らに伝えていく。

だが、それでも宮野は難しい顔をしたまま答えない。

……思ったよりも重癥かもしれないな。

まあ、こいつは元々正義や責任の強い奴なくせに妙なところで素直だったりするからな。

「悩むなとは言わないし、考えるなとも言わない。だが、難しく考え過ぎんな。こう言う時こそ頭を使わずにシンプルに考えて突っ走ればいいんだよ。いつものこいつみたいにな」

「……え? あたし? ……いつものあたしって、それ馬鹿にしてるように聞こえるけど……シンプルってどんなよ……」

俺は話をしながら淺田を指さしたのだが、突然話を向けられたことで、淺田は混しながらも不満げに文句を言ってきた。

だが、こいつは宮野とは違ってそれほど迷いがあるように見えない。

「簡単だ。——ここにナイフがあるが、ちょっと持て」

「え?」

淺田からの問いに応えるように、まだ迷いが見てとれる宮野に俺が持っていたナイフを持たせた。

そして突然のことで不思議そうにしながらもナイフをけ取った宮野の手を取って、その手をかしていく。

「で、これを、こうして首に當てる」

「ちょっ!?」

突然ナイフを持ったままの手を俺の首に押し當てるようにかされたことで、宮野は慌てながら手を引こうとしたが、無理にかせば俺の首を切ってしまうとでも思ったのだろう。その手のきはピタッと止まった。

「どうだ? このままナイフに力をれれば俺は簡単に死ぬが……お前は、俺を殺したいか? 死んでほしいと願うか?」

「なっ!? 何馬鹿なこと言ってるのよ! ふざけないで! そんなこと思う訳ないでしょ!」

宮野はそれまで迷ったような様子だったのに、すぐさまそんなそぶりを消して當たり前のことのように怒ったことがしだけ嬉しくて、小さく笑ってしまう。

「だろうな。知ってる。だからそんな簡単なものでいいんだよ。隣にいる誰かに死んでほしくないから殺さない。守りたい人がいるから守る。それでいいんだ」

そう言いながら宮野の頭に手を置いて、そのまま暴にぐりぐりと頭をでる。

そうすると宮野もじていた不安を多なりとも和らげることができたのか、まだまだいつも通りとはいかないものの、それまでの強ばった不安げな表を消して息を吐き出した。

とはいえ、宮野や淺田達はないだろうが、これだけじゃこいつら以外の周りで聞いている奴らは『守りたいもののために誰かを殺す』、なんて考えになりかねない。

だから、もうしだけ言葉を重ねる。

「守りたいなら、誰も殺すな。殺せばそいつやそいつの関係者から恨まれることになり、結果として守りたいはずのものを壊すことになるぞ。何も特別なことをしろって訳じゃない。今まで通りでいいんだ。今まで通り日常生活をしてれば、この馬鹿騒ぎも終わる。そのための警察やら政府やらなんだ。だから——」

そこで言葉を止めると、俺は宮野の頭においていた手をかして、口元へと持っていった。

そして頭に乗せていなかった逆の手も同じように宮野の顔へと近づけると、そのまま頬を挾み込むように手を當てて——摘んで引っ張った。

「わひゃっ。ちょ、にゃに!?」

「そうやって笑ってろ。無邪気に笑ってられんのは學生だけの特権だぞ?」

頬を摘んで引っ張ったまま安心させるように笑いかけたやると宮野は顔を背けようとしたが、俺に摘まれているので逃げることができなかった。

そのせいで宮野はジトッとした目でこっちを睨みつけると、ぺシンと音を立たせて自分の頬を摘んでいる俺の手をはたき落とした。

「……離してください。……まったく、もう」

宮野はそう言って自分の頬に手を當て、何かを直すようにフニフニとかしているがどことなく笑っているように見える。

「とりあえず、今はここで大人しくしとけ。ゲートからモンスターが出てくるかもしれないし、そのうち學校側から指示があるだろ」

「そう、ですね」

俺の言葉を聞くなり真剣な様子で頷いた宮野を見て、この様子なら大丈夫だろうと判斷すると、こちらを見ていた淺田達に話しかける。

「お前らも、不安そうにするな、なんて言っても無理だろうが、落ち著いて行しろよ。特に淺田。お前は何かあるとそのまま突っ込んでいきそうだからな。勝手に行くんじゃないぞ」

