《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》止まらない異変の強化
そして更に二週間ほどが経過したある日。今日も俺たちはダンジョンのコアを発見し、破壊するためにダンジョンを探索していたのだが、どうにも様子がおかしい。
「ねえ、どうすんのこれ。もう二日も探してるけど、全然コアなんて見つかんないんだけど」
「このまま続けますか? 食料的には問題ないですし、衛生面も、一応問題はありませんけど……」
今回は非常事態ということもあって速度重視で行するために軍用車を借りることができていたのだが、ダンジョンを法定速度なんて無視して走していてもコアが見つからない。
「力の強いモンスターが出るダンジョンってのはそれほど広くないから、もう見つかってもいいと思うんだが……」
モンスターの強さと、ダンジョンの厄介さってのは、反比例する。
複雑で広大なダンジョンほどモンスターは弱く、モンスターが強いほどダンジョンは狹く単純なものになる。
このダンジョンは俺たちに回されてくるだけあって、他の冒険者では対処が難しいようなそこそこ強めのモンスターが出現していた。
なのでもうコアが見つかってもいいはずなのだが、いつもは一日……早い時には半日かからずにコアを見つけることができるにもかかわらず、今回は二日もかけて探しているのに未だにコアを見つけることができていなかった。
こっちには魔力に敏な安倍がいるわけだし、コアを見つけることができなくても、コアの痕跡というか方向くらいは摑めてもいいはずなんだがな。
ニーナの場合はダンジョンの中にって全力で魔法を放つだけで小さなダンジョンであれば部の全てを一撃で焼き盡くすなんて無茶苦茶なこともできるが、俺たちにはそんなことはできない……どうしたものか。
「コアがない?」
俺が運転しながら今後について考えていると、後ろから安倍の聲が聞こえてきた。
「コアがないって……そんなことって、あるの?」
「わかんない。でも、今は普通じゃない。ならありえないことがあってもおかしくない、かも?」
普通じゃない、か。まあ確かに今の狀況は異常だよな。コアを見つけられない狀況が、ではなくてゲートが大量に現れた狀況そのものが、だ。
ここでまた新たな異常が出てきても、おかしいと言うほどおかしいことでもない。
「マップを見る限りはおおよその部分は埋まってるんだよな」
「ひとまず外周部は回ったので、おおよその大きさは把握できましたよね」
「地下とかにあるって言われたらお手上げだけどね」
軍用車で走り回っているだけあって、普段の探索に比べてかなり早く探索することができているが、それでも地下までは流石に調べられない。
とは言え、地下にあったとしても何かしらの反応や変化があってもいいはずなんだが、そう言った『何か』を見つけることはできていなかった。
「今日一日探してみて、それでも見つからなかったら一旦戻ろう」
俺の言葉に宮野達四人はそれぞれ了承の言葉を言いながら頷いたのだが、結局その日はコアを見つけることができなかったために、一旦ダンジョンから戻ることとなった。
そして外に出た俺たちだが、宮野達には念のために裝備の補充と休憩を取らせ、俺は佐伯さんに電話をして狀況説明することにした。
『——そっちでもか』
「そっちでもってことは、他の場所でも?」
『ああ。それほど広い場所じゃないはずなのに、どれだけ探してもコアが見つからないという報告がいくつか上がっているそうだ』
他の場所でも、か。なら、このダンジョンも俺たちの見落としじゃなくて本當にコアがないんだろうな。
……でも、それってまずくないか?
