《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》24.誤解
「うわ……すご……」
「これは明日騒ぎになりますね」
「やはりそうか、なるべく壊さないようにとは思ってたんだがな……」
「壊さないように、ね……」
アルムはそう言うものの、屋には魔法で強化された足で踏みだした際のえぐれるような跡がある。
これで壊さないようにしたというには説得力に欠けていた。
実際、不可抗力ではあるのだが、事の知らない者にはそう見えてしまうだろう。
冷たい視線を屋に向けながらエルミラは第二寮の壁際に倒れてるニコに、ミスティは屋の上でだまりを作り、そこに倒れてるサニに近寄る。
「こっちはギリ生きてる」
「こちらはもう亡くなってますね」
「……そうか」
アルムはそれを聞いてサニのに向けて手を合わせる。
手に纏う魔力の爪が互いにぶつかり、がちんと音を立てた。
「それは?」
「俺のいたとこでは獲を殺した時はこうするんだ」
「獲って……」
エルミラはまで出かけた言葉を押しとどめる。
これがアルムにとっての祈りなのだと、何となくわかってしまったから。
「ミスティ、こっちの運べる?」
「ええ、勿論」
包み込むようにトイを拘束している水がミスティの手のきに従うようにエルミラのほうにく。
宙に浮くその水はエルミラのとこまでくと、手のように水をばしてもう一人の生存者であるニコを拘束した。
「あら、この方々騒なものをいっぱいお持ちのようですわね……」
「憲兵に突き出せばそれで怪しいやつってわかるからそのままにしとけば?」
「それもそうですわね」
「すまん、助かった」
手際よく、そして嫌な顔せずに後処理をしてくれる二人にアルムは頭を下げる。
一つはすでにとなっているが、手を下したアルムを嫌悪する様子もない。
魔法使いは戦闘と切っても切れない職業だ。敵の魔法使いを倒すのなんてことは當たり前。
まだ學んでいるとはいえそれをこの二人は割り切れているのだろう。
貴族が恵まれているだけでないことの一端をアルムはし見た気がした。
「で、何それ? 獣化魔法?」
「ああ、まぁ、そんなもんだ」
ミスティに二人の運搬を任せたエルミラがアルムに近寄ると、アルムは一歩下がった。
魔法儀式(リチュア)の後に喧嘩になったのもあってエルミラはその態度にむっとした顔になる。
「はいはい、私に近寄られるのは迷ですかそうですか」
怪我もあって心配していたエルミラはすっかり拗ねてしまう。
「いや、そうじゃない。誤解しないでくれ」
「今さけたでしょ? 何が誤解なのよ?」
「いや、その――」
ぱんぱんと二人の問答を遮るように音が鳴る。
二人の様子を見てミスティが両手を鳴らしたのだ。
「はいはい、お二人とも喧嘩は後に」
「はーい……」
「すまない」
返事はしたものの拗ねるエルミラの目元にアルムが気付いた。
「エルミラ、目が腫れてないか?」
「腫れてない」
「し赤いような……」
「腫れてないってば」
「いや、だが――」
「アルム」
ミスティに呼び掛けられ、ミスティのほうを向く。
そこには飛び切りの笑顔を浮かべるミスティ。
「の顔にあれこれ言うのは失禮でなくて?」
「……はい」
目が笑ってない。
アルムはそれきりエルミラの目について追及する事は無かった。
「では、憲兵のとこに參りましょうか。どちらも治療しないといけないでしょうし」
「はどうしようか」
「事を話して憲兵の方に運んでもらいましょう。流石に三人運ぶのは無理なので……」
一番近くの駐屯施設に移する為に三人は屋から降りる。
トイとニコを拘束している水もそれに追従するように下へ。
魔法で人を二人運んでる景を勘違いされないように念のため大通りは避けた。
「あ」
「まぁ」
ミスティとエルミラは軽やかに著地した。
問題なのは今回の騒の當事者であるこの男。
「しまった……」
申し訳なさそうにアルムは呟く。
アルムの著地と同時に石造りの床がひび割れたのである。
エルミラは呆れたとため息を吐く。
「ていうか、いつまでそれやってんの? 早く解きなよ」
そう、もう戦闘も終わったというのにこの男は魔法をかけっぱなしなのだ。
その白い爪も白い牙も、今夜はもう必要になる場面は無いだろう。
エルミラが指摘すると、深刻そうにアルムは顔を俯かせた。
「それはできないんだ」
予想外の回答。
二人のどういう意味かわからないと言いたげな顔を向けられると、アルムはさらに困ったような表になった。
「その……この魔法、自分で解除できないんだ……」
「……え?」
「……はい?」
こうして三人は憲兵の駐屯施設にトイとニコを突き出した。
魔法を発させたままのアルムを見た時は、兵士たちがあわや武を持ちだすかという事態になりそうだったが、ミスティが事を説明することで事なきを得た。
アルムも抵抗する気はないと両手を挙げて降參のポーズをとっていたが、果たしてそれに意味があったかはわからない。
最初こそ怪しがられていたが、アルムが學院の制服を著ていて足に傷を負っていること、そして兵の一人がトイ達の出で立ちに何か心當たりがあったようで、すぐに被害者だと兵士達に判斷された。
制服は生徒しか手することができないので、元も學院に確認すれば問題ないと。
アルムは一夜拘束されると思っていたが、被害者でありかつ魔法學院の生徒をこの時間に拘束するわけにはいかないと今日の所は解放された。詳しい話は明日聞くらしい。
アルムが削った屋や、だまりとなった屋は気にすることはないとも言われた。
明日には事を説明してこの街に住む職人が直すそうだ。
街に被害が出るケースは珍しいが、魔法によって破壊された場所を修復するのは日常茶飯事であり、お手のらしい。
「まぁ、お嬢様……」
そして、寮の帰りに襲われたという事で寮の近くが危険かもとアルムはミスティの家に招待された。
ミスティの強気な提案とエルミラの援護撃の合わせ技をアルムが斷ることなど出來るわけもなく、明日の予定に寮を管理するトルニアに説教されるという予定が追加されることになる。
そんな事を聞かされていないラナは玄関で自分の主人を迎えながらも目を疑っていた。
「流石に魔法で武裝した男を招くのはお嬢様に仕えるとして一言申し上げざるを得ません」
「ち、違うのラナ! 友達なの!」
「友人関係を考え直したほうがよいかと……もしやああいう野蠻な方が好みで……?」
「そうじゃないのー!」
ミスティがあらぬ誤解をける中、逆にエルミラはアルムが自分をさけたという誤解が解けた。
魔法が解除できず、爪がうっかりれてしまえば傷つけるかもとアルムは二人から距離をとっていたのだ。
機嫌も直ったエルミラは玄関前で申し訳なさそうに佇むアルムを眺めている。
「まだ消えないのそれ」
「あいつらより速くけるようにって結構魔力つぎ込んじゃったからな……いつになるか……」
襲ってきた三人を退けた強力な魔法を纏っているにもかかわらず、本人は心底困ったようなけない表を浮かべている。
爪や牙を模した魔法とアルム本人の表が余りにも噛み合っておらず、エルミラはつい笑ってしまった。
「……何もおかしくないぞ」
「ごめんごめん」
「アルム、まだ消えないのですか!?」
「すまん、もうちょっと……もうちょっとで消えると思うから……」
「何かアルムの魔法ってちょっと大雑把だよね……」
「……自覚はある」
結局アルムの魔法は消えるまでに十分ほどかかったが、ミスティの屋敷にるのはラナの説得でそれ以上の時間がかかった。
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