《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》ニーナとの話し

「お父様? 今日も來てくださったのですか?」

「ああ。悪いな、なんの報せもなしに」

「そんなことは! あ、今お茶をれますね!」

宮野達と話した後はすぐに佐伯さんに連絡し、淺田と北原の家族を保護してもらった。その際に二人は電話で家族と話していたみたいだが、その電話を終えると簡単ながら荷をまとめて研究所にやってきた。

そして今は、宮野達はそれぞれ用意された部屋に案されて、荷を置いたり施設の構造の確認をしたりしていることだろう。

まあこの場所の構造なんてそうそう覚えられるものでもないし、簡易的な地図かなんかが渡されるだろうが。

俺はアパートに置いてあった荷の大半は裝備品やそれの調整見使う道。それか服が大半だったので、必要最低限のものだけカバンに詰め込んで持ってきただけだ。服も裝備も、わざわざ持って來なくてもここで揃えられるからな。

一応それらも後で回収して持ってきてくれるらしいがな。まあこんな狀況だし、武裝やなんかはできる限り節約したいってのが人か。

そんなわけで、その持ち込んだ最低限の荷を詰め込んだ鞄を研究所の職員に渡して俺の部屋に持っていってもらい、俺はその間にニーナに話を通しておこうと思ってここにきた。

「昨日は大変だったみたいだな」

お茶をれて俺の前に置いたニーナは嬉しそうな様子で俺の対面に座った。

そんなニーナにお禮を言ってからお茶を一口飲むと、俺はそう切り出した。

は繋がっていないとはいえ、仮にも親子の會話としては緒も何もあったものではないかもしれないが、聞くだけのことは聞いておかないといけないので仕方がない。

「はい。休んでいたところを起こされて五つものゴミ掃除をしろと言われた時は、思わず〝やって〟しまいそうになりましたが、なんとか堪えました」

ゴミ掃除か……。俺にとっては命懸けで何日もかけるようなゲートの処理も、ニーナにとっては一日に何個もこなせる程度の〝ゴミ〟でしかないわけだ。

わかっちゃいたが、やっぱりこいつは規格外だな。頼もしいことではあるが、それと同時にやるせない気持ちにもなる。

ニーナみたいな力の持ち主がいたらこんな異常事態でも楽に解決するんだろうが、この子が力を持った経緯や育ってきた環境を考えると、ニーナくらいの力を持った奴は他に生まれない方がいいと思う。

「そうか。それは何よりだ。お前も長しているようで嬉しいよ」

だがそれでも、今生きているニーナに死んでほしいと言うわけではない。

むしろ生きてほしい。しっかりと生きて、幸せに笑っていてほしい。

だからこそ、ニーナが人間社會で生きるために力の制ができるようになるのはむところで、本心から嬉しいと思い俺はニーナを褒めた。

「本當ですか? でしたらまた一緒にどこかにお出かけしたいです!」

しかし、そう言われたことで俺はぴくりと反応して眉を寄せてしまった。

頑張ったのならそれ相応に褒があるべきだと思うし、俺としてもニーナとどこかに出かけるのはやぶさかではない。

ただの街に出かけただけで喜んでくれるのなら、どこへ連れていっても楽しんでくれるだろう。

今はニーナも落ち著いてきたので多無理を通すこともできるだろうし、時間的な制約も緩くなっているので前よりも行き先の選択肢が広がっていると思う。

だが、時期が悪い。

「あー、悪いが、それはできないな。お前も聞いているだろうが……今は救世者軍がやらかしたんでな。その対処をしているんだ。それが終わるまではどっかに遊びに行く余裕なんてないんだ」

「そう、ですか……あの者らは処理したはずですが、甘かったようですね……っ」

正確には救世者軍の前となる組織だが、ニーナは自分を攫い、そして非道な実験をしていたその組織を潰している。

だが、それはあくまでもその場所は潰した、と言うだけだった。他の場所、他の國にあった拠點は潰すことはできていないし、その殘黨を吸収した救世者軍も同様のこと。

むしろニーナが捕らえられていた當時よりも巨大で過激な組織となっている。

そしてその救世者軍が今回〝事〟を起こした。

ニーナはそのせいでお出かけが出來なくなったことを知り、口惜しげに端正な顔を歪めてしまった。

「まあ、代わりってわけじゃないがこれからはこの騒が終わるまで俺はここで寢泊まりするから、一緒にいる時間は増えるだろうな。だからそれで満足しとけ」

「本當ですか!?」

「ああ。俺もゲートの処理のためにかなくちゃならないからずっとってわけじゃないがな」

「なら、もっとお話ししたり、一緒に寢たり、お風呂にったりできるんですか!?」

……待て。話は、いいとしよう。普通のことだしな。寢るのも、まあギリギリ良し。見た目はアルビノで神的なだが、中はまだまだ子供で、俺たちの関係は親子だ。だから一緒に寢るのもおかしい話ではない。

