《【電子書籍化】神託のせいで修道やめて嫁ぐことになりました〜聡明なる王子様は実のところ超溺してくるお方です〜》第三十九話 信仰には一點の曇りもない
エレーニに仕事を與えて、明日で三日になる。
深夜の執務室で、卓上の水晶細工のランプに増幅された蝋燭の火の本を見つめながら、サナシスは椅子に深く背中を預けた。獨り、考えごとをしたくて、書のイオエルも遠ざけてある。
エレーニには毎日會ってはいる。朝夕の食事はともにし、風呂は別々にるようになったものの大したことでもない。むしろ、世話がかからなくなったと思ったほうがいいだろう。いつまでも年頃の娘を大型犬のように洗うわけにもいかない。それに、自分がよくてもエレーニは本當は嫌がっているのかもしれない。すっかり頭から抜け落ちていたが、淑への気遣いは主神ステュクスの教えにもある。だから、そろそろ止めるべきだった。
——そうは思うが、今度は逆に心配になってきた。
サナシスの脳裏には、初めて見たときの、痩せ細った、というにはあまりにも発育の遅れているエレーニの姿が蘇った。最低限、生きるためだけのを保持するかのような劣悪な食生活、奴隷よりもマシな住環境、著られているような大人用のボロボロのチュニックだけしかない様式、これらを十年も続けていればああなるものだ、と強引に納得させられてしまった。それがたった數週間で改善するか、と言われれば、まだまだ先は長い。それでもじっとさせておくより、何か仕事を與えたほうがいい、と判斷して、レテ神殿の再建を託した。心配だが、彼を籠の鳥にしたいわけではないのだから、それは正しい選択だったとサナシスは思っている。
だが、彼は何をしたいのだろう。何をしたくなくて、何をしてしいのだろう。
それは常識的に考えれば普通の生活、王子妃という分相応の待遇だろう。修道だったとはいえ元は公、やんごとない分のだ。そのくらいの願はあってしかるべき、サナシスもそう思うのだが——。
「……エレーニが何かをする、という姿がまったく想像できない」
サナシスがここ數週間接してみて分かったのだが、エレーニはほとんど何も求めてこない。與えられるものに対してさえ臆病で、聞いたところ城下町の食堂(タベルナ)でギロピタを前にして食べたいと主張(結局腹を壊した)したくらいだ。
ふと、サナシスは一つだけ、エレーニが明確にしているものがあることを思い出した。
「復讐、か」
あのエレーニがたった一つ、神に縋るほど求めるもの。
それほどまでにするものなのか。サナシスには分からない。人生は萬事順風満帆で、誰かにそこまでの仕打ちをけたことなどない、恵まれた王子には分かりようのないことだ。
その復讐は主神ステュクスによって、し遂げられることが決まっている。否定などしない、ただ主神ステュクスの信徒としてサナシスはその決定をけれる。すでにウラノス公國は滅びの道を辿り、ウラノス公の死の知らせも裏にけた。ならば、これ以上は何があるのだろう。
まだ、復讐は終わっていないのではないか?
何が、と確かなことを答えられはしないが、これだけのことでエレーニは幸せになるのか、と問われれば、まだその本質には至っていないように思うのだ。
これから何が起きる。そしてそのことは、エレーニが知(・)り(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)なのか。
その見極めこそ、自分に求められているのではないか。
エレーニがこの俗世の醜い出來事を自分から知ろうと思うなら、止める筋合いはない。だが、天災のように押し寄せてくる侫悪な輩と悪逆の非道からは、サナシスはエレーニををして守る。
——主神ステュクスよ。それこそが、俺に求められている役割でしょう。
問いかけても、答えなどない。サナシスは巫ではないのだ、神の聲など聞こえない。
だが、信仰には一點の曇りもない。
サナシスは、蝋燭の火を消し、執務室から出ていく。
エレーニのために何かをしてやりたいと強く思う。それは別に、や善意といったばかりではなく、そう——それが正しいのだと、サナシスは確信していた。
ただ、ほんのしだけ、そこにわがままを足すのならば。
上弦の月が照らす、大理石の廊下を歩いていたサナシスの足が、止まる。
數瞬だけためらって、それから、サナシスは自分の寢室ではなく、別の目的地へと足を向かわせることにした。
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