《【書籍化】白の平民魔法使い【第十部前編更新開始】》33.微かな違和
「あぁ……これから寮長さんに怒られに帰るのか……」
「まぁ、事があったわけだし、大丈夫じゃないかな? 學院からも通達がいってるだろう」
學院の授業も終わり、アルム達は帰路に著く。
今日は全員に魔法儀式(リチュア)の予定も無い。
門を出る前からアルムは気が重いようでいつもより小さく見えた。
「ベネッタはどこに住んでんの? 第二寮じゃないでしょ?」
「ボクは第一寮だよー、ミスティは……今更だけど、呼び捨てなのも失禮かな? 一応私の家はカエシウスの下だし……」
「ここではそんな事関係ありませんわ。そのままで結構です」
「そう? いやぁ、お父様が知ったら青ざめるだろうなぁ」
ベネッタを加えた陣はそんなアルムよりも新しい友人との友に忙しいのか晝休み以降三人で々と思い付いた事を聞きあっている。
足取りの重さをじながらもに覚えのある會話にアルムは一つベネッタにアドバイスを送る。
「気を付けろベネッタ。下手にさん付けすると怒るぞ」
「え、そんなところに怒りの琴線あるの?」
「あれ、僕はミスティ殿って呼んでるけど怒られたことないよ?」
一斉に注目され、ミスティは居心地が悪そうに小さく咳ばらいをした。
「それは……一言では表しにくいですわね。言ってしまえばただ私なりのこだわりがあるだけなのですけど……」
「まぁ、今更変えられないからいいんだけど」
「じゃあ、改めて……ミスティはどこに住んでるの? 第一寮じゃ見かけたことないよねー?」
首を傾げなら質問するベネッタにエルミラが耳打ちする。
「ミスティは家買ってるんだよ」
「うわー、流石お金持ち……」
「いやぁ、私達にはとてもできない」
「できないねー」
エルミラは味方を手にれてミスティをいじる方向に持っていく。
ベネッタも自分の家はミスティの家より下だと遠慮した直後にも関わず、エルミラと一緒になっていじり始めた。
エルミラと通じるものがあったのか、二人の息はすでに合っていた。
「あ、あれはラナ……使用人がどうしても著いていくと聞かなかったものですから……お父様を味方につけて無理矢理そうなっただけですわ。私は寮でもよかったのですけれど」
「アルムも昨日行ったんだろう? やっぱ凄いのかい?」
「凄い。なくとも俺にとっては豪邸だった」
「アルムまで……もう……」
アルムは純粋に褒めたつもりだったが、タイミングが悪い。
意図せずエルミラとベネッタのミスティいじりに參加した形になってしまっている。
ミスティはすっかり膨れ顔だ。
膨れ顔と言っても小のようでその容姿が損なわれることはない。
これ以上はとエルミラは人差し指を口の前に當てて即時中止を周りにアピールする。
ミスティを本當に怒らせてしまうのはエルミラの本意ではない。
ラナに教わったからかい方を実踐する日はまだ遠いようだ。
「ん」
ミスティに顔を背けられ視線を前に戻すと、アルムは目の間を歩く後ろ姿に気付く。
目の前を歩くのは長の子生徒。それはアルムにとって見覚えのある後ろ姿だった。
「リニス」
「む? ……っ!」
アルムに名前を呼ばれ、リニスは振り返る。
切れ長の眼で涼し気で大人っぽい印象をけるアルムの知人だが、振り返ったその表はアルムを見た瞬間、一気に青ざめていった。
リニスの顔からの気が引いた事にアルムも気付く。
「や、やぁ、アルム。昨日の皆もお揃いで」
「どうしたリニス、顔が悪いぞ」
「い、いや、その……し疲れていてね」
ミスティのように拗ねてではなく、ばつが悪そうにリニスは顔を背ける。
エルミラは自分を負かした相手と顔を合わせるのが気まずいのかとリニスを注視したが、リニスの意識はこちらを向いていないように見えた。
「何かあったのか?」
「いや、何かあったわけではないんだが……ここに來てから魔法儀式(リチュア)ばかりで疲れが出たのかもしれないね」
「そういえば魔法儀式(リチュア)ばかりしてるんだったな……疲れてるなら帰るだろう? 一緒に帰らないか?」
アルムの提案にリニスはぴくっとを震わせる。
