《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》3. 追い払われたのに気付かない
學院に著くと、すでに數人が門の前に集まっていた。
ベラルタ魔法學院は學年ごとに制服がし違っており、門の前に集まる數人は全員同じ制服を著ているので同期生ということがすぐにわかる。
門には學式を行う講堂の場所と開始時間が記されていた。
「でかいな……」
アルムはそれよりも學院の広大さに圧倒されているようで、橫にずっと続いている壁を左右互に見ていた。
この壁はどこまで続いてるんだろうかなどと暢気な事を考えながら。
「まだ大分時間があるようですわね」
「そうなのか、じゃあそんな急ぐ必要無かったな」
「ええ、人もまだまばらなようですし」
貴族と言っても多忙な家から暇な家まで様々だ。
それを考慮してか、學式の時間は大分遅く設定されているようで、アルムとミスティはむしろ早い部類にるらしい。
アルムは朝に集合と聞かされていたが、案に書かれた時刻は晝近い。
別にいいのだが、し騙された気分だ。
すでに集まっている自分の同期もその口かとアルムは目をやる。
「ミスティ殿じゃないですか」
「はい?」
その同期生の中から一人、ミスティを知っている者がいたようでこちらに歩いてくる。
二人の目の前まで來ると、その年は小さく頭を下げた。
「"ルクス・オルリック"です。以前父の付き添いでお見かけした事が」
「ああ、オルリック家の。お話するのは初めてでしたね、ミスティ・トランス・カエシウスと申します」
ミスティも小さく頭を下げる。
そこでようやく隣のアルムに気付いたかのようにルクスと名乗った年はアルムと目が合った。
ルクスはアルムと同じくらいの背丈の金髪の年で、和やかな表を浮かべている。
顔立ちがよく、すっと通る鼻梁に大きな瞳と中的だ。
もっとも、振る舞いやがっちりとしたにらしさは無い。
自分のいた村では見かけたことのないような男子だった。
「こちらの方は?」
「カレッラから來たアルムです」
視線をミスティに戻し、ルクスが紹介を求めようとすると、ミスティが紹介する前にアルムは直接それに答える。
しっかり名乗れという忠告を律義に守っているがゆえである。
「アルム……申し訳ない、家名は?」
「いや、俺は平民だから家名は無い」
「……平民?」
それを聞き、ルクスは和やかな表から一変する。
他の同期生もそれが聞こえたのか、一斉にこちらを向いた。
「平民?」「そういえば今年は平民が一人いるって」「本當かよ、何かの間違いじゃなくてか?」
値踏みするような視線と囁き聲がアルムに注がれる。
まだ學院に著いているのは數人だが、ここに他の生徒が集まっていたとしたらちょっとした騒ぎになっていただろう。
「……そうだったのか。今年は一人平民がってくるという話だったが、君がそうか」
「一人?」
「當然だろう。普通は貴族しか魔法使いにはなれないからね」
「ああ、それは聞いてたけど……。そうか……一人か」
「心細いとでも?」
遠くを見ながら呟くアルムに鋭い目付きでルクスは問う。
対してアルムは。
「いや、思ったより自分は幸運だったんだなと噛みしめていた」
「幸運?」
「ああ、だって普通じゃなければ平民でも魔法使いになれるって事だろ」
「……っ」
自分には特別な才能があると言っているかのような宣戦布告ともとれる発言。
それがルクスには傲慢に映る。
しかし、実際はそうではなく。
アルムは自分が師匠に出會った事が普通じゃないという意味で口にした。
元々なれないと思っていた子供に巡ってきた幸運に改めて謝したのだ。
「そうか、大した自信だ」
「自信?」
アルムはに覚えがないと言いたげに首を傾げる。
そんな所作もけ取り手のルクスにとっては不快で、アルムを見る瞳はもう冷たい。
「そうだ、すまないアルム。ミスティさんとお話したい事があるんだがし席を外してくれないかな」
ルクスはすぐに和やかな表に戻るが、そこには非友好的なが混じっている。
わかりやすいくらいの意志表明だ。
「おっと、そうなのか。じゃあ俺はどっか行ってるよ」
「すまないね」
「いや、いいんだ。俺にはわからない話もあるだろう」
アルムはそんなルクスの様子を気にする事も無い。
話があるというのだから自分には聞かれたくない話なんだろうと足をかす。
「あ、アルム……」
「さぁ、ミスティ殿。あちらで他の方々にも紹介を」
「え、そ、それでしたら、アルムもご一緒に……」
「何言ってるんだ、気を遣わなくてもいいよ」
自己紹介なんていつでも出來るだろうし、などとずれた考えでアルムは斷る。
他の貴族には違うように映ったようで、小聲で"立場を弁えてはいるな"などという聲が集団からは聞こえてきた。
ルクスはそれを見てし怪訝な表を浮かべる。
「またなミスティ」
「え、ええ……また……」
ミスティは小さく手を振る。
アルムは學院の門をくぐりながら、それに応えるようにミスティに小さく手を振り返した。
ルクスもまた、その背中に視線を送っていたことにアルムは気付かない。
「さて、とりあえず片っ端から場所を覚えよう。今度は迷わないようにしないと」
別れる事に名殘惜しさすら見せることなく、アルムはきょろきょろと學院を見渡す。
先程まで街で迷子になっていたからか、せめて院で迷う事はないようにしようと意気込んだ。
「校で迷ってもまたミスティみたいな親切な人に出會えるとは限らないからな……あぁ、早く魔法使いたい。皆どんな魔法を使うんだろうか……」
自分が貴族たちに冷遇されていた事など知らず。
中毒のような臺詞を口にしながらアルムはこれからの學院生活に思いを馳せる。
村とは違いここは魔法の使える者が集う楽園だ。
自分の師匠しか魔法使いを知らない彼はそれを見るだけでもどんなに楽しいだろうかと顔を綻ばせる。
その目は絵本が現実になるのを期待する子供のようで。
何より、ここがその期待に応えてしまうような學院だという事を彼はすぐ知ることになる。
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