だが、風呂ってなんだ? 確かに親子なら風呂にることもあるだろう。だがそれは、もっとじの小學校低學年くらい、いっても中學年程度までの子供の話だ。ニーナは神の長度合いにズレがあるっていっても、中はもう十二歳くらいにはなっているはずだ。

……いやでも、十二歳って言っても育った環境がまともじゃないとなれば、風呂にるのはおかしいと思わないのか? 俺たちが『おかしい』って思うのはそう教育されたからで、そんな教育をけてこなければおかしいとは思わないものなんだろうか?

「風呂は……悪いがなしだ」

だがニーナはそう思っていなかったとしても、俺としてはまずいと言う思いしかない。なので一緒に風呂にるのは卻下だ。

「……はい」

ニーナは俺の言葉を聞くとしだけ不機嫌そうに……と言うよりも拗ねたように小さく返事をした。そんな様子に苦笑してしまうが、それもまた良しとも思ってしまう。

ほんと、隨分と人間らしい、って言うとアレだが、しっかりとしたが育ってきたじゃないか。

もう前みたいに退屈にしているか怒るだけのニーナとは全く違うな。

前から俺に対しては親しげに接していたが、それでも何処か壁があり、基本的に今みたいに甘えてくることはなかった。

甘える素振りはあったが、それは上っ面だけのものだった。多分ニーナとしても俺との距離が分からなかったんだろう。何せ今までは実験として扱われてきてまともに人と接したことがなかったわけだし。

そんなニーナが短期間でこれだけ変わった姿を見ていると、その長が我が事かのようにうれしくなる。

俺はニーナの本當の親ではないし、始まりは強引なものだった。親であろうとは思って行してきたし今後もそのつもりだが、俺がニーナの親であるという自負はない。

でも、親ってのはこんな気持ちなんだろうか? そう思わずにはいられなかった。

今回の騒は今までとは比べにならないくらいに大変な目にあうだろう。そんな予がする。

だが、ニーナはまだまだ完全ではないとはいえを抑えるにつけたし、宮野達もいる。もう一人ぼっちじゃないんだ。

だから、もし俺が今回死ぬことになったとしても、ニーナはもう大丈夫だろう。

もちろん死ぬつもりなんてない。ないが……。

……何馬鹿なこと考えてんだか。死ぬつもりがないのは當たり前だ。その上で死なないように考えて行するのが俺だろ。死んだ時のことなんて考えるなよ。

「代わりに、毎日じゃないが夜は一緒に寢てやるし、暇ができたら話し相手くらいにはなってやる。だから、それで我慢してくれ」

一緒に風呂にることを斷られて拗ねたニーナをめるよりも、々と誤魔化す意味合いを含めてニーナの頭をでるが、それだけで楽しそうに嬉しそうにしてくれる。

こんなふうに接して喜んでくれるのなら、親ってのは嬉しいものかもな。

俺の両親はもう死んでいるが、もうし可げのある子供だったらよかったんだろうか?

「明日からは々と勝手が違うことも出てくるだろうし大変だろうが、お前も今はゲートの処理を頑張ってくれ」

「はい、頑張ります!」

ニーナは元気よく返事をすると嬉しそうに笑った。——が、途中からなんだかその笑みが質の違うものになったような気がしてきた。嬉しそうなのは変わらないが、どこか楽しげな様子とでもいえばいいのか? いたずらっ子ってほどでもないが、どことなく嗜心のじさせる笑いだ。

「けれど……ふふ。あの男、約束は守ったようですね」

「約束? 佐伯さんとなんかしてたのか?」

「はい。昨日ゴミの処理を頼まれた際に、お父様がここで暮らせるように部屋を用意すると言っていたのです」

どうやら佐伯さんは、ニーナに言う事を聞かせるために俺がここで暮らす事を條件として出したらしい。

そしてニーナは、『俺がここで暮らす』という自分の願いを聞かせられたから喜んでいるんだろう。

多分ニーナ自にそんなつもりはないんだろうが、王様気質的なあれだろう。命令し、それを葉えさせることが嬉しい、みたいな。

まあ、ニーナに限らず子供は大なり小なりそう言う気持ちを持っているし、むしろそれは子供だけではなく、人間であれば誰でも思うことだろう。ニーナは今まで誰にでも言う事を聞かせることができたので、人一倍そう言う気持ちは強いかもしれないがな。