それは直接話すアルムや注視しているエルミラくらいしか気付かないほど小さなものだったが、微かに揺している事が見て取れた。
「ああ……いや、疲れてはいるがまだやり殘したことがあってね。真っ直ぐ寮にとはいかないんだ」
「……そうか。なら呼び止めて悪かったな」
「いや、いいさ。それじゃあまた」
別れを告げるとリニスは逃げるように去っていく。
その後ろ姿をアルムは寂しそうに、エルミラは変なものを見る目で見送った。
「……どうしたの、あの人」
「調子悪そうというよりは、避けるみたいだったな」
「……嫌われたか?」
「何したの? 私との魔法儀式(リチュア)の後追いかけてたでしょ?」
心當たりはある。
昨日のエルミラとの魔法儀式(リチュア)に関してリニスを詮索してしまったことだ。
アルムはリニスのとある噓に気付いている。
だが、あの魔法儀式(リチュア)の場において自分は見學しただけの部外者だった。
何故噓をついたかなどと詮索する権利は無かったんじゃないかと、アルムは今にして思う。
それに、その噓の容が隠したくなるものであるという事はここ二週間の學院生活でアルムは理解もしていた。
「いや、詳しくは言えないんだよ」
それでも約束を破る気にはならない。
言わないでくれという約束はアルムの中でも目下継続中である。
「ああ、はいはい。聞かない聞かない」
「あのね、昨日の今日でまた喧嘩はやめてくれよ?」
「しーまーせーんー!」
エルミラは不満そうではあるが、問い詰める気はないようだった。
この話は終わりと先に行くエルミラをルクスは追いかける。
「あの人、そんなに魔法儀式(リチュア)やってるの?」
その二人の後ろを歩きながらベネッタがリニスの行った方向を見ながら聞いてきた。
何故そんな事を聞くのかと不思議に思いながらもアルムは頷く。
「ああ、そうらしい。それがどうかしたか?」
「いや、ボクにも魔法儀式(リチュア)申し込んできた人だったからさ」
「ベネッタにもですか?」
エルミラの時もそうだが、自分のクラスの生徒の魔法を探るのにも一杯な今の時期に他のクラスの生徒にも魔法儀式(リチュア)を申し込むのはよほど名前を知られている相手以外には稀だ。
ベネッタの話はリニスが魔法儀式(リチュア)に対して意的だということを証明するものであった。
「自分は未だから多く魔法儀式(リチュア)をする必要があると本人は言っていたからベネッタに魔法儀式(リチュア)を申し込んでもおかしくないんじゃないか?」
アルムの言葉を聞いて何か腑に落ちないことがあるのか、ベネッタは唸りながら首を傾げる。
「うーん……でも、あの人、他の人から魔法儀式(リチュア)を申し込まれても斷ってたんだよ」
「何?」
「一週間くらい前かな? ボクが魔法儀式(リチュア)を斷った後すぐに他の人があの人に魔法儀式(リチュア)を申し込んでたんだけど……悪いが、他を當たってほしいって言ってたから」
こんな些細なことでベネッタが噓をつく理由がない。
しかし、本當だとしたら何か行が噛み合わないのも事実。
ミスティも同じように疑問を抱いたようだ。
「どういう事でしょう? 未だというなら魔法儀式(リチュア)を申し込まれるのは持ってこいのはずでは……」
「……わからん。戦う相手を実力の近そうな相手に限定してる可能もあるからな」
「確かに。戦績は績にも影響を及ぼしますし、負ける可能の高いと踏んでいる相手の申し出は斷っているだけかもしれませんね」
自分で言ったものの、に刺さる小骨のようにどうにも引っ掛かるものがある。
ミスティは同意してくれたものの、アルムの中にはもやもやとしたものが殘っていた。
「……気にしすぎか」
隣のミスティとベネッタには聞こえない小さな聲でアルムは呟く。
そんなことよりもこれから自分に課される課題の方が重要だ。
二週間後には実地に出る。
初めて魔法使いの卵として依頼をける機會だ。
他人の詮索をしている余裕など無いのである。
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