《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》27話 あなたに會いたい
アステル王國に連れ去られてから一週間が過ぎた。
私はただ王太子妃の部屋でウィルバート殿下に世話をされる日々を過ごしている。今日も流行りの菓子を取り寄せたとお茶の用意をしてくれていた。
「そうだ、ロザリア。君がボクの妃になった暁にはスレイド伯爵を侯爵に引き上げよう。もう間も無く準備も整うから、楽しみだな」
「……父の件はお気遣いなく」
「何を言っている、妻の父上なら當然の権利だ。それよりも。そろそろ以前のように気を許してくれないか?」
以前も何もウィルバート殿下に気を許したことなどないのだけど。それすらもわからないのかしら? そもそもまともに會話しているのも、ここに來てからのことだわ。
きっと都合のいいように記憶を改変しているのね。おめでたいことだわ。
「過ぎた分はを滅します。陞爵(しょうしゃく)の件は結構です。それよりも早く父と母を釈放してください」
「お前は……本當に素直ではないな! ボクがこれだけ盡くしているのに、まだわからないのか!?」
「……甲斐甲斐しくお世話していただきありがとうございます」
「そうではないっ!!」
ガチャンと大きな音を立ててカップを置いて、睨みつけるような視線を私に向けてフルフルと震えている。
ああ、もしかしてこの一週間ほど今までにないくらい盡くしたから、そろそろ気持ちを向けろと言いたいのかしら? その前に私がどれほど盡くしてきたのかお忘れになったのかしら? そして最後には妾を懐妊させて追い出した事もお忘れなのかしら?
まあ、その妾と側近たちは失腳したと、黒い笑顔のブレスに聞いたけれども。
私の冷え切った視線に気がついたウィルバート殿下は、席を立って力任せに私の腕をつかみあげる。そのまま引きずるように王太子の部屋と繋がる寢室へ向かって歩き出した。ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
「これだけ盡くしてもわからないなら、お前のからボクのものにしてやる」
「それは……婚姻するまでは清いでないといけませんわ」
「ふんっ、どうせもうすぐ準備が整うのだ、あと數日の違いだろう。父上も母上も子をんでるから問題ない」
「ウィルバート殿下、お戯れはおやめください!」
「戯れじゃない。お前はボクのものなんだ」
ダメだわ、もう話を聞いてくれない。
まだお父様とお母様の安全が確保できていない狀況で、自決しても意味がない。思いっきり抵抗したいけど、それでこれ以上気分を損ねたら……私のわがままで両親を危険にさらせない!!
絶的な狀況にギリッと奧歯をかみしめる。
耐えるしかないのか? 何か、何か他に方法はないのか?
懸命に頭を働かせても、近づいてゆく寢室に気ばかり焦って考えがまとまらない。ウィルバート殿下の手は私の腕を痛いほどつかんでいて、振り解くどころかギリギリと締めあげる。
「痛っ……!」
「お前を逃さないためだ、し我慢しろ」
振り返りもせずに寢室のドアを開けて、ウィルバート殿下は私をその中に放り込み後ろ手に鍵をかけてニヤリと卑しい笑みを浮かべた。後退りながら、なんとか気を変えてくれないかと聲をかける。
「ウィルバート殿下、私は純潔のまま嫁ぎたいのです。どうかご勘弁を」
「だから構わないと言っているだろう。もう回りくどいことは止めにしたのだ。お前を抱いて正真正銘ボクのものにするんだ」
ズカズカと大で歩み寄ってくるので、部屋の奧へと逃げるけれどすぐに壁にたどり著いてしまう。いよいよ逃げ場がなくなり、ウィルバート殿下に背を向けてを守るように自分を抱きしめた。
「ウィルバート殿下っ! お止めください!!」
「すでに結婚式で口づけをわしただろう? 恥ずかしがることはない」
私を両腕で壁際に閉じ込めて、首筋にウィルバート殿下のがれてくる。ゾワゾワと湧きあがる悪寒は逃しようもなくを震わせた。
「ふ、反応してるのか? 止めろとは言ってもは正直だな」
全っっっ然違うわ————————!!!!
今すぐ隠し持ってる魔銃でコイツの頭を撃ち抜きたい!!!!
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっっ!!!!
あまりの気持ち悪さに淑らしくない言葉が頭の中を駆け巡ったけど、言葉にすることができなかった。
気をよくしたウィルバート殿下はそのままを私の耳へと移させていく。瞬間的に甦ってきたのは、アレスとの甘い記憶だ。今でも殘るアレスのらかいのが消されてしまいそうで、咄嗟に手が出てしまった。
「いやっ!!」
しまったと思ったときには、私の左手がウィルバート殿下の頬に當たっていた。
「ええい、抵抗するな! お前は黙ってボクの言う通りにすればいいんだ!」
激昂したウィルバート殿下に強引にの向きを変えさせられて壁に押さえつけられる。片手で軽々と両手を拘束され自分を守ることもできなくなってしまった。
「これ以上抵抗するならお前の両親をそのまま処刑するぞ?」
お父様、お母様は私が送った手紙のせいで、今も投獄されている。
ゆっくりと腕から力が抜けていった。
「そうだ、ようやくわかったか? お前はボクには逆らえないんだ」
悔しい。こんなヤツに逆らえないのが悔しい。自決もできない狀況で、私の意思など関係なく尊厳を踏みにじられるのが悔しい。せめてこんな男に汚される前にこの世界から消えたかった。
堪えきれない熱い雫が頬を伝って落ちていく。
「はあ、お前の泣き顔はボクの劣をそそるな……」
心だけは屈しまいとが滲むほど強くを噛んだ。ウィルバート殿下はクラバットを緩めながら、私の手を引いて部屋の真ん中にあるベッドに向かう。そこで私をベッドの上に投げ倒して、のしかかってきた。
「ははっ、もっと早くこうすればよかったな。お前の心がしいと思ったばかりに遠回りをしてしまった」
あふれる涙はこめかみを濡らして流れ落ちる。せめてもの抵抗で、決して聲を出さないと、これ以上こんな男のために心をかさないと決めた。
「ボクに抱かれているうちに、他のことなどすべて忘れてしまうさ。なあ、ロザリア?」
ウィルバート殿下がベッドに広がった髪を掬い上げてキスをする。こぼれる涙はそのままにきつい視線で睨みつけた。ひとりで著られる簡易的なドレスはつまりがしやすいということだ。侍を置かれなかったので、長いシフォンドレスの上からコルセットを巻いて紐で締めているだけだ。
ニヤリと気味悪く笑うウィルバート殿下はいとも簡単にコルセットの紐を解いていく。私のをであげるウィルバート殿下の手に鳥が立った。
「クククッ、ほら我慢せずにボクをじればいいんだ」
アレス、してる。アレス、あなたに會いたい。アレス————
その時、大地を揺るがすような轟音が鳴り響き、ウィルバート殿下が私の上から吹き飛んでいった。城が大きく破壊されたことで私を縛り付けていたネックレスもパリンと音を立てて砕け散る。
視界に飛び込んできたのは突き抜けるような青空だった。
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