《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》『生還者』対『勇者』

「っ!」

「くるっ!」

俺が宮野たちを倒すためにぴくりと僅かに手をかすと、そのきを見逃すことなく宮野と淺田が反応し、攻撃してきた。

數メートルも離れていない狀態で斬りかかられたが、つけていた首飾りに魔力を送って強烈なを放つ。

ただ一瞬しからないが、それでもなんの呼び作もなく突然やられると僅かながら意識がそっちに持っていかれる。

そうしてできた隙に半歩近づき、淺田の大槌を自分からけに行く。そうすることでその大槌の勢いを利用して吹き飛ばされ、距離をとることができた。

距離を取ることはできたとはいえ、邪魔をされたのは事実だ。出鼻を挫かれたことに舌打ちしたい気持ちになるが、同時にしだけ嬉しくもなる。俺が教えたことはちゃんとこいつらのにあるんだなって。

しかし、出鼻を挫かれたとは言っても、こいつらもやっぱりさっきまでの戦いでそれなりに消耗しているんだろう。そのきはいつもよりも細さがない。まあ、それを狙ったわけだし、そうでなくてはまともに戦える訳がないんだが。

「柚子は傷ができたら毒と怪我の治療を優先して、晴華は威力よりも阻害を中心にして魔法を! 全員、相手はドラゴン以上の脅威だと思ってちょうだい!」

俺が毒を使ったり傷口から砂や水を送り込む戦を使うのはこいつらも知っている。だからこその指示だろう。傷がなければ傷を抉ることはできないからな。

しかしまあ、ドラゴン以上の脅威か。

宮野たちからの評価に苦笑いをしそうになるが、そんなことをしているのさえタイムロスになるのでそれは心の中だけにしておく。

「過大評価どうもありがとう! ちったあ加減してくれてもいいんだぞ!」

距離をとったことで俺を狙う安倍の魔法が飛んできたが、それには豆粒のような魔石を當てることで誤させる。

安倍の攻撃に対処している間に宮野たちが再び近寄ってくるが、煙幕を使って視界を奪うと同時に、俺は一度離した距離を自分から詰めるかのように前に向かって飛び込み、その場にしゃがみ込んだ。

前方に飛び込みながら宮野たちの後方で魔法の準備をしていた安部に向かって、柄も鍔もない刀だけのようなナイフを投げる。だが、當然の如く北原の結界に弾かれてナイフはその場に落ちた。

直後、煙幕を気にすることなく煙の中を突っ込んできた淺田と遭遇した。

煙幕は極短時間に狹い範囲に濃い煙を出すものだったので既に視界は晴れて始めている。

だが、淺田は俺がしゃがんでいるせいで俺のことを発見するのが遅れたようで、そのままの勢いで俺に突っ込んできた。

慌てて足踏みをしてなんとか攻撃しようとしているが、完全に勢いを殺すことなんてできていない。

だからそこを狙い、に向かって剣を突き出した。そうすれば淺田は自の勢いで剣に刺さりにいくこととなり、強引に勢を変えて避けようとするが完全には避けきれずに傷を負った。

を狙うなんて完全に殺しにいっているが、こうでもしなければ俺はこいつに傷を負わせることなんてできっこない。

それでも淺田は気にせず突撃してきた。きっと、怪我については北原が治してくれると信じているのだろう。

事実、煙が完全に晴れると淺田の怪我が見えたようで、北原はすぐさまその傷を治し始めた。

だが、やはりこちらも疲労や消耗があるんだろう。治すまでの時間が普段よりも遅い。

そのことを観察していると淺田が大槌を橫薙ぎに振るってきたが、それは淺田の足の下に小さな落としを作ることと、しゃがみながら大槌にアッパーを當てることでなんとか対処する。

しかしそうして淺田の相手をしている間に宮野が接近し、背後を取られた。

背後を取られた後はそのまま背中を斬りつけられそうになるが、俺は自分から首を差し出すかのようにを後ろに倒しながら一歩下がった。

「っ!」

背後から宮野の息を飲む音が聞こえたような気がするが多分自分から首を差し出してきたことに驚いたんだろう。まあ普通の戦いではそんなことはしないからな。

だが、この戦いは俺を死なせないための戦いだ。だから宮野は、俺を殺さないようにと攻撃を止めた。

しかし勢いをつけた攻撃はすぐには止まらなかったんだろう。宮野は強引に剣戟の方向を逸らしたが、そんなことをすれば當然隙ができるので、その隙をついて足払いを仕掛けてやる。

