《【電子書籍化】神託のせいで修道やめて嫁ぐことになりました〜聡明なる王子様は実のところ超溺してくるお方です〜》第五十話 込み上げてきた怒りと吐き気
思わず聲量を考えず、素っ頓狂な聲を出してしまった。
私は口を抑え、レテの困ったような聲に耳を傾ける。
「多分だけど……サナシスの代わりに、々な呪いをけてるんだと思う。サナシスへの呪いを誰かが神々に祈り、それを聞き屆けようとしたけど、ステュクスお母様の加護の前には無意味だから、代わりにヘリオスへ全部なすりつけられてる。それに、ステュクス王國の第一王子だから生まれる前から一に呪いをけてきたみたい」
それは多分、私には想像もつかない世界の出來事だ。
人間は神に祈る。それは願いを葉えてもらうためだ。しかしその中には、悪意をもって願うこともある。それがいわゆる呪いであり、神は人間の善意や悪意なんかまったく考慮しない。葉えたいものを葉え、葉えられるものを葉える。そういうことだろう。
それが——どんな結果を招こうとも、神は痛すらじない。ちょうど、主神ステュクスがサナシスのために何でもして、他の國がどうなろうと知ったことではないのと同じだ。
しかし、レテは若干違うようだ。
「こんなことがあるから、私は願いとか祈りとか、嫌いなのよ……誰も彼も、神々も人間も、あんまりにも無責任すぎるわ」
はあ、とため息がばっちり聞こえた。レテは神に似つかわしくなく、苦労のようだ。というより、私が祈らなかったことは、逆にレテにとっては気軽でよかったのかもしれない。私はついそんなことを思った。
しかし、それはどうでもいいとして、肝心なのは呪いだ。ヘリオスがどうしようもなく神を信じず、あの溫室庭園から出られないほど健康に問題があることは私も知っている。それが呪いのせいであるなら、ステュクス王國第一王子としての責務も果たせないほどであるなら。それはとても恐ろしいことだ。人々はヘリオスを呪い、サナシスを呪い、神々はそれに応えたというのだから。
私は首を振る。そんな世の中のことを、知りたくはなかった。いくら醜く嫌いな世界でも、悪意を振り撒くような世界であってほしくはなかった。私は、込み上げてきた怒りと吐き気を我慢して、レテへ質問する。
「あの、呪いのことは、當然、ヘリオス様はご存じではない」
「うん、ステュクスお母様もそういうことには神託を下さない。それに、人間は知らないほうがいいこともある」
「どうしてそうなったのでしょう。ヘリオス様は、呪われるような悪いことなどしてないのではありませんか」
半ばその言葉は、吐き捨てるようになってしまった。本音を言えば、強く誰かを非難したいほどに、私はにつまされていた。
「意外ね。あなたは、サナシスのことだけを考えるかと思ってた」
私はレテへ、そうではないのだと、言いたかった。
「おつらい境遇にあるヘリオス様も、サナシス様のことを大切に思っていらっしゃいます。そのような方が、悪い方だとは思えないのです。それに、サナシス様なら、このことを知ればヘリオス様を助けようと全力を盡くされるはず。ただ、お伝えすべきかどうか……サナシス様は、ヘリオス様が自分の代わりになって呪いをけていると分かれば、大変落ち込まれるでしょうし、きっとご自分を責めてしまいます」
それは想像に難くない。サナシスは善良で、心優しい青年だ。いくら世界の醜さを知っているとはいえ、兄であるヘリオスのつらいの上が自分のせいだった、などとなれば、どうなる。呪いを與えた神々を憎み、その敬虔なる信仰心は潰えてしまうのではないか。もしくは、主神ステュクスへ、私のように復讐を願ってしまうのではないか。サナシスがめば、主神ステュクスはきっと葉えてしまう。そして、その影響は世界にどんな被害を與えてしまうだろう。もはや、私ごときには考えつかない悲劇を生むだろう。
だめだ。そんなことは、あってはならない。
「どうにか、どうにかなりませんか。私にできることであれば、何でもします」
「うーん……これまでけた呪いはもう発してるからどうしようもないけど、これからける呪いなら何とかなるわ」
「本當ですか?」
「エレーニ、ステュクスお母様を説得して、ヘリオスへ加護を與えるよう頼んで。そうすれば、マシになるはず」
説得、それはまたおしゃべりではない私には難易度が高い。
だが、やらなければならない。このままヘリオスが不幸の谷底に落ちてしまう前に、サナシスが自分を責める前に、しでも狀況を改善しなければならない。それが、知ってしまった私の責務だ。
「私に、できるでしょうか」
「うん……あなたしかできない」
レテの言葉に、私は信を置くことにした。
主神ステュクスを説得する。その任務を負い、初めて私は、誰かのために祈る。
「かしこまりました。早速神域アルケ・ト・アペイロンへ向かい、神殿で祈りを捧げます」
私の決意を聞き屆けたのか、レテの聲は聞こえなくなった。
私は、急いで王城へ戻ることにした。
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