「できたわっ!!」

「お嬢様、おめでとうございます！」

やっと試作品が完した。アレスが持ってきてくれた黒水晶のおかげで、役に立たなかったの部位で竜人の特定ができるようになったのだ。

「アレス、試したいから協力してくれる？」

「もちろんです」

「それでは悪いけど髪を一本もらえるかしら？」

私はアレスの艶のある黒髪を一本もらい、魔道の読み取りプレートに挾んでセットする。それを魔石板に差し込んで魔力を流し込んだ。

「いいわ、好きなところに転移して。転移したらすぐに魔力封じの腕をつけてね」

「かしこまりました。では」

髪は手が簡単だけど水晶では検知できるまでにいたらず諦めていた部位だ。などのなら水晶でもできたけど、すでにいない人を探すのには使えない。黒水晶のおかげで問題點が解決したのだ。

アレスが転移魔法で移したのを見屆けて、魔石板に視線を落とす。中心にあった青くる點が一瞬消えて、畫面の右上にあらわれた。

その青い點を目指して王城の中を突き進んでいく。

「ここにいるはずなんだけど……」

青い點は王城の庭園でっていた。魔石板の左橫のボタンを押して表示範囲を調節していくと、また私から離れていく。また青い點に向かって進むと、竜を模したデザインの噴水の前でアレスが佇んでいた。

水飛沫を背景に太にをけるアレスに思わず見惚れてしまう。ずっと見ていたいようなしい一枚の絵畫のようで、とっくに見つけているのに聲をかけられなかった。

「問題はなさそうですね」

「あ……鉱脈探しでも使っていたからよ。念のため他の人でも試したいわ」

「承知しました。手配いたします」

見惚れていたのを誤魔化すように會話を切り上げた。おかしい……アレスに著されたわけでもないのに心臓がバクバクしている。

前は著したときだけドキドキしていた。それが今ではふとした拍子に反応するのだから、この數ヶ月でアレスを見たらドキドキするように刷り込まれたのかもしれない。

まんまと策にハマったような気がしなくもない。でも確かには反応しているけど、これがしてることになるのかわからない……どうしたらそう判斷できるのかしら？

そんなことを考えつつ魔道のテスト使用を問題なく終えた。アレスに頼んでジュリア様の髪を手にれ準備を整えたうえで、竜王様に報告しにいくことになった。

「もうできたの!?　依頼してからまだ二週間だよ!?」

竜王様の執務室は山積みの書類があふれかえり、目の下に隈を作った事務が三人いて驚きに目を見開いていた。何やら青ざめた顔をしているのは気のせいか？

「はい、アレスのおかげです。それでは、私はこれで……」

「よし！　じゃぁ、カイルに合流しよう！　このまま転移しちゃうね。アレスはロザリアちゃんを守るんだよ」

「言われなくても承知している」

「ええ!?　魔道作ったら終わりじゃないんですか!?　ちょっと待って、せめて著替えを————」

私の訴えも虛しく、魔道開発用の見窄らしい格好のまま竜王様の転移魔法が発される。視界が真っ白に染まる瞬間に見えたのは、竜王様を引き止めようとする事務の方々だった。

ごめんなさい、こうなるなんて思ってもみませんでした。本當にごめんなさい。

屆かない謝罪を心の中で繰り返すばかりだった。

＊　＊　＊

白いが収まると、いつもより暖かい風に私の髪が揺れて白がはためいた。気がつけばアレスの腕に抱きしめられていて、あわてて距離を取る。

「つ、著いたのね！　……ところでここは何処かしら？」

「ここはブルリア帝國の帝都だよ。カイルはここにある別邸を拠點にしてジュリアを探しているんだ」

竜王様は迷いなく街を進んで、帝都のはずれにある古びた屋敷に足を踏みれた。見た目とは裏腹に部はしっかりと手れされていて、華さはないが落ち著いた家や合いでまとめられている。