「どうするんですか? コアを破壊できないとなると、このゲートは開きっぱなしと言うことになりますけど」
『まあ、それは仕方ないね。人やを置いて封鎖するしかない。君たちは戻ってきてくれ』
ゲートが開きっぱなしになると中からモンスターが出てくる可能があるので危険になるわけだが、コアを見つけることができないんだったらゲートを破壊することができないので、どうすることもできない。
「わかりました。……これは、狀況が進んだってことですかね?」
『だろうね。……ゲートの発生だけで終わるとは思っていなかったけど、明らかに狀況が変わってきている。気をつけてくれよ』
そんな不吉な気配をじながら、俺たちは今回のゲートの探索を打ち切って研究所へと戻ることになった。
──◆◇◆◇──
それから更に一ヶ月後。コアが見つからないダンジョンはあったものの、あの一件以來そういったダンジョンに遭遇することもなく、俺たちは順調にゲートを破壊してくることができた。
「はー、やっと見つけたー」
「あとはこれに弾をセットして終わりね」
そして今日もダンジョンに潛り、ダンジョンを構築しているコアを発見することができた。
勇者がいるために強めのモンスターが出てくるダンジョンばかり回されるが、その分探索は簡単に済むから俺としては楽でいい。
あとは宮野の言ったように、コア破壊専用の弾を取り付けてからゲートのり口まで戻ればそれでおしまいだ。
「それにしても、弾をセット、なんて言葉を使うとは思わなかったわ」
「そりゃあそうでしょ。あたしだって思ってなかったし」
「普通に暮らしてれば當然」
「普通の暮らしかぁ……戻れるのかな?」
車の中に積んだ荷から弾を取り出そうと漁り始めたところで、宮野達のそんな會話を聞いてしまい、俺の手は止まってしまった。
普通の暮らし……もう三ヶ月近く前になるんだよな。いや、むしろまだ三ヶ月経ってないというべきなのか?
まだゲートの発生原因も止める方法もわかっていないが、そのうち元の生活に戻れるようになるんだろうか?
もしかしたら、ずっとこのままゲートを警戒し続ける生活になるんじゃ……。
「「「……」」」
しかし、漠然とした不安をじたのは俺だけではな勝ったようで、宮野達も黙り込んでしまった。
「あー、ほら。とりあえずさっさと終わらせちゃお!」
そんな暗くなってしまった空気を吹き飛ばすかのように淺田が頭を振りながら聲を上げた。
「というわけで、あとお願い」
淺田はそう言うと、なんでもないかのように笑いかけながらいつものようにそう言ってきた。
宮野はその強さでみんなを安心させるが、こいつはムードメーカーっていうのかね。そういう強さ以外のところでみんなを支えている。
もちろん今の淺田はそれだけではなく強さもあるわけだが……ありがたいし、頼りになる存在だよ、ほんと。
そうして一度だけ大きく深呼吸をしてから作業をしようとしたところで、電話が鳴った。
なんだ? ゲートの中では電波なんて屆いていないからケータイが鳴るはずないんだが……。
「電話? 誰だ? ……佐伯さん?」
どうして電話なんて、と思ったが、こんな時にこんなところで電話が鳴るんであればそれは異常事態だ。
だから俺は、特に何かを考える前に電話に出ることにした。
「は——」
『良かった、まだ繋がったか!』
「……どう言う意味ですか? それに、どうやってダンジョンまで電話を?」
電話に出ると何だか慌てたような佐伯さんの聲が聞こえてきた。
何だ? 何があった? 今までこの人のこんな慌てたような聲、聞いたことがないぞ。
『今ゲートのり口に人を送ってそこから中継して——って、そんなことよりも! コアを見つけたかっ!?』
「はい。それらしいのはあったので、弾を——」
『ってはいけない! ったことによって自壊したコアがある!』
「っ!」
その言葉を言いた瞬間に俺はすぐさまコアへと視線を向けたが、そこには何の異常も見られない至って普通のコアがあるだけだ。
「それは、った者は……」
『ダンジョンの崩壊と一緒に、どこかへ消えたよ』
コアを破壊するには、自前でやるにしろ弾を使うにしろ、コアを直接らなければならない。
だが、った瞬間にコアが崩壊するのだとしたら、それは弾なんて意味がなくなる。
それに、そんなっただけで、なんて些細なことで壊れるようであれば、今この瞬間に何かが起きてコアが壊れてしまってもおかしくはないということでもある。
そう思い至ると、俺は無意識のうちに手を握りしめてしまった。
『コアらしきものを見つけたんならそれで十分だ。今すぐに戻ってきてくれ』
「……わかりました」
嫌な予をじながら、俺たちはコアの近くに位置を示すビーコンだけを置いて再び車に乗り込み、ゲートへと向かって戻っていった。
──◆◇◆◇──