宮野は俺の足払いを軽く飛んで避けたが、俺は足払いを仕掛けた自分の足に向かって魔法を使い、下から土で突き上げて強引に蹴りの方向を変える。

そんな突然変わった蹴りにわずかに驚いた様子を見せた宮野だが、それも一瞬のことですぐさまをのけぞらせて蹴りを避けた。

そうして避けたところに剣で攻撃を加えようとしたところで安倍から炎が飛んできた。

一つ一つの威圧は弱いが、その分數が多い。きの阻害——宮野の補助が目的だろう。まあ、弱いって言っても俺がまともに食らえばその時點で詰むだろうけど。

そんな炎を喰らうわけにはいかないので、蹴りを撥ね上げさせた時の土をって銃弾のように飛ばし、炎に當てて暴発させる。

意識を宮野に戻すと、を逸のけぞらせていた宮野のから出てきた淺田が大槌を地面と平行に振るってきた。今度はしゃがんで避けられないようにしたのだろうか?

俺はその攻撃を後方に飛び退いて避けると同時に、ポーチから薬を取り出して宮野と淺田に投げつける。

宮野は後方に飛び退き、淺田は大槌を振るった勢いのまま一回転して砕くが、砕かれた中は淺田と淺田の持っている大槌を濡らした。

それを確認した俺はすぐさまそのって移させる。

今投げたのは油だ。一度ああなってしまえば、勢いよく大槌を振るえば持ち手がるだろう。

淺田は自分の武を濡らしたのが油だとは気づかなくとも、それがることはわかったのだろう。嫌そうな顔をして俺のことを睨むと、使いにならないからか大槌を思い切り蹴り飛ばしてきた。

……お前、まともに使いにならなくなったからって、武を捨てる判斷が早すぎないか?

風を切りながら飛んでくる鉄塊は脅威でしかないが、そればっかりに目をやるわけにもいかない。

を投げた淺田を援護するように、淺田の背後から炎の塊が飛んできた。塊と言ってもそれほど威力はない。なくとも死なない程度の威力だ。

炎の群れと大槌。その両方に対処しなければならない狀況だが、それだけではなく宮野までこっちに向かって近寄ってきている。

迷っている時間はない。そう判斷すると、俺は瞬間的に筋力を強化して投げられた大槌を空中で摑み、その勢いを殺さないまま半回転して宮野に飛ばす。

普通ならそんな曲蕓みたいな真似はできないが、持ち手部分に付著した油はまだ俺の支配下だ。だからそれをって補助とすることで功した。後は迫ってきている炎の対処だけだ。

そのまま宮野に向かって走れば仲間に近すぎるので魔法は消すしかないと思ったのだが、ここで誤算が出た。宮野に新しい結界が重ねがけされたのだ。これでは近づいたところで宮野ごと炎でやられる。

仕方ないので炎耐の魔法を限界まで酷使して防ぎ、炎をやり過ごす。

それと同時に補充薬を飲んで魔力の回復を狙う。モンスターたちとの戦いでも使ったので補充薬も殘り數本しかないが、多分なんとか間に合うだろう。というか間に合わせないと俺が負ける。

視界を遮っていた炎が消え始めると、完全に消えていないにもかかわらず左右から淺田と宮野が突っ込んできた。

それを地面に這いつくばるような形で避け、蹴り上げるような形で追撃が來たが、それは腹の下——服のボタンとしてついていた発の魔法を使って自して吹っ飛ぶことで回避する。

