《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》拠點の移

「——それにしても、おかしなことになったね。學生だけじゃなく、社會全としてはついこの間新しい生活が始まったばかりだと言うのに」

とりあえずどうしても話さなければならないことは話し終えたのか、佐伯さんは立ち上がると部屋の隅に向かって歩き出した。

その先を見るとカップやら何やらのセットが置いてあったので、お茶でもれようとしているんだろう。

「ですね。新學期が始まってからまだ一ヶ月経ってないのに……ああそうだ」

と、そこでふと疑問が出てきた。まあ疑問と言っても大したことではない。

「そういえば、先ほど他の學生達も員されると言っていましたよね?」

「ん。ああ、そうだよ。そういえばまだ言ってなかったか」

佐伯さんは歩いた先にあったポットに茶葉をれ、そこに魔法で生み出した熱湯を注ぎながら返事をした。

そういえばこの人、こんなところで研究者なんてやってるけど二級の覚醒者だったな。

まあゲートやダンジョンについて調べるんだったら自分も魔法が使えた方がわかりやすいだろうし、ある意味では適材適所か?

「君もいるかい?」

「ええ。ありがとうございます」

佐伯さんはそう言ってポットを掲げて見せたので、俺はそれに頷いて答えた。

そして二人分のお茶をれた佐伯さんはそれを持ってこちらに戻ってきて、そのうちの片方を俺の前に置いて自分は先ほどまで座っていた場所に座ると、自分のお茶を飲んで一息ついた。

「學生達についてだけど……君たちのところだけではなく他の學校ふくめ、學生の一部は協力するように要請が出るらしいね」

ある程度は予想していたけど、やっぱりそうなるか。

「戦力を遊ばせる余裕はないですか」

「だね。だからこそ勇者を強引に使おうとしているわけだし。——で、まあ、學生とは言っても、一級や二級の上位だけだ。それならば下手な冒険者よりも戦力になる」

なるほど、學生といっても全員じゃないわけか。

だが、それもそうか。

普通に活しているプロの三級冒険者なら役に立つだろう。けど、まだまだ學ぶべきことが多く、まともに命をかけてダンジョンに挑んできた経験があるわけでもない學生は、たとえ一級であっても場合によっては足でまといになる。

何せ俺が出會った時の宮野達がそうだったんだ。才能はあるし力もある。だが使いになるかと言ったら、必ずしもそうではない。

まだ新學期始まったばかりでろくに訓練をけていないような一年はそもそも論外であるとして、二年であってもその習度合いによっては役に立たない。

それならば覚醒者だからと參加させて『おもり』にプロ達の手を割くよりも、最初っから使わないでいた方がいいだろう。

プロに混じって活していた俺から見ても、學生とはいえ上位の奴らはプロと遜ないくらいに活できるからな。

まあ、そこに力や技だけではなく、命をかける覚悟があるのかって言ったらわからないが、そんな見てわからないことを考慮している余裕は現狀ではないだろう。

しかし、學生を使うのはいいとしても、問題がないわけでもない。

「一応聞きますけど、安全の保証とかはしてあるんですか?」

「わかっているはずだ。保証なんてできないよ。ただでさえ今の狀況はどうなるかわからないんだ、できるはずもない」

だよな。保証ってのは、最低限の安全を確保しただけではできないのだ。

生き殘るための安全を確保し、その上で「今後はどうしましょう」なんて悩むことができる程度に安全な狀況を作り出さなければ、保証なんてものをする余裕は生まれない。

だが、保証することができなくても、それで文句を言うような奴がいたとしても、それでもやらなければならないんだってのもわかる。

「でも、保証はできないけど、十分に備えはしているはずだよ。今の狀況では、戦力が一人であっても減るのは避けたいだろうし」

人を戦力という數字で考える世界か。まるで戦爭だ……いや、まるでじゃなくて戦爭なのか。人間と、それを壊そうとする勢力での生存をかけた戦爭。それが今の狀況だ。

「今度こそ僕からの話しは終わりだ。他に何かあるかい?」

「なら一つ。これからどうするつもりですか?」

これだけは聞いておきたい。まだ今の段階では何も決まっていないだろう。何せ世界中でのゲートの発生も、救世者軍の畫も、まだほんの數時間前に起きたばかりなんだ。

だがそれでも、ニーナや宮野達を使って危険に曬すんだ。なら、俺は保護者として、教導として、先を見なくちゃならない。でなければ、あいつらだって不安に思うだろうし、そのせいで危険な目に陥るかもしれない

だから俺は、朧げでもなんでも、先を見據えて行するべきなんだ。

……こんな狀況で、『先』なんてものが見えるかはわからないけど。

「これから、か。……正直なところ、何も決まっていない、って言うのが正しいかな。あくまでも僕のところに來た報では、だけど」

そう前置きをれたが、それでもこの人はそれなりの立場にいるんだ。そんな人のところに來た報なら、それなりに信頼度はあるだろう。

「今のところはゲートを片っ端から減らす方針でいるけど、そんなのは無理に決まってる。あくまでもそれで解決できたらいいな、程度の考えだ。だから、それは時間稼ぎでしかない。今回救世者軍はゲートを開いた訳だが、意図的に開くことができるなら閉じることも可能なはずだ。その方法を探すことになっている」