俺たちがゲートから帰った時にはすでに佐伯さん達はゲートの大量発生があった時のように慌ただしくいており、ろくに話ができる狀況ではなかった。
後で聞いた話では、俺たちは連絡をもらってコアにる前に撤退することができたが、それができずにコアの破壊と共に起こったゲートの崩壊に巻き込まれて何十、何百組もの冒険者が姿を消したそうだ。
だが、その慌ただしさがあったおかげなのか翌日には全ゲートの封鎖が行なわれ、一週間後には誰も勝手にゲートを破壊することはできなくなった。
しかし、それではただゲートからこちらにやってくるモンスターに殺されるだけになってしまう。
當然ながらそんなことを許すわけにはいかないので、コアを破壊はしないがゲートの中でモンスターだけを狩って何とか狀況を維持することになった。
しかし、コアにっただけでゲートが崩壊するということはそれだけゲートが不安定になっているということで、コアにらずとも突然ゲートが崩壊する可能はある。
なので俺たちのようなそれなりに重要なもの達は、ゲートの外に出てきたモンスターだけを駆除することになった。
とはいえ、最初ほどではないにしてもどんどん數を増すゲートを全く破壊しないままではそのうち対処が追いつかなくなる。
そこで、勇者には死んでもらっては困るので使わないが、それなりに実力のある冒険者と生贄を用意してしづつでもゲートを処理していくことになった。
だが、使う戦力に制限をかけるということはそれだけ危険が増えるということであり、実力があると行っても結局は人間。ゲートの探索中に何人も死ぬこととなった。
自分たちが行けばもっと被害を減らせると分かっていても、行ってはいけないという狀況に、宮野達は悔しそうに歯噛みしていた。
それからさらに一ヶ月経った今日、俺たちは佐伯さんに呼び出されていた。
「ああ、來てくれたか。座ってくれ」
佐伯さんに勧められるままに席についた俺たちだが、普段になく真剣な様子だ。
「君たちも気になってるだろうから前置きは省こう」
こんなに急に話を進めるってことはもしかして……
「コアに異常がで始めたのと同時に、複數の地點で魔力の流れに異常が出始めたんだが、それを調べて行った結果、原因……と呼べるかはわからないけど、いくつかゲートと繋がっている場所を見つけることができた。それも、明らかに人の手がった、ね」
「人の手がった、ということは……つまり救世者軍の拠點ということですか?」
「おそらくは、そうであってほしいと考えているみたいだね」
そうであってしい、か。それらしいじはするけど、確証はないってことか。
まあ深りして気づかれてもアレだし、仕方がないのか。
「ならそこを襲撃すれば」
もしかしたらこの異変も終わるかもしれない。
だが、希が見えてきたわけではあるのだが、同時に不安もある。
「ああ。……だが、これはある意味賭けだ。拠點は世界中にいくつも見つけた。それを完全に壊すとなればそれなりの戦力を用意しなくちゃいけないわけだけど……」
そう。敵を襲撃するなら連絡と対策をされないように全部を同時に仕掛けないといけない。
だが、今はゲートの対処をしているのに一杯の狀況だ。襲撃するような戦力なんて、それもいくつもの場所を同時にだなんてできる余裕があるわけがない。
それでも襲撃をしたいとなるとどっかから無理にでも戦力を持ってこないといけなくなるわけだが、それがどこからかっていうと……
「襲撃している間はゲートの警備が薄くなる?」
「そう。それで完全に潰せればモンスターによって何萬人死のうがどうとでもなる。けど、失敗したら……」
佐伯さんはそう言うと大きくため息を吐き出したが、それも仕方がない。襲撃に功して完全に異変が終わればゲートを放っておいて出た被害も許容できるが、襲撃に失敗してさらにゲートを放っておいた被害まで出たとなったら目も當てられない。
しかしこのままでいたとしてもいずれはジリ貧になっていくだけだ。それがわかっているからこそ、賭けの要素があったとしても、危険だったとしても、どうあってもやらなければならない。
そしてその襲撃には、最低限対処しなくてはならない場所のゲートの守りだけ殘して、集められる限りの戦力を集めることになるだろう。
それは當然『勇者』である宮野と、そのチームメンバーである俺たちもその襲撃に參加することになる。
「先日話し合いが行われて決まったことだが、今日から一ヶ月後。その正午に世界各國が同時に見つけた拠點らしき場所へと攻め込むことになった。君たちはその時に『勇者とその一行』として危険の大きな場所へと言ってもらうことになる。だから——」
そうして、俺たちは敵の拠點を襲撃することとなった。
「準備と、覚悟をしておいてくれ」
葉うなら、この戦いが最後であることを願ってるよ。クソったれな神様よぉ。
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