《【電子書籍化】神託のせいで修道やめて嫁ぐことになりました〜聡明なる王子様は実のところ超溺してくるお方です〜》第三十六話 神殿の再建
胃が治った翌日。私はサナシスから執務室への呼び出しをけた。よく考えれば、呼び出しは初めてのことだ。何かあればいつもサナシスが私の部屋へ來てくれていたのだから、そうではない何か正式な、通達や命令があるのだろうか。私は張する、しかし呼び出されて時間をかけるわけにもいかない、支度もそこそこに慌ててサナシスの執務室へと向かった。
そして伝えられたのは、意外なことだった。
「レテ神殿の再建、ですか?」
私はいまいち、その言葉を飲み込めていなかった。私の仕えていた忘卻の神レテ、その神殿は大陸全土を見回しても數件あるかないかだと聞いたことがある。しかし主神ステュクスをはじめとして、神々への信仰厚いステュクス王國にはさすがにあるはずだ、私はそう思っていた。それが『再建』、とはどういう意味だろうか。
サナシスは含みありげに頷く。
「以前、お前が主神ステュクスの筆頭巫になるから、修道として仕えていた忘卻の神レテへ報告に行かなければならないと話していただろう。そこで、王都にレテ神殿がないか探したところ……なくてな」
「な、なかったのですか?」
「おそらく訪ねる信徒がないことから忘れ去られたのだろう。書庫にある數百年前の地図でようやく痕跡を見つけたのだが、今そこは地元市民憩いの公衆浴場となっていて、跡形もなかった」
私は唖然とした。開いた口が塞がらない。
信仰の中心地たる神殿、それすらも忘れ去られていた。忘卻の神レテよ、あんまりではないでしょうか。
だけど、サナシスはそれだけで終わらせたりはしない。
「そこで、王都の中心部で空いている件を改築して、急ごしらえではあるがレテ神殿を建てる。ただ、祭神たる忘卻の神レテは、あらゆる文獻で供や作法についての記述が失われていて、王都にいる神たちもその詳細がまったく分かっていない。だから忘卻の神レテの信徒であるお前に、神殿の再建を手伝ってもらいたい」
そこまで忘れ去られているとは誰も思ってはいなかっただろうけど、もしかすると忘卻の神レテすらも思ってもみなかったことだったりしないだろうか。とにかく、私は忘卻の神レテに仕える修道で、つい先日加護をいただくという神託も降されたわけで、ここまで來れば何もしないという選択肢はない。むしろ、喜んで恩返しをさせてもらおう。
私はサナシスの提案をけれることにした。
「かしこまりました。忘卻の神レテの為、できるかぎりのことはさせていただきます」
「そこまで気を張らなくていい。レテ神殿を建立することには、別の目的もある」
「別の目的?」
「ああ。舊ウラノス公國の騎士たちを、新造するレテ神殿騎士団へ丸ごと編する。これならステュクス王國で暮らすための分を與えられるし、給金も支払える」
私は首を傾げた。またしてもの飲み込めない言葉。ウラノス公國に舊を付ける意味、神殿騎士団への編、ステュクス王國で暮らす。これらは——一、どういう出來事があったのか、その意味するところは何なのか。私にはあまりにも報がなさすぎて、想像すらできない。せいぜいが城下町の食堂(タベルナ)でなぜか再會したコーリャ青年、それとおそらくはその仲間の騎士たちがいることくらいしか知らない。
サナシスに説明を求めることは、悪いことではないだろうか。私は恐々、サナシスへ尋ねてみた。
「あの、サナシス様。なぜコーリャが……その、話を聞くに、ウラノス公國にいるはずの騎士たちがステュクス王國にいるのですか? 一、何が起きているのでしょう?」
聞いてはいけない、とは思わなかったけど、私がサナシスの手を煩わせることを許されるのか、それが分からなかった。
どのようなことを知って、どのように行すべきか。人と接してこず、世間知らずの私には、何もかもが分からないのだ。知るべきこと、知らなくていいことの區別が付かない、それだけは知っている。だから、頭が良く分別のつくサナシスにその點については任せておくべきだと思う。
でも——。
そんな私の戸いを、サナシスはやはり捉えてくれた。
サナシスは真摯に、こう言った。
「エレーニ。俺は主神ステュクスに誓って、お前に噓を吐かない」
ああ、そんなこと、言わせたくはなかった。
私は後悔した。私がサナシスを信じていないみたいだ。サナシスが私に噓偽りを告げるはずがない、もし告げられたとしても私には分かりようがないだろうし、分かったとしてもそれは無視すべきだ。
ステュクス王國が誇る聡明な王子の名を汚すことは許されない。だから、私は後悔して、口をつぐむ。
「伝えるべきことは伝える。ただ、今教えられることはない。ウラノス公國からとある事で騎士たちが出奔し、ステュクス王國はそれをけれることとした。そのために、お前の力を借りたいと思っている」
それで十分、私に必要なのはその報だけなのだとあなたが言うのなら、けれる。
サナシスの誠意を認め、私は謝意を示した。
「ありがとうございます、サナシス様。騎士たちに代わり、私からもお禮を申し上げます」
「気にするな。ああ、それと、よければお前をレテ神殿の要職に就けたい。俺の名代と思ってもらっていい、そうしておけば話が早いからな」
「では、微力ながら、盡力いたします。とはいえ、ただの修道だった私に務まるでしょうか」
「他の誰も忘卻の神レテに詳しくないから、この國ではお前が一番知っていることになるはずだ。まあ、それもどうかと思わなくもないが」
それに関しては私も思わなくもない。私はただの修道、それも信仰心は薄かったのだから。
とはいえ、忘卻の神レテは寛大だ。
私の頭の中に、聲が響く。
「別にいいけど……あ、エレーニ、今の話は全部了承するわ。あと、あなたをレテ神殿の神長兼巫にするから、よろしく。ステュクスお母様からも追認の神託があるから心配しないで」
ぱちん、と私の意識が現実へ引き戻された
私は周囲を見回し、そしてつぶやいた。
「今、忘卻の神レテから神託が」
「何!?」
その言葉を聞いたサナシスは思いっきり立ち上がって椅子を後ろへ倒し、目を見開いていた。
結局、私は神を呼ばれてきちんと忘卻の神レテの神託を公式文書として記述されてから、神殿予定地へ出かけてみることになった。
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***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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