だが、それがどれほど無茶なことなのかわからないわけではないだろう。

そう言った佐伯さんの表は、今までに見たことがないくらいに難しいものとなっていた。

「見つかりますか?」

「見つけるしかない。……それも、わかってるだろう?」

見つけるしかない、まさにその通りだ。もしゲートを閉じる方法が見つからず、このままずっと増え続けるってんなら、その先にある未來は——

……やめておこう。病は気から、とはし違うが、悪いことを考えても悪い方にしか進まない。いいことなんて考えられる狀況でもないが、それでもせめて悪い未來なんて想像しないようにしよう。

だが、俺は佐伯さんの言葉に何も返すことなく、ただ無言の時間が流れた。

──◆◇◆◇──

「——そう言うわけで、しばらくの間俺は家じゃなくて研究所の方にいることになった」

「まあ仕方がないですよね。こんな狀況ですから」

世界中でのゲートの発生や救世者軍の畫などのあれこれがあった昨日、研究所から戻った俺は、明日話したいことがあるという旨を宮野達に送った。

そして今日、學校は休みとなったがいつもの時間にいつものように食堂に集まってから場所を宮野の部屋へと移し、昨日佐伯さんと話した『勇者』としての活の件や研究所へと拠點を移す件を話していた。

「それで、なんだが、お前たちはどうする? できることなら一緒にいてほしいってのが向こうからの要だし、俺としても一緒に行する以上できる限り近いところにいたいってのはある」

なんて言われても、すぐに決めることはできないだろうなと思っていた。

だがそれでも、明日からは本格的にくことになるわけだし、できるだけ早く決めてもらわないといけないのだ。

急に話が進んで悪いとは思いながらも、どういう反応をするだろうかと宮野達の顔を見回そうと思って俺は顔をかそうとした。

「構わない」

だが、俺が何かするよりも早く、安倍は特に考える時間を取ることもなく俺の言葉に頷いた。

「早いな。考えなくていいのか?」

「考えた。でも、どうせ家にいても価値はない」

意味がないでも、結果を出せないでもなく、価値がない、か。

こいつもこいつで家のあれこれがあるし、面倒なしがらみやら何やらから逃げるのにはちょうどいいのかもしれないな。

……それに、前にヒロに聞いた話だが、安倍の家は本家だか分家だかが救世者軍と関わりがある可能がある、みたいな話を聞いていた。

「私も構いません。どうせ寮暮らしでしたし、両親は近くにはいませんから」

宮野も安倍に続くようにそう言ったが、まあこいつは予想通りだったな。

だが、そう言った際にし悲しげなように見えたのは気のせいじゃないと思う。

「そうか。お前たちはどうする?」

「わ、私は……」

しかし宮野がそんな顔をした理由ってのは家族のことだろうし、そのことについて今突っ込んで聞くことでもないので、俺は殘る二人……淺田と北原に顔を向けて問いかけたのだが、北原はなんと答えるべきか悩んでいるようではっきりしない。

「ねえ、それって家族の保護とかしてもらえないの?」

淺田は特になんの事もないわけだし、家族は割と近くに住んでいたはずだ。それこそ學校帰りにでも行こうと思えば行ける程度の距離だ。

実際時折會いに行っていたみたいだし、不仲というわけでもないんだから、そりゃあ気になるか。

でも家族の保護か……その辺は聞いていなかったが、平気だと思う。

「……一応特別に危険なことを頼まれてるわけだし、頼めばできると思う」

周りの奴らが襲われている狀況で保護するってのは明らかに特別扱いだが、淺田達は勇者である宮野と一緒のチームということで他の者達よりも危険なことをするんだから、それくらいの優遇措置は求めても平気なはずだ。そんなところで斷って実力を出せなくなったり、言うことを聞いてもらえなかったりするのは損でしかないからな。

「じゃあお願い。それなら場所を移ってもいいし協力もする」

しかし、場所を用意するって言っても、俺たちが滯在することになる研究所で一緒に、ってのは無理だろう。あそこは一般人向けの場所ではないし、機的なものが々あるからな。だから、多分どっかの政府の手のった施設に行くことになると思う。

「研究所に一緒に、じゃなければ大丈夫だと思うが、それでもいいか?」

「うん」

淺田は俺の言葉を聞いて頷き安堵した後、やる気に満ち溢れた表になった。

「あの、私も、両親のことをお願いします」

「わかった」

北原も家族のことが気にかかっていた様子で淺田に続いて北原も家族の保護を願い出てきたので、了承した。

そして、一応……本當に一応、宮野と安倍に顔を向けたが、二人ともそんなものは必要ないとばかりに首を振った。

そして俺たちは揃って研究所に拠點を移すこととなった。

    人が読んでいる<[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください