《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》18.あっけない幕切れ
「うーん?」
エルミラの魔法は確かにリニスに突き刺さった。
エルミラが放ったのは火屬の中位魔法。火力と速度以外に特徴は無いが、単純な威力だけならかなりのもので、その魔法に補助魔法でさらに火力を上乗せされている。
その魔法が確実に當たったにも関わらず、手応えが無い。
人間大のサイズの生きに當たればそれなりの抵抗があるはずが、まるで紙に放ったようにあっさりと燃え盡きた覚が伝わってきたのだ。
「いやはや、これは腕前を見誤ったな」
そして魔法をけたはずのリニスは聲を変えずに立っている。
『抵抗』(レジスト)でなからず耐があったにしても傷一つ無いのはおかしい。
髪や皮どころか制服にすら焼けた跡が無いのだ。
"當たってなかった? いや、當たってた"
浮かんできた思考をエルミラはすぐさま否定する。
自分の瞳は間違いなく魔法が命中したリニスの姿を見ている。
考えられるのは一つ。リニスが事前に唱えていたあの魔法だ。
「『王の代わり』(スケープゴート)はける魔法を本人の変わりに魔法が肩代わりする補助魔法でね。全てそちらにけてもらったよ」
「無駄撃ちってことね」
ため息をつきながらエルミラは手を上に掲げる。
中位魔法を一回無駄撃ちしたのは自分の不勉強さゆえだ。
早期決著を狙った結果が魔力の無駄遣い。そう導されていたならあの消極的な戦い方もし納得できる。
「『火矢』(フレイムアロー)」
掲げた先には五本の火屬で作られた矢。
手を向けると同時にリニスに襲い掛かる。
「防げ!」
普通なら下位の火屬魔法だが、その火力や速度は事前に唱えられた補助魔法によって上がっている。
リニスが杖を振るとそれに応じて雲がくが、火の矢とリニスの間にろうとする雲は鈍く、全く防げていない。
結局リニスがいてかわしていて雲は盾の役目すら果たしていなかった。
「魔力を見るところ闇屬かな? 珍しいね」
「闇は癖がありますからね……」
その様子をギャラリー席の三人は見守る。
魔法を肩代わりする魔法には驚いたが、ルクスとミスティは今までの流れですでにエルミラが勝つと確信していた。
「さも無いし反応が鈍い。杖を使って補助してるんだろうけど、それでもエルミラの魔法に當たってない」
「エルミラの魔法が早いので仕方ないですが、し一方的ですわ」
「エルミラの補助魔法は持続を捨てる代わりに影響力を高めてるのかな。速度もそうだけど魔法が消えるのが早い」
いつかあるであろうエルミラとの魔法儀式(リチュア)の為にしでも見ておく。
後はリニスが降參するまでにエルミラの出す魔法を見ておこうという消化試合のムードだ。
ここからは統魔法を出さない限り負けはない。
エルミラが強いのもあるが、それ以上にリニスの戦闘能力が追い付ていないというのが二人の印象だった。
「アルムはどう……思われ、ます?」
ミスティは隣で黙っているアルムのほうを向く。
ミスティが予想していたのは自分達とは打って変わって二人の魔法に目を輝かせる純粋な反応だったのだが、実際は違った。
そこには自分達よりも冷靜に、そして冷たく戦いを見下ろす普段のイメージからは考えられないアルムがいた。
アルムは普段から想がいい表をしているわけではないが、それにしても表が険しい。
何かに怒っているのか、それとも考えに耽っているのか、そんな姿に気圧されてミスティはつい言葉が詰まる。
「……げん……? ……しては……」
エルミラとリニスを見ながらアルムはぶつぶつと聞き取れない聲量で呟いている。
ミスティの聲も耳に屆いていないようで聲に答えることも、ミスティのほうに視線を向けることは無かった。
ルクスも様子がおかしいことに気付いてミスティを挾んだ先からアルムを覗く。
「し、真剣だな……」
「あ、アルム……?」
ミスティは呼び掛けながら恐る恐る肩にれる。
「ん、あ、ああ……何だ?」
アルムはようやく呼び掛けたミスティの方を向く。
その表に険しさは無い。
「な、何だじゃありませんわ。隨分と難しい顔をしてらっしゃいましたから何事かと……」
「本當か? す、すまん」
アルムは自分の顔をぐにぐにとほぐすようにる。
いつものアルムらしい反応にミスティはようやくほっとできた。
「どうしたんだアルム? 何かあるのか?」
「いや……」
改めてミスティが最初に聞こうとした質問をルクスがすると、アルムの顔にし険しさが戻った。
「いい」
そして短く、跳ねのけるように短く答える。
「いいって、気になるな」
「い、いいじゃありませんか。発見を無理に共有する必要はありませんわ。私達が気付いていない何かがあるなら私達が未ということです。魔法が初見でもアルムには何か気付いたことがあったのでしょう。私達も何か見逃しているのかもしれません」
「確かに自分で気付くべきってのはあるね……何かあるのかな?」
ミスティにそう言われてルクスは再び視線を戦う二人に戻した。
話を切り上げられた事にミスティは安堵する。
アルムも再び視線を二人に戻しているが、先程のように威圧ある険しさは無い。
しかし、普段とは違う難しい顔のままだ。
"どうしたのでしょう……?"
ミスティがその姿に不安を覚えている中、
「降參だ」
「!!」
一階からその聲は聞こえた。
視線をそちらに戻すとエルミラも意外だったのか、拳を握ったまま若干呆けている。
「まだ全然いけそうだけど?」
「いや、『王の代わり』(スケープゴート)が無い今それをけては支障が出る。私の使える魔法ではそれを防ぎきるのは難しい」
どうやらエルミラが先程リニスが『王の代わり』(スケープゴート)で肩代わりした魔法を放つと予測して降參したらしい。
リニスが杖を振ると、周りに漂う雲は消える。
「相手にならなくてすまなかったね。しかし、こちらはいい経験になったよ」
そう言ってリニスはエルミラに近づき手を差し出す。
最後に握手をということだろう。
「むむむ……何か不完全燃焼だ……」
「だから謝っている。私の闇屬の腕ではまだ君には勝てないようだ」
「あー、やっぱ闇屬だったんだ」
「るのが難しくてね。練習の為に々な人に魔法儀式(リチュア)を申し込んでるんだ、こういうのは経験だからね」
「そっか……」
仕方ないとエルミラは拳を解いて握手に応じる。
リニスは満足そうに微笑んだ。
「ありがとう。次は相手になるようになっておくとするよ」
「いつでも相手になるよ!」
「それじゃあ敗者は去るよ。皆も拍子抜けな魔法儀式(リチュア)を見せてすまない」
エルミラと握手しながらリニスはギャラリーにいる三人に向けて謝罪する。
「いや、珍しい屬が見れてよかったよ」
「お二人ともお疲れ様でした」
アルムはリニスを見ているが、何か聲にすることはない。
リニスはし殘念そうに出口へと歩いていった。
「……何かあっさりだったなぁ」
リニスが実技棟から出ていったのを確認してエルミラは呟く。
まだ魔力は十分殘っている。屬が不明瞭だったので相手の攻撃に対応できるように距離を保って警戒していたのだが、何も飛んでこなかった。
まだまだこれからという時に終わってしまってし殘念だったというのが本音である。
「何か変な魔法でも狙ってたのかな……?」
「お疲れ、エルミラ」
「お疲れ様です」
「あ、うん! ありがと!」
エルミラが思考を巡らせようとした時、ギャラリー席から降りてきた二人から労われる。
結果的に二人に曬した手札もなくすんだのだから喜ぶべきなのだとエルミラは自分に言い聞かせた。
「あれ? アルムは?」
「え?」
「あれ?」
自分を労う聲が一つ足りない事にエルミラは気付く。
ミスティとルクスも後ろを向くが、その姿は無い。
「あれ付いてきてない?」
ルクスはさっきまで三人で座っていたギャラリー席のほうに目を向けるがそこにもいない。
ここにいるのは三人だけ。一番魔法儀式(リチュア)を見たがっていたアルムの姿がどこにもなかった。
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