學院長の部屋は本棟の最上階にある。

最上階には學院長の部屋くらいしかないので生徒はほとんどこの階には來ないのでアルム達も初めてだ。

最上階はアルム達が普段利用している階よりも豪華で、華な蕓品が等間隔に部屋まで並んでいた。

悲鳴をり付けたような壺や苦しむ男の彫刻と、し不気味なのが混じっているは學院長の趣味であろう。

しかし、その道の先にある扉は不自然なほど普通の木製の扉だった。

ヴァンは著くなりノックもせずに扉を開ける。

「連れてきましたよ、學院長」

ってすぐ目にるのは機と、その機に突っ伏している學院長の姿だ。

部屋の基調は白だが、部屋に置かれている調度品は基本的に金の細工がされていて一目で高価とわかる。

それにも関わらず、本人の突っ伏している機は他に比べて見るからに格が落ちる。よく見れば椅子も。

同じ部屋にある客人を座らせるであろうソファとは比べにはならない。

中央だけに敷かれている赤い絨毯は機までの道を示しているようだった。

この中で金持ちの部類にあるのはミスティだが、そのミスティの覚ともし離れているような部屋だった。

「眠い……ヴァン、眠くない？」

「確認をとってきましたが、目撃は五日前で間違いないと」

「朝ごはん食べたかい？　私は紅茶しか飲んでないんだ……こんなとこにいるべきじゃないんじゃないかな？　早急に朝食をとるべきではないかな？」

「念の為、周囲の住民にも聞き込みをするそうです」

「スコーン食べたいなぁ……焼きたてがいいね」

互いに一方通行に喋る學院長とヴァン。

どちらが話の主導なのかわからないが、真面目に話をしようとしているヴァンが優勢か。

連れてこられたアルム達三人は珍しいものを見るかのように眺めている。

「あれで會話が立しているのか？」

「一方的にお話されてるようにしか見えませんが……」

「そういえば私學式以來、學院長見てないかも」

後ろにアルム達の小聲の雑談が聞こえてきた頃、ヴァンは苛立ちを含めた聲で學院長に聲をかける。

「學院長。そろそろ真面目に」

「はいはい、じゃあヴァンもいらいらしてるみたいだし、とっとと話終わらせちゃおうか」

そこでようやく學院長は機から起き上がる。

眠いと言ってはいたもののその顔は微笑を浮かべており、泣きぼくろが特徴的で顔立ちは整っているが、妙な妖しさがあった。

「ロードピスの子が言った通り學式以來だね。私の名前を憶えているかな？」

「申し訳ない。全く覚えていない」

「ありゃりゃ」

馬鹿正直な返答に學院長は何故か嬉しそうだった。

アルムの隣に立つ二人は苦笑いを浮かべている。

「改めて、"オウグス・ラヴァーギュ"だよ。もう忘れないでね」

「直接話した人は忘れないので大丈夫です」

「それは何より。僕も君の名前は憶えているよ、學式の日は退屈だろうと思ったら君達のおかげで隨分楽しめたよ」

オウグスが言っているのはアルムとルクスの決闘のことだろう。

學式に話したスピーチの容もそのことだった。

「それで、君は何者？」

唐突に、オウグスはアルムに投げかける。

問いの意味がアルムにはわからない。

アルムの言葉を待たずにオウグスは続ける。

「まぁ、言ってしまうと君がスパイなんじゃないかって疑が出てるの」

「何故でしょう、學院長？」

聞き返したのはミスティ。

追われているのを目撃し、なおかつその場に居合わせたミスティからすれば何故アルムにそんな疑が出ているのか納得ができない。

エルミラも口にはしていないが、同じ気持ちのようで表が険しい。

「君、オルリックの子を倒した時、見たことない無屬魔法を使ったそうだね？

そして昨日の夜には三人の刺客に襲撃されて……撃破している。カエシウスの子とロードピスの子もそこにいたんだろう？」

「はい」

「いたね」

二人の返事に満足そうに頷くと、オウグスはアルムを指差さした。

「じゃあこの子の魔法見てる？　そして、この子の魔法を君達は知ってたかい？」

「……っ」

「それは……」

ミスティとエルミラは言葉を濁す。

アルムには昨夜オリジナルと説明されたが、実際の所はわからない。

古くからある魔法は書などで世界中に広まっているが、近年に新しく作られた魔法は基本的に他國にその知識が渡ることはない。

その國の作った魔法はいわばその國特有の技であり、魔法に合った用途の為に獨占するのが當然だからだ。

戦闘や破壊に秀でていれば特に重要で、敵國との戦闘においてその魔法は切り札になりうる可能もある。

「カレッラって、"ガザス"がすぐ隣にあるよね……君、ガザスのスパイだったりしない？」

そして、アルムは學式にルクスを、昨夜は三人の襲撃者と合わせて二回退けている。

それもマナリルの魔法使いの卵が全く知らない魔法で。

「昨夜の出來事もそれ関係なんじゃないのかな？　マナリルに潛している事が他國の偵にばれて口封じしようとした、それをネタに國が揺すられちゃうからね。

本當は自分から仕掛けたのに襲われたって噓ついたんじゃないのかい？　新しい魔法の試験にも都合がいい。そうじゃなきゃ君みたいな平民が襲われる理由が無い。君が本當に平民なら、ね」

潛している事が他國にばれれば自分の國がそれをネタに揺すられる。

昨夜の出來事はそれを防ぐための戦闘だったんじゃないかとオウグスは疑っているということ。

今アルムには報収集と新しい魔法の戦闘試験を並行して行っている他國のスパイなのでは、と嫌疑がかかっているのだ。

ガザスはマナリルの東に位置する友好國ではあるが、完全な味方というわけでもない。

ガザスの魔法使いが平民を裝って試験をけ、ベラルタに潛しているとしたら昨夜の襲撃者よりもこちらのほうが問題だ。

貴族として潛しようとすれば存在しない貴族だとすぐばれてしまうが、平民の名など覚えてる者はいない。

目立ちはするが事実関係は確認しにくい方法ではある為に無いとは言い切れない。

珍しい平民として潛しているスパイなのでは……。

そんなオウグスとヴァンの疑の視線がアルムに刺さっていた。

「あの、それだったら昨日三人とも殺してます」

アルムは疑われている事に不快をにすることもない。

それは自分が本當にスパイだったらと考えた時を想像して考えた一杯の弁解だった。

「んふふふふふ！　そうだね、そうそう。君の言う通りだ」

そんなある意味真面目な回答がツボだったのか、満足気にオウグスは聲に出して笑う。

その笑い聲にびくっとアルムのが一瞬震えた。

「本當にスパイで正を隠す為にあの三人を襲ったんならわざわざ憲兵に引き渡さないもんねぇ？」

「は、はい、そこかられたら臺無しですし」

「でもこの二人が來たから殺せなかっただけかもよぉ？」

楽しそうなオウグスの質問に、アルムは床に視線を落として考え始める。

しすると視線を戻して答えを言った。

「……それなら二人とも殺すかと。あいつらの短刀があるのでそれを殘しておけば疑いを向けられる可能も低いでしょうし」

例えとはいえ、アルムの騒な考えに隣の二人はぎょっとする。

対してオウグスはにんまりとヴァンのほうを向いて笑っていた。

「んふふ！　私この子好きだ！」

「そりゃよかったっすね……」

オウグスは満面の笑みだが。ヴァンはそれを視界にもれたくないのか目を逸らしていた。

表を元に戻して再びオウグスはアルム達のほうに向き直る。

「いやいや、すまないね。一応そういう話が上がったから確認さ、本當にスパイだなんて思っちゃいないよ。君の言う通り、スパイだとしたら襲ってきたのをわざわざ憲兵に引き渡す理由が無いからね、無理にでも殺しちゃったほうが楽だよね」

「はい、自分もそう思います」

「まぁ、そもそも平民として潛って注目され続けるから普通にばれるばれる。そもそも君は學する時に特に々調べたしね」

「え、どういう……」

アルムの何か聞きたそうな聲も無視して、じゃあこっからが本當の本題、とオウグスは機の紙を手に取った。

「えっとね……昨日の二人は自決したみたいだよ」