「わかってるってば。あたしだって長してるんだから、昔みたいに突っ込んだりなんてしないって」

ま、だろうな。本當にこいつらは長したもんだよ。

最初の頃は敵に突っ込んで行ってた淺田も今では勝手に突っ込むなんてことはないし、突っ込んで行ったとしたらそれは、その行が最善だと判斷した結果だろう。

そう思えるくらいには立派に長したし、それはこいつ以外の奴らもそうだ。

だがしかし、それを理解していても俺は冗談めかして話を続けていく。

「本當に大丈夫かぁ? なんなら、どっか行かないように手でも握っていてやろうか?」

「えっ?」

冗談めかして言った俺の言葉を聞いて、淺田は自分の手を見た後にちょっとだけこっちにばそうと手をかしたが、すぐに引っ込めた。

「い、いらないし! 不安がってるなんて、そんなことないから! 子供扱いしないでくんない!」

「二十も離れてりゃあガキだろうが」

淺田はフンッとそっぽ背いてしまった。普段はそれなりに突っかかってくるというか、隙あらば攻める、みたいなじで寄ってくるくせに、こういう時は來ないんだよな。

まあ今のは好きな相手から子供扱いされたくないって気持ちからの行だろうな。

……でもまあ、これだけやれば十分か。なくともこの場にいる奴らは平気だろう。と思う。

「なんだか、落ち著いてきてない、かな?」

が落ち著いたことで周囲を見る余裕ができたのか、北原は辺りをキョロキョロと見回しながら不思議そうに首を傾げているが……そうでなくては困る。

そのためにわざわざ一手打ったんだから。

「ん。浩介の魔法」

「え? 伊上さん何かしてたの?」

宮野はわかっていないようだが、やはりというべきか、どんな魔力でも視認することのできる安倍は俺が魔法を使ったことに気がついていたようだ。

俺が魔法を使って何かをしていたということを知ると、宮野達は安倍も含めて全員が俺のことを見てきた。

「まあな。でも、やっぱお前は気づいたか」

「ん、當然」

しかし、答えた方がいいんだろうか?

別に言っても問題があるってわけでもない気もするし、そもそも必要なことだったからやったわけなんだが……言ったら言ったで怒られそうな気もするんだよなぁ。どうしたものか。

「魔法で落ち著かせたって、何したの?」

なんて悩んでいると、淺田が首を傾げながら問いかけてきた。

「……聞きたいか?」

「え、うん。聞きたいけど……まずいの?」

「まあ、まずくはないが……まずいな」

「どっちよ」

「やめておいた方がいい」

「え……晴華まで?」

俺が言うか言うまいか、できれば言いたくないんだよなと迷いながら淺田と話していると、途中で安倍が援護にってくれた。

珍しいことだな。普段は悪ノリってほどでもないが淺田達の味方をするのに。

いや? これもある意味宮野と淺田の味方をしているのか? 聞いたら傷つくってほどではないが、多分……いやまず間違いなく恥ずかしい思いをするだろうし。

「気になるわね」

「そう、だね。晴華ちゃんも言うとなると、気になるよね」

「で、結局なんなのよ。何したっての?」

「……怒らないか?」

「怒られるようなことなの?」

「場合によっては?」

「噓。まず間違いなく怒る」

「何それ。早く言いなさいって。言わないと怒るから」

「どっちにしても怒られるのか……」

言っても言わなくても怒られるのか俺は。

ならそこまで聞きたいってんなら教えてやろう。

ただし、その前にもう一度意思確認というか最終確認をしておくか。

「ほんっとーに、聞きたいのか?」

「いいから言いなさいって」

仕方がない。多分文句を言われるだろうが、さっき俺が何をしていたのか教えてやろう。

「さっきの會話。最初から最後まで俺の魔力でできる限り広範囲に拡聲したんだよ」

あの救世者軍の仮面の畫が終わって周りがちょっとヤバめの雰囲気になっていたのを見て、しでも雰囲気を和らげることができれば、しでも學生達の考えをいいじに導できれば、って思って俺たちの聲をできる限り……最低でもこの場にいる生徒達には聞こえるくらいには聞こえるように魔法を使ったのだ。

音に関する魔法は風系統だが、それほど広くない範囲にただ聲を拡げるだけなら風の適がない俺でも使うことはできる。

俺としてはあんなラブコメ風の漫才みたいなやりとりを見聞きされるのは恥ずかしい気持ちはあったが、必要なことだったので仕方がないと割り切ることにした。

実際、あの宮野や淺田との掛け合いを聞いていたこの場に集まっていた者達は、どこか張が薄れたようなじで話しているものが多くなった。

なのでやったこと自は間違っていなかったはずだ。

「……」

「……」

しかし、それを聞いた宮野はピシッと巖になったかのように固まり、俺を見たまま黙り込んでしまう。

「……? かくせい?」

しかし淺田は、宮野とは違って俺の言った言葉の意味をすぐには理解できなかったんだろう。

いや、理解はできるけど、頭がそれをれるのを拒絶したじか?

