《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》作戦前・佳奈とニーナ

「——そんなわけだ。明日は頼むよ」

「ええ。わかってます。絶対に、とは言い切れませんが、最善は盡くすつもりです」

「そこは絶対にと言ってしいところなんだけどね」

敵の拠點を襲撃する予定の日を翌日に控えた今日。俺は佐伯さんと明日のための打ち合わせというか最終確認をしていた。

話し合いを終えた俺は部屋を出ると大きく息を吐き出して歩き出す。

設定していたはずの一ヶ月後というのは、もう明日に迫っている。明日には俺たちはこの馬鹿騒ぎの元兇がいる可能が高く、同時に危険度も高い場所へと向かうことになっている。

だからこそ、その前に宮野と淺田の二人とも安倍達と同じように話をしておこうと思ったわけだが——ここで問題が一つ。

「……なかなかなぁ。踏ん切りがつかねえんだよな……」

こんな狀況で話をしようとしたら、多分好きだ嫌いだ、がどうしたって話になるだろ。それにどう応えるのかって問題に答えを出すことができていない俺としては、なんとも話しづらかった。

ぶっちゃけると全部俺がヘタレたせいなんだが、そんなわけで時間が経ってしまい、殘り數日だってのにまともに話をすることができなかった。

しかし、流石に今日は話さないといけないので、いいかげん覚悟を決めて宮野と淺田に會いに行こう。

そんなことを考えながら無意識で歩いていたら、ふと気づくといつの間にかニーナの部屋の前まで來ていた。

研究所を歩くときは大抵ニーナに會いに來たから、特に考え事をしていない狀態だと自然といたんだろう。

……特に用があるわけでもないが、せっかくだし寄っていくか。

「——ってわけで、こういう服にはこっちのやつがいいの」

「……何だかよくわかりませんね。違いがあるのはわかりますが、今一つ理解しきれません。それに、これなどはどこに『良さ』を見出しているのですか?」

そんなことを考えてニーナの部屋にって言ったのだが、そこでは淺田がニーナとテーブルを挾んで向かい合い、本を広げて何かを話し合っていた。

「あー、まあこれ系のはちょっと特殊だから——あ」

俺が部屋にってきたことでニーナはすぐに俺に視線を向けるとにこりと笑い、淺田はそんなニーナにつられるようにして視線をこっちに向けてきたことで、俺の存在に気がついたようだ。

「何だ。ここにいたのか?」

「うん。まー、教えるの楽しいしね」

淺田は面倒見の良さを発揮してよくニーナの話し相手になってくれている。

今日も話し相手としてここにきてくれたようだ。

だが……

「今日くらい休んでもいいんじゃないのか?」

「大丈夫です。私が燃やしますから!」

當然ながらニーナも作戦には參加するし、その話は聞いているので意気込んでいるが、お前のやる気と淺田の調子は別だろ。

「それはまあ、心強いんだが……」

「なんかしてないと落ち著かないのよ。だからちょうどいいかなって」

淺田はそう言いながらあはは、とし困ったように笑った。

でも、落ち著かないから子供の相手をするって……本當に面倒見がいいよな。

「で、何してたんだ?」

淺田の善良さにフッと笑いをらすと、そう言いながらテーブルの上に置いてあった本——雑誌に視線を落とした。

「ファッションの勉強。この騒ぎが終わったら、この子と出かけるんでしょ?」

「その時にはお父様を驚かせる事ができるように頑張ります!」

「そうか。期待してるよ」

今までは與えられた服や小を使うだけだったニーナだが、こういうところで自己を出していくってのは、子供の長には大事なことなんだろうな。

もっと長して、いつかはこんな研究所みたいな場所ではなくてまともに人の世界で暮らせることを願って、ニーナの頭に手を置いて軽くでた。

「んー、せっかくだし、あんたの意見もちょうだい」

「意見? どういうのが好きかとかそんなんか?」

「そうそう。そういうやつ」

本當は淺田と二人きりで話をするつもりだったのだが、進んで系の話がしたいわけでもないし、淺田も落ち著いているみたいだからこのままニーナがいる狀態で話をしてもいいだろう。元々は明日の作戦に向けて張や不安を和らげるために話しをしようと思っただけだしな。

そう思って二人が座っているテーブルのお誕生日席に置かれていたソファに座った瞬間、ニーナが反応した。

「あっ! 何もお出ししないですみません! 今お茶を持ってきます!」

そう言うとニーナは急いで立ち上がり、部屋に備え付けられている臺所まで小走りで駆けて行った。

「そんなに気ぃ使わなくてもいいのに」

「まー好きにやらせたらいいんじゃない? 本人も楽しそうだし」

「それもそうか」

ニーナを見送って気が付いたのだが、図らずも二人で話をする狀態になってしまった。

とはいえ、ニーナにも聴こえている狀態だし特に突っ込んだ話はしてこないだろう。

そういう話がなければ、こいつと話しているのは割と楽しいと思っているから歓迎だ。

こいつと話しているのは、なんっつーか楽なじがするって言うのか? 落ち著くじがする。ヒロ達と話す時の気安さ、ともちょっと違うじがするんだが……安らぐ、とでも言うのかね?