二階に続く階段を上がり、突き當たりの部屋を竜王様がノックする。けれども返事はなく、そっと扉を開ければ左奧にあるベッドで眠っている人がいた。

り切れてボロボロの服をにまとい、布すらもかぶらずベットの上にを投げたまま眠っている。水の髪はくすんでボサボサだった。

「カイル、起きなよ。魔道が完したんだ」

その一言でパチリと目が開き勢いよく飛び起きる。

「できたのか!?　それで魔道は!?」

「はい……これです」

夕日のような橙の瞳をギラつかせて、私から奪うように魔道をひったくる。

「こらっ！　カイル、ちゃんとお禮を言わないとダメだろっ！」

「ジュリアがこれで見つけられるのか！　これはどうやって使うんだ!?」

「魔力を通せばすぐに使えます。魔石板の中でる青い點が、捜索対象者です」

「はあ!?　魔力を通しても何にもならねえぞ!!　不良品か!?」

走った目のカイル様がギロリと私を睨みつける。竜王様が慌ててなだめようとして、アレスは私の腕をそっと引いてカイル様に絶対零度の視線を投げつけている。

「ちょっと、カイル！　落ち著いて！」

「お嬢様は私の後ろに下がってください」

私に食らいつきそうな勢いでカイル様が向かってきたところで、いきなり後方に吹っ飛んでいった。さっきまで眠っていたベッドの柱に背中を打ちつけて、床に転がるように倒れ込んでき聲をあげている。

アレスがしっかり守ってくれたので、私はれられることすらなかった。

「がはっ……」

「落ち著けと言っているでしょう、カイル」

し低めの落ち著いた聲の主人は魔道を手にして凜と佇んでいる。カイル様を吹っ飛ばした右足をそっと下ろしたのは見なかったことにした。

腰まである黒髪を後ろでひとつに束ねた暖かみのある橙の瞳をした長のが、優しく微笑みかけてくれる。

「貴がロザリアね？　私はサライア、竜王様の妻よ」

その優しげな微笑みがアレスとよく似ていた。まるで騎士のような格好だが、それがまたよく似合っていて思わずポーッとしてしまう。

我に返って慌てて淑の禮をとった。

「はっ、ご挨拶が遅れました、ロザリア・スレイドと申します。お初にお目にかかり恐悅至極に存じます」

「えっ、僕のときよりものすごく丁寧なんだけど!?」

「まさかお嬢様が母上に心奪われるとは……」

連れのふたりが何やら落ち込んでいるけど、気にしていたら話が進まない。先程のカイル様の様子から一刻も早くジュリア様を見つけた方がよさそうなのでスルーした。

「ふふっ、可らしい方ね。私の方こそカイルを抑えるのに付きっきりでごめんなさいね。こんな形だけれど會えて嬉しいわ」

そこでダメージから回復したカイル様が會話に割り込んでくる。サライア様は微笑みから一転、凍りつくような視線を起き上がったカイル様にむけた。

「っ、母上っ！　いきなり蹴り飛ばさないでくれっ！」

「その前に己の言を振り返りなさい。この娘はアレスの番よ。死にたいのかしら？」

「あっ……いや、その……あー、ダメだ。余裕なさすぎて、申し訳ない」

そう言って素直に私に頭を下げてくれた。どれほどの苦悩があるか想像しかできないけど、それだけ必死なのだろう。

「いえ、大丈夫です。ただ、この魔道は代わりがございませんので、慎重に扱っていただけると嬉しいですわ」

「そうか、わかった。あ、自己紹介もまだだったな。もう知ってると思うけどカイルだ、よろしくな。それから魔道を開発してくれてありがとう」

なんとなく素直な方なのだと思った。そして竜人にとって番とはとても大きな存在なのだとでじる。

竜王様もサライア様のことでスピア帝國を滅ぼしたという。それ程までに必要な存在なのだ。

「アレスの大切な人たちのためなら何てことないです。さあ、ジュリア様を探しに行きましょう！」

「っ！　ああ、頼む！」

アレスにとっても私はそんな大きな存在なのだろうか？

そうだとしたら嬉しい、とじる。

ずっと側にいてくれて惜しみなくを注いでくれた。あまりにも渇いて麻痺していた私の心は、いつのまにか々なであふれている。

いつまでも目を逸らしていられない。

今回の事件が片付いたら、恥ずかしがらずにちゃんと考えてみよう。

魔道は使い慣れている私に作してしいと戻され、そのままジュリア様の捜索に加わることになった。