《【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺が待っていました》33話 互いに願うからこそ
「父上! 母上! 姉上もご無事で……!!」
「セシリオ、心配かけてごめんなさいね。アレスと竜王様たちに助けていただいたの」
「セシリオもよく耐え切ったわ、さすが私たちの自慢の息子よ」
「ブレスにも苦労をかけたな。セシリオを支えてくれて本當にありがとう」
転移魔法でスレイド伯爵家の前にあらわれたら、バタバタと大慌てでセシリオが出迎えてくれた。ブレスをはじめとした使用人たちも、私たちの無事を喜んでくれている。
「竜王様、アレス殿下、本當に謝してもしきれません。ロザリアだけでなく、私たちまで救ってくださって……まずは我が屋敷でごゆるりとおを休めてください。すぐに準備いたします」
「本當にいいんだ!? いやあ、言ってみるもんだね!」
すっかりいつもの狀態に戻った竜王様の言葉にアレスが素早く反応する。
「は? 父上、スレイド伯爵に何を言ったんだ……?」
「え、助けに行ったときにお禮してくれるって言うから、今晩泊めてって頼んだんだよ。もうさー、ふかふかのベッドで寢