こてん、と首を傾げると、なんだかし間の抜けた様子で俺の言った言葉を繰り返した。

「そうだ。つまり……あー……」

「この場所に集まってる人は全員聞いてた」

俺が言い淀んでいると、安倍が軽く呆れたようにため息を吐きながら俺の代わりに説明してしまった。

「き、聞いてたって、さっきの私や佳奈たちとのやりとりを、ですか?」

違ってほしいと思いながらも、そうなんだろうということは理解しているんだろう。宮野は引き攣った表を浮かべながら問いかけてきた。

「ああ」

「……ああ」

だが、そんな宮野の言葉にはっきりと頷いて返すと、宮野は恥ずかしそうに顔を両手で覆って俯いてしまった。

淺田はまだ飲み込めていないようだが、しすると驚きのびを上げるだろうな。

「………………はあっ!?」

そんな俺の予想はあっていたようで、淺田は目を見開いてんだ。

今の淺田は、表だけで「わけがわからない」と思っているのが手に取るようにわかるほど分かりやすい狀態だ。

だが、そのびはなんの魔法も使っていないのだから、當然ながら俺だけではなく周囲にいたもの達も聞こえてしまう。

その淺田のびを聞いて周囲にいた生徒達は再びこっちへと視線を向けたが、混している狀態の淺田はそんなことに気がつかないようで、俺に突っかかってきた。

「あ、あああ……あんたねえっ!」

しかし待ってほしい。

確かに俺は勝手にこいつらの聲を周囲の奴らに聴かせたが、その容の大半は宮野だった。

こいつに関しては最後の勝手に行するな云々くらいしかみんなに聞かれていないはずだ。あとは途中の反応とか不意の質問とかそれくらい。

は恥ずかしいかもしれないが、それほど起こるほどのことでもないんじゃないだろうか? ……まあ、手を繋ごうかなんて言ったが、それも誤差の範囲だ。気にするな。

「いや、待てよ。お前特に被害ないじゃん。あっても本當にしだけだろ?」

「そのしが問題なんじゃない!」

だがそのことを伝えても淺田は納得できないようで、怒ったような鋭い目つきで俺を睨んでいる。

「いやいや、もうちょっとよく考えろ。宮野の方が被害甚大だろ? それに比べれば直後にあったお前のことなんて誰も気にしないって」

「あぁ……」

宮野の方が……なんて聞いたせいで改めて自分の狀況を理解したのか、顔を覆っていた宮野からけない聲が聞こえるが、気にしない。気にしたら負けだ。

「でも、あんた——」

「と言うかだ。今ここでんでいいのか? 拡聲は切ってあるが、それでも周りには人がいるぞ?」

「あ……うう〜……」

さらに言い募ろうとする淺田の言葉を遮るようにして今の狀況を伝えてやった。

すると淺田はハッとしたように周囲を見回したが、周りにいた生徒達のニヤニヤしたような笑みだったり、俺に対する悔しげな表を見て何も言えなくなり、唸るだけで終わった。

唸っているがこっちを見ている淺田の顔は、恥ずかしいような怒りたいような々と葛藤の見える複雑な顔をしている。

「あんた、ちょっとこっちに來なさい」

「校舎裏に呼び出そうとする不良かよ」

そして何を思ったのか、再び俺のことをキッと睨むと親指で方向を示しながらついてくるように言った。

その様子が一昔前の不良やいじめっ子のように見えてしまい、ついツッコミをれてしまった。

「悪いが、無理だな。ここから離れるわけにはいかないだろ。そのうち學校側からなんか指示があるだろうし、なくともそれまではここで待機だな」

俺がそう言って肩を竦めると淺田は悔しげに唸ったが、それ以上は何もするつもりがないのか、フンっと顔を逸らしてしまった。

そんな様子に苦笑するしかないが……まあ、なんにしても最低限は落ち著いたようでよかった。

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