自分の指示を聞いてほしい。自分の言葉通りに相手がいてくれた。楽しいな、ってなじだ。

だがそれは、今回に限っては多分元から決まっていたことだ。ニーナとの約束なんてなくても佐伯さんは俺と宮野達をここに呼ぶつもりだっただろう。

だから、そのついでにニーナへ約束として提示することで素直に言う事を聞いてゲートの処理に行くように仕向けたんだろうな。

まあ、それがわかったところで言うつもりはないけど。

「そうか。まあ俺がここにいるのはあの人が手を回したからなわけだし、謝しとけ」

噓ではない。初めから決まっていた事だとしても、裏に何某かの思があったのだとしても、実際にあの人が々といたのは事実だからな。

「伊上さん。荷の運びれは終わりました」

そんな事をニーナと話していると、不意に部屋のドアが開きそこから宮野達四人が職員の案けてってきた。

「あら瑞樹、佳奈。來たのですね」

「ええ。久しぶり、と言うほどでもないかしら?」

「最後にあったのは二週間ほど前ですから、どちらでもいいのではありませんか?」

「微妙なところね。……けど、そっか。まだ二週間しか経ってないんだ」

宮野達が最後にここにきたのは、新學期が始まる數日前だ。それから考えると、まあ大二週間か。

「あら、ここには來たくなかったとでも?」

「あ、ううん。そうじゃないのよ。ただ……はぁ」

「昨日だけで々と狀況がいたでしょ? だから、まだ一日しか経ってないけど、なんだか時間の覚がね……」

確かに、これと言って宮野たちが何かをしたわけではないけど、それでも々と考えることもあっただろうし、大変な一日だっただろうな。

々……確かに、面倒なことは増えましたね」

「あんたには面倒で済む話でも、他は々大変なのよ」

今回の騒ぎを〝面倒なこと〟で済ませようとするニーナに、淺田は呆れた様子で肩を竦めて見せた。

ニーナも、自が他人とは違うと言う事を理解しているからか、淺田の言葉に特に反論することもなく、それ以上は何も言わなかった。

「ところで、荷がどうとか言っていましたが、もしや瑞樹達もここで暮らすのですか?」

「ええ。と言っても、しばらくの間だけだけれどね」

「あんたも知ってんでしょ? 外の騒ぎ。それが終わるまではここよ」

「そう。……まあ座りなさい。今お茶をれて差し上げます」

ニーナはそう言って宮野達に席を勧めた後、立ち上がって俺にしてくれたのと同じように部屋の中に備え付けられている臺所に行き、お茶の準備をし始めた。

そう、俺の時にもやってくれたことだが、ニーナは以外とこういった誰かの世話というものが好きなようなのだ。

まあ、世話をする相手は自が認めたものでなくてはやらないのだが。

「——ですが、迷いますね」

宮野達のためにお茶をいれたニーナはそれを持って戻ってきたが、戻ってくると同時にそんな事を言った。

「何がだ?」

「お父様や瑞樹がここにいるのは、害蟲駆除が終わるまでの間なのでしょう? なら、終わらせなければずっといてくれるのか、と」

それは、そうだろうな。俺がずっとここに住むことはないだろう。

救世者軍の起こした騒が終わって、の安全や連絡のつきやすさを気にしなくていいようになったら、俺は元々暮らしてたアパートに戻ると思う。

娘がいるんだからここで暮らせばいいじゃないか。そう思う自分がいるのと同時に、その考えを否定する自分もいるのだ。

なんでって言われても答えに困るんだが……多分だが、ここは俺にとっては『暮らす場所』と言う認識ではない、と言うのが一番俺の考えに近いか?

だから、俺や宮野達と一緒にいたいニーナとしては異常が解決しない方がいいんだろうな。

だが、それでは困る。

ニーナが力を手にれた経緯はともかくとして、その力が有用なのは確かだ。この騒でニーナがくかかないかで結果はだいぶ変わるだろう。

だからニーナにはゲートを破壊し、敵を倒すために戦ってもらわないといけないんだ。

……親、なんて名乗りながら子供の力を利用しなくちゃならないのは、気にらないどころの話じゃないけどな。

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