「にしても、お前ってやっぱ面倒見がいいよな。ありがとう」

今までも言ってきたが、それでももう一度改めてニーナのことを見てくれた禮を言って頭を下げた。

「どーいたしまして。でもあたしも好きでやってることだから。子供とか好きだし」

「そうか」

「うん……っ!」

淺田は頷いてから何かにハッとしたように目を見開き、途端に挙不審な作をし始めた。

……この反応は、多分だが恥ずかしく思うような何かがあったんだろうが……なんだ?

今の會話の中で俺、何かしたか? してないよな? なんでこいつはそんな慌ててんだよ。

「ち、違うからっ! 子供が好きって、あれだから。純粋に子供が好きなんであって、別に子供がしいとかじゃないって、いうか……。っ〜〜〜〜〜!」

どうやら自しただけらしい。俺は今の會話でそんなことは思ってないが、し反応が過剰すぎねえか? 妄想がすごいっていうか……。

でも、その辺にはれない方がいいんだろうな。

つっても、今の自やそれに関する妄想についてはれないにしても、こういう流れになったんだからやっぱり話しておいた方がいいよな。

今ならニーナの部屋にいるんだからそれほど踏み込んだ話にはならないだろうし。

「……今更聞くことでもねえんだろうが、お前は本當に考えを変えないのか?」

俺がそう言った瞬間、淺田は慌てていたのを止めてし不機嫌そうな顔になって俺を見つめてきた。

「あたしはね、あんたのことがかっこいいと思ったの。そりゃああたしだって最初はあんたのことを馬鹿にしてたし舐めてたし、あんたに対する印象がいいわけじゃなかった。けど、教導としてチームにってくれた時、なんか言いながらも危ない時には守ってくれたし、あたし達が潰れないように気を配ってくれてたあんたを見て、かっこいいって思ったの」

そりゃあ、まあ……だって死んでほしくなかったし。

「それからはあんたのことを目で追ってて……って、何でこんなこと言ってんの!? う〜〜〜〜〜!」

淺田は恥ずかしがるように俺から顔を逸らして頭を抱えて唸り始めた。

そして自分の中で區切りでもついたのか、ソファから勢いよく立ち上がると俺をキッと睨んで指を差してきた。

「あーもう! とにかく! 歳の差だとかあんたの過去だとか気持ちだとか関係ないの! あんたがどう考えてようが、あたしがあんたのことを好きなの! あんたが応える気がなくったって、好きになっても、いいじゃん」

ここまではっきり言われると、考えを改めさせることは難しいんだと俺にもわかる。

「今は何も聞かないし、言わなくてもいい。けど、元に戻ったら絶対に逃さないから」

あー、なんだな……こうも言われるとはな。ニーナが聞くことになるんだからそれほど何か言われたりしないだろうなんて、ある意味卑怯なことを考えてた切り出したのに、これほどまでにはっきり言われてしまうと自分がバカらしくなってくる。

……ただまあ、こいつの場合は忘れてるんだと思うけど。

「あら、隨分と素敵なセリフですね」

「——え?」

お茶を手にしたニーナが戻ってくると、淺田はそれまでの威勢のいい聲ではなく、気の抜けたような間抜けな聲をらしながら聲のした方を見た。

「え……あっ!」

そしてハッと我に帰ると、淺田はまたも慌て出した。

まあ誰も聞いてないと思ってあれだけのことを言えばそうなるだろうなぁ。さっきのは聞いてる俺も恥ずかしかったし。

「これは、その、あれよ。違くって、その……」

「違うのですか? あなたもお父様が好きなのでしょう?」

「好きって、それはその……そうだけど」

ニーナは首を傾げながら問いかけているが、淺田は顔をニーナに向けることなく僅かに俯いたままもごもごと口ごもって答えた。

だが、淺田と違って俺はニーナの言葉に一つ気になることがあった。

「あなたもって……お前もか?」

ニーナとは親子という関係になっているが、もしかしてこいつも淺田のようにを持っているんじゃ……なんて思いながら、そうでないことを願っておずおずと尋ねてみる。

「はい! もちろんです!」

「いや、あれだ。俺たちは繋がってなくても親子で……」

「? 何かおかしいですか? 子供は親が好きなものですよね?」

「……ああ、そういう」

淺田と話した後だから勘違いしたが、どうやらニーナはとしてではなく、親子としての好意だったらしい。

ニーナはまともに人と関わり始めてからまだ一年程度だしな。しかも異が俺だけとなれば、なんてわからないか。

「お父様のことが好きということは、佳奈も家族になるのですか?」

「家族っ!」

ニーナの疑問の言葉に、顔を逸らしながら慌てていたはずの淺田がそんな言葉に反応した。

でも、お前はもう落ち著けよ。混しているのはわかったが、自分で傷を増やしにいくなって。

「——どっちかっていうとおかあさんがいいかなって……」

「何ですか?」

「っ! ううん! 何でもない!」

その後は誤魔化すように方向を変えて普通の話に戻っていったが、こいつはこの調子なら大丈夫だろう。

答えを返すことはできていないが、話しをすることはできたし、不安で潰れてるってこともない。

あとは宮野と話をするだけだな。

……でも、この騒ぎが終わったら、そろそろ真面目に覚悟を決めないとだよなぁ。

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