《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》21話 あのときとは違う
魔石板を作して青くる點に向かって最(・)短(・)距(・)離(・)を突き進む。先頭をゆくのは私とアレスだ。
その後ろにカイル様がいて、さらに竜王様とサライア様が萬が一の暴走を止めるために続いている。
私が魔道を作してアレスに指示を出しながら帝都の街を直線的に走り抜けた。道なき道を移するので、當然のようにアレスにお姫様抱っこされている。
アップダウンの激しいコースを壽命がまる思いでアレスにしがみついていた。
「お嬢様、何があっても支えますから安心してください」
「わ、わかってる! でもっ! 刺激が強くてっ!」
「では私の首にしっかりと腕をまわしていただけますか?」
「そ! そんなっ!」
アップダウンはいいのだ。問題はそこではない。
アレスが近すぎてジュリア様を助ける前に、私が天に召されてしまいそうなのだ。
真剣な橫顔も、ふと私に視線を向けて微笑むのも、すべてが私を沸騰させる要素になっている。ラクテウスに來たときも同じように抱えられたけど、あのときとはまったく違うのだ。
不謹慎だと思っているのに、が勝手に反応してしまう。
この生反応は明らかにおかしい。アレスに強烈に想ってもらえたら嬉しいなんて考えてから、さらにおかしくなっている。でも今はジュリア様を助けるのが最優先だから、なんとかそちらに意識を集中させた。
「ここだわっ! この屋敷にジュリア様がいる!!」
私の聲を聞いたカイル様はさらに加速して屋敷へと突っ込んでいく。竜王様たちは一旦足を止めて、屋敷が見下ろせる大木にとどまった。
「まったく、暴走しすぎだわ」
「仕方ないよ、ジュリアの居場所がわかったんだ。まあ、周りに被害が出ないように結界張るしかないかな」
竜王様は魔力を解放して屋敷を取り囲むように、強力な結界を張っていく。一枚だけでも國家防衛レベルなのに、それを二枚、三枚と重ねていく。竜王様の実力が垣間見えた。
「アレス、帝國軍へ通報してきなさい。ここは奴隷商人の屋敷なの。カイルの様子だと制圧まで十分とかからないわ」
「お嬢様がいるから無理」
「竜王様は結界を張っているし、私は帝都でいていて顔が割れているからアレスが適任よ。ロザリアはアステル國の元王太子妃で顔バレする危険があるから連れていけないわ。私が守るから安心しなさい」
「……お嬢様、五分で戻ります」
アレスが一瞬ものすごく嫌そうな顔をしたけど、狀況的に仕方ないと判斷したのか転移魔法で姿を消した。私はサライア様に肩を抱かれたまま、アレスが戻るまで大人しく待つことになった。
「……私のことはご存じだったのですね。その、離縁されたことも、どのような妃だったのかもご存じですよね」
「確かにロザリアのことは以前から知っていたわ。アレスが番を見つけたと知らせを寄越してから、ずっと見守ってきたもの。アレスが我慢強すぎて進展しないし、むしろどうやって掻っ攫うか考えていたところだったのよ」
かなり騒な話で思わず私の噂を聞いていないのかと問いかける。
「え? あの、想もなくて誰にもされない妃だと聞いてないのですか?」
「え? 可憐でしくて有能な妃を離縁して追い出したバカ王子の話しか聞いてないわ」
サライア様の切り返しに驚いた。私の話を聞いていたなら、悪い印象を持たれていると思っていたのだ。それが逆に譽められたようで、居心地が悪いくらいだ。
「多分、他國も同様よ。特に帝國の皇子がロザリアを狙っていたから、余計に帝國軍には知られたくなかったの。不安にさせてしまったかしら? 誤解しないでね、私たちはみんなロザリアに會いたかったのよ」
「そうでしたか……そう言ってもらえて本當に嬉しいです」
ここで思いもよらない話が聞けた。どうも私が蔑まれていたのはアステル王國の中の話だったらしい。私のことをちゃんと見てくれる人が他にもいたことに心が溫かくなる。
アレスが転移してほんの二、三分後に屋敷から発音が聞こえてきた。三階部分の窓ガラスがすべて割れて、屋敷から商人の格好した者たちが飛び出してくる。遅れて使用人がパラパラと逃げ出していた。
それでも強固な三重の結界に阻まれて屋敷の周囲から離れられないので、竜王様はさらに小さな結界を張って保護していく。
「これで屋敷の人たちは大丈夫かな。あ、カイルが派手に暴れはじめたね」
その時、屋敷の右側が轟音とともに吹き飛んだ。計り知れない竜人のパワーに絶対に怒らせないようにと心に誓う。そのタイミングでアレスが転移魔法で戻ってきた。
「ただいま戻りました。お嬢様、変わりありませんか?」
「アレス、おかえりなさい。私は大丈夫だけど、屋敷が悲慘なことになってるわ」
「ああ、まだ理が殘ってますね。おそらくジュリア様が見つかったのでしょう。もうそろそろ終わるはずです」
あれで、理が殘っているの……? そうね、きっと理を失ったら國ごと滅ぼしてしまうものね。
