《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》不吉な予
「瑞樹! 周りのお願い! ドラゴンはあたしがっ!」
俺はそんな淺田のび聲でハッと我に返ると、頭を振った。
淺田は宮野に向かってぶと、魔石を砕いて自のを今までよりもさらに強化し、大槌を構えてドラゴンに突っ込んでいった。
この場に出現しているドラゴンは三。
ここがダンジョンで、その中に開いたゲートという異常な狀態だからなのか普通のゲートよりも出てくるモンスターは多くないが、それでも他にもモンスターがいることを考えるとドラゴンがいるというだけでかなりまずい狀況だ。
だがそれでも淺田は果敢にドラゴンの群れの中に突っ込んでいき、宮野は淺田の言ったように先程の炎で吹き飛んだがまだ生き殘っているモンスターを処理するためにき出した。
なら、今俺のやることは敵の言葉について考えることじゃなく、あいつらをサポートしてこの場を切り抜けることだ。
そう考えて頭を切り替えると、淺田が突っ込んでいったドラゴンの顔面に向かって催涙弾を飛ばした。
ドラゴンの頭部に著弾したそれは即座に弾けてドラゴンの頭部を覆って視界を遮った。
その催涙弾のせいで視界を遮られ、なおかつ目や鼻に刺激をじて悲鳴をあげるドラゴンだが、淺田はその隙を見逃すことはなくさらに加速し、ドラゴンの懐に潛り込んでいった。
「ぶっ飛べ!」
そして特級並みにまで強化した能力を存分に活かし、ドラゴンの巨を空へと打ち上げた。
「まず一!」
仲間のドラゴンが人に打ち上げられるなんてことに驚いているのか、他の二のドラゴンは揃って空を見上げている。
だが、それは隙だぞ。
一目のドラゴンを打ち上げた後、淺田は強化が切れる前に殘りも片付けようと考えたのか、止まることなくドラゴンに向かって走っていった。
そして一目と同じように懐に潛り込むと、やはり同じように大槌を振り上げようとした。
が、それを邪魔するようにドラゴンたちの後方でコアにれたまま待機していた男が魔法を放ち淺田を攻撃した。
そのせいでドラゴンたちは足元にまでよっていた淺田に気が付き、び聲を上げながら淺田を狙って暴れ出した。
淺田は思わずその場から飛び退いたが、俺は淺田をサポートするようにドラゴンの後ろ足の爪に向かって魔法を使い、爪との間に砂をねじ込んでじゃりじゃりと削ってやった。
いかにドラゴンとはいえ、神経の集まっていて構造的に隙間のできてしまう爪は効果があるようで、それまでとは違う類の絶を上げながら無茶苦茶に暴れ出した。
そこで後ろに下がろうとしていた淺田はそのきを強引に止めて、もう一度前に出ていった。
そしてドラゴンの前足をぶっ叩き、鱗を砕いて足をへし折った。
それによってドラゴンは頭を地につけるかたちになり、淺田はそんなドラゴンの頭を狙うべく地を蹴った。
ドラゴンは起きあがろうとするが、目に向かって速度重視で魔法を放ち怯ませる。
そうやってわずかでも時間を稼げば、後は……
「にったいめえ!」
ドラゴンの頭を叩き潰して殘るドラゴンは一。
「それじゃあ——あ」
だがそこまでだった。淺田が魔石を使っての強化が途切れてしまった。
元々あれは短時間しか持たない技だからな。二分は保ったんだから十分だろ。
しかしそこで、淺田が上空に吹き飛ばしたはずの三目は地面に激突しながらもまだ死んでいなかったようで、か細いながらも唸り聲を出しながらき出した。
だが、その三目が明確に何かしようとき出す前に、頭上から何かがドラゴンの頭部に落ちていった。あれは……宮野か?
ドラゴンの頭部に落ちたものを観察していると、その場所から放電が起こった。うん。間違いなく宮野だな。
周りを見てみると、その様子は俺たちがドラゴンの相手をし始める前とは違っていた。
敵はまだ戦えそうだし、倒れている奴はいてもその大半は完全に死んでいない。
だが、サイクロプスなんかは足を切られ、グリフォンは翼を切られまともにけないでいる上に、他のモンスターたちもこちらを脅威と判斷したのかまともに自分たちから攻め込んでこようとしないで遠巻きに見ている。
「はあ、はあ……ふう——トドメは刺さないとね」
宮野は息を切らしているものの怪我はしていないようで、ドラゴンの頭に刺した剣を引き抜いて振りをしながらそう言ってのけた。
「まさか、これほどだと……?」
そう言った男の聲には驚きがあったが、それだけではなく忌々しさも混じっていたようにじた。
まさか、ドラゴンをこれほどまでに簡単に倒すとは思っていなかったんだろう。俺だってそうだ。こんなに簡単にいくとは思わなかった。
この狀況をどうにかしなければならないと思ったのか男が何かしらの指示を出したようで俺たちを囲って遠巻きに見ていたモンスターたちは徐々にだがそのを狹め始めた。
それに加え、追加のゲートが俺たちの周りに開き始めた。
今のところどうにかなっているとはいえ、流石にこれ以上はまずい。
大群といっても過言ではない敵を相手することになり、力を溫存するためか安倍は大規模な範囲技ではなく一一を確実に倒していく方針に変えたようだ。
宮野も敵を倒すことよりも敵のきを阻害することや、確実に致命をとるための戦い方に変えた。
それならば魔力は使わないだろうが、処理速度が遅くなる。現狀、あいつがどれくらいゲートを開けるのかわからないのだから、時間をかければさらにゲートを開かれてジリ貧になるかもしれない。
確かに長期戦となれば後の事を考えるべきなんだろうが、それは耐えて解決する可能がある場合だけ。今はだめだ。
「安倍! 宮野! 全力で放て!」
だから、俺がそう指示を出したのは、相手がさらに何かをする前に片をつけてしまうためだ。
安倍と宮野は突然の全力という指示に一瞬だけ戸ってこっちを見た。
多分全力での魔法なんて放ったらその後はどうするんだ、とか、そんな大きな魔法の準備なんてしたらその間の敵の処理はどうするんだ、とかそんなじだろう。
だがそんな迷いも本當に一瞬のことで、俺を見ると頷き、安倍はすぐに魔法の準備へと移り、宮野は周囲にいた敵を斬ると安倍の隣にまで下がって同じように魔法の準備を始めた。
そうなると、二人で支えていた前線が崩壊して敵がこっちに近寄ってくるが、それはどうにかするしかない。
淺田はともかくとして、俺がこれだけのモンスターを相手にするのは無茶以外の何者でもないが、それしか方法がないのだからやるしかない。
今のように俺たちを囲っている狀況では男の守りに使うための駒はなくなっているだろうし、そこに最大攻撃を加えれば、多分モンスター諸共潰せる。それがたとえドラゴンであったとしても、余波だけで後ろにいる男を殺すことはできるだろう。
だから、やるのなら大火力で周囲を片しつつ、ゲートをっているあの男を狙うべきだ。
そしてもう一つ。
強敵であるために確実に倒すためという理由ではあるが、同時に、この後のこと……萬が一の場合を考えてでもある。
萬が一……その時のために、俺は宮野に敢えて全力で攻撃するように指示を出した。
指示を出してからしばらくの間、俺は淺田の補助をしつつ後方にいる宮野たちに近づこうとするやつの邪魔をしていた。
そしてそれだけではなく、淺田が吹き飛ばしたり、吹き飛ばされたモンスターにぶつかってきを止めていたモンスターにトドメを刺していた。
それでも完全に食い止めることができるわけでもないし、徐々に後方にいる宮野たちの近くまで押し込まれ、そろそろ限界が近い。
「できたわ!」
「こっちもいつでもいい!」
そう思った瞬間、ついに安倍と宮野は魔法の準備ができたようで二人の聲が背後から聞こえてきた。
「くっ……させるな!」
そんな二人の聲は敵にも聞こえていたようで、なりふり構わずといった様子でモンスターを嗾けてきた。
「やれええええ!」
俺のぶとともにすぐさまを投げ出すようにして二人の前から退いた。
視界の端では淺田も同じように攻撃をやめてその場から離れていたが、俺なんかと比べて余裕のある避け方をしている。
そうして俺たちが二人の前から退くと宮野と安倍から魔法が放たれ、後ほんの數メートルといったところまで近づいてきていたモンスターたちを炎と雷の嵐が飲み込んだ。
「どう、なったの……?」
二人の魔法が消え去った後、俺たちの正面にいたモンスターは消え去り、俺たちを囲んでいるにぽっかりと空白ができた。
だが、俺たちの視線の先にはあれだけの魔法を喰らってもまだ忌々しくも輝くこのダンジョンのコアがあった。
そしてその奧、し離れたところには地面に橫たわった人の姿。
「宮野」
一度宮野の名前を呼んで全員に目配せをすると、俺たちは倒れている男の元へと警戒しながら進んでいった。
そうして近寄ってみると、男は片足を失い両手の先が炭化しているものの、それが人だとわかるくらいには形を保っているし、まだ息をしている。
モンスターたちとの戦いの最中にも何度か宮野たちの攻撃に巻き込まれて無傷で立っていたからそれなりに防力はあるのはわかっちゃいたが、それでもまだこれだけ原型をとどめて生きていられるのか。
だが、なんだあれ? 手足の先がキラキラって……結晶化してるのか?
そしてよく見ると、じわじわとだがそのっている範囲が増えていってる。
「鍵は、くれてやる……々、悩むといい……」
なんでそんなことを言ったのかはわからない。
だが男はギョロリと目だけで俺たちを見ると、小さく痙攣するように口をかしてそう言い、魔法を使った。
その魔法は一瞬で発し、俺たちが何かをする前に効果を現す。
なにをされたっ! と思って自分のを確かめると、俺のはうっすらとを放っている。そしてそれは俺だけではなく俺以外の全員のが淡くり、同じように全員の手の甲に魔法陣が現れた。
俺はその現れた魔法陣を読み解こうとするが、全く分からない。
だがきっと、この魔法陣が『鍵』なんだろうという覚があった。なんというか、コアに引き寄せられるというか、共鳴しているじがするのだ。だからおそらくは、これでこのコアを壊せるんだろう。
……だが、にしてもやっぱりこういうやつか。これだと、他人に渡すことはできないだろうな。……なら、仕方がないよな。
「世界の、浄化を……理不盡のない、世界を……」
男はそう言うと全を結晶化させてかなくなった。それと同時にこのダンジョンに現れていたゲートが全て閉じた。
ラスボス戦にしては呆気ない終わりな気もするけど、呆気ないと言うにはそこに至るまでの道のりが些か厳しすぎる気はするな。特級モンスターのボスラッシュとかなんの冗談だってんだ。
でもまあ、なんとかなったわけだし、こんなもんだろ。
それに、安堵するのはまだ早い。まだ完全に終わったわけじゃないんだからな。
「さあ、後は周りのゴミ掃除だけだ」
そうして俺たちは周囲にいたモンスターたちを片付けるために再びき始めた。
……このまま順調に終わるといいんだけどな。
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