その発によって安倍と北原に近寄ったが、二人は結界で守られている。このまま突っ込んで行っても意味はないだろう。

なので、その結界に向かって砂をり、二人を覆っている結界の表面に張り付かせて視界を奪う。

それと同時に自分の足元に魔法を使って二人への準備は終わり。

後ろから迫ってくる二人に向かって、振り向きながら薬を投げつける。

今度は両者ともに薬の容を破壊しなかったが、二人の背後に飛んでいった容を突き破って中の酸が二人を襲う。

俺のことを警戒しながらも背後を向いた宮野達に向かって水滴程度の大きさの水をいくつも飛ばす。

威力はないが、たったそれだけのことでも警戒しなくてはならず、僅かに二人の対処が遅れることとなった。

その隙にもう一度煙幕を使い、二人の靴に対して気づかれないようにかなり小さな魔法をかける。

そして、煙幕が消える前に補充薬を管に注する。

こんなことをするのは危険があるが、普通に飲むよりも早く回復できるので仕方がない。どうせに悪いって言っても、この後死ぬんだ。なら、多調が悪くなろうがその後に影響があろうがどうだっていい。

そうして注を終えると同時に、北原の結界を覆っていた砂を吹き飛ばすためか安倍と北原の二人がいた場所から発が起こり、周囲の煙諸共張り付き視界を遮っていた砂を吹き飛ばした。

煙も砂も消え去った視界のなか、俺たち五人はその場で立ち止まって睨み合った。

こうして俺がまともにこいつらと戦えているのは、こいつらが戦闘後で疲れているってことと、ここが通路だっておかげだ。

ここは通路って言っても戦闘ができるくらいに広い場所だが、それでも左右に限りがあるのでそれを使えば移を制限させられる。

「……傷つけたくないと思うくらいにはお前達のことが好きだったんだぞ。ここらで引いてくんねえか?」

だが、戦えているとは言っても、それは戦いたいってわけじゃない。できることなら戦わずに済ませたいんだ。進んで家族を傷つけたいなんて思う奴はいないだろ?

「好きだって言うんなら、最後まで一緒にいなさいよ!」

「こんなとこで死のうとすんじゃないってのよバカッ!」

俺の言葉に反論しながら、宮野と淺田が走り出した。

今回は淺田ではなく宮野が先行して俺に斬りかかってきた。

それはまさに雷の速度で、一瞬のうちに俺の背後に現れた宮野によって背中を切られた。

だが、やっぱり殺さないように加減しているからだろう。痛みはあるがまだくことはできる。

続く二撃目も喰らいながらも振り返り、宮野と目が合った。

その目には涙を溜め、表は盛大に歪められている。

そんな顔をさせたいわけじゃない。

だが、これが俺の考えた最善なんだ。お前達にとってはクソッタレで、俺の自己満足なのかもしれないけどな。

振り返ってもなお続けられる攻撃。三度目の宮野の剣をけても生きていることはできるだろうが、確実にその後の戦闘に支障が出る。

できる限り怪我を抑えないといけない。じゃないと、死ななかったとしてもその後にけなくなったら俺の負けだからな。

そして振り向いた背後——さっきまで俺の見ていた方からは淺田が俺に向かって走り出していた。

このままでは、宮野をどうにかしたところで後ろから挾み撃ちになる。

だから、こうする。

「ぐうっ!」

「!?」

俺に向かって振り下ろされた宮野の剣を左手のひらで摑むようにけ止める。

今まで攻撃を避けて怪我をするのを避けてきた俺のとった突然の行に、宮野は驚いて目を見開くが、その剣の勢いは止まらない。

そして剣はそのまま俺の左手の半分から上を切り落とした。

ものすごい痛みで視界がチカチカと赤く點滅するせいで違和が出るが、そんなもんは気にしない。今までも似たようなことはあったんだし、もう今更だ。慣れただろ。

だから、そんな怪我や痛みなんて無視して、淺田がくる前にキメにかかる。

傷口からがドバドバと溢れる左手を振るい、宮野の顔面に目掛けてを飛ばして目潰しをする。

しかし宮野もそんな俺の行には慣れたもので、軽く背後に飛んで避けようとした。

だが、そんなことは許さない。

俺は剣を宮野へと突き出しながら、それと同時に魔法を使った。

「っ!? なにっ!?」

宮野がその場から跳び退こうとした瞬間、宮野は突然膝から力が抜けたように勢を崩した。

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