屋敷が靜かになってから二十分後、カイル様がひとりのを抱きながら私たちの元へやってきた。
「父上! 母上! ジュリアを見つけました!!」
「カイルってば、もう恥ずかしいから降ろしてよー!」
「ダーメ。城に戻るまでは絶対に離さない」
「えええ! ウソでしょー!?」
輝くような金の髪にヘーゼルの瞳のジュリア様が涙目になっている。見つかってよかったのと、カイル様を見つめるアレスの眼差しが穏やかで私も嬉しさで笑顔になった。
* * *
帝國軍が屋敷に到著して処理に當たるのを確認してから、ラクテウスに戻ってきた。ジュリア様によるとあの屋敷はある商會の拠點となっていて、違法に仕れた商品や奴隷まで隠してあったそうだ。
ジュリア様は奴隷として囚われていて、一週間後には売られる予定になっていた。
カイル様が証拠まで吹き飛ばしそうになっていたのを慌てて止めて、証拠をまとめて一階のエントランスに置いてきたと話していたので、今頃は帝國軍は大忙しだろう。
竜王様は戻ってきた途端、事務に詰め寄られて政務を放棄したことがサライア様にバレて怒られていた。そして冷気がれ出すサライア様に引きずられ執務室に連行されていった。
カイル様も溜まっていた政務の片付けに追われていたので見かねてアレスに手伝いを頼み、今はジュリア様たっての希もあって醫師の診察に付き添っている。
「ふむ、特に問題ないようですな。ただ一ヶ月も囚われていたのですから三日は安靜にして変わりがないか注意してください」
「はい、ありがとうございます」
醫師が部屋から出て行くと、パッと顔を輝かせてジュリア様が私の手を取った。
「ロザリア様っ! 今回はわたしを探す魔道を作ってくれたと聞きました! 本當にありがとうございます! それにずっとお會いしたかったです!!」
「いえ、できることをしただけです。アレスの大切な家族ですもの。ジュリア様は私にとっても大切な人ですわ」
「はああ! ロザリア様が天使すぎるっ……! どうか、どうか私と仲良くしてくださいませんか!?」
「そんな……こちらこそ仲良くしていただけたら嬉しいですわ」
「ああっ! 今日はなんて素晴らしい日なのっ!! 困ったことがあったら、なんでもご相談くださいね!!」
頬を染めて慕ってくださるジュリア様に私も嬉しくなって自然と口角が上がっている。考えてみれば、同の友人は初めてかもしれない。アステル王國では社界に出たときから蔑まれていたので、仲良くしてくれる同すらいなかった。
「それよりも、どうしてあの様な怪しい商人に捕まっていたのですか?」
「あー、それは……わたし平民なのですが、実家の母が病気で定期的にお見舞いに行ってたんです。ところがあの商人が醫者を買収して薬代を値上げしていて実家が借金まみれになっていて……妹の代わりに奴隷として連れていかれたのです」
「まあ、そうでしたの……悪どいことをする商人が捕まってよかったわ」
ジュリア様がポカンとした顔で私を見つめている。何か変なことを言ったかと考えたけど心當たりはない。でも友人なんて初めてだから何かやってしまったのかもしれない。
「あの、ジュリア様? 私何かおかしなことを言ったかしら?」
「いえ、違うんです。ロザリア様は貴族のお嬢様だと聞いてたのに、わたしみたいな平民にも態度が変わらないから嬉しくて……」
「當然ですわ。國を底から支えてるのは、その土地で逞しく生きる人たちですもの」
この意見もアステル王國の王族として異端だと言われていた。王族としての矜持が足りないと言われ続けていたと思い出す。本的に考え方が違っていたのだ。
ジュリア様の笑顔を見れば、私はこのままでいいのだと思えた。
「話を戻すけど、これで商會は完全に潰せたのかしら?」
「ええ、商會長がアステル王國から引き上げてきたタイミングで運が良かったのです」
「アステル王國から?」
「はい、確か……ファンド? ファンタ? とにかく男爵家の出りの商人だったのが、男爵がヘマをしたから逃げてきたと言ってましたよ?」
アステル王國の貴族名鑑を頭の中で展開させて、もれなく覚えた男爵家の家名をさらっていく。
「……まさかと思うけどファンクではないかしら?」
「ああ! それです! それ!」
ああ……余計なとばっちりがくる前にさっさと國から出してきて正解だったわね。スレイド伯爵領は大丈夫かしら? そろそろお父様にも手紙を書いてみようかしら。
「そんなことより、ロザリア様は困っていることや悩み事はないですか?」
「悩み事……」
「わたしでよかったら話してください! しでもロザリア様の力になりたいのです!」
「ありがとうございます。何かありましたら相談しますわ」
悩み事というか、聞きたいことならある。
でも今日友人になったばかりのジュリア様に話すには早い気がして、打ち明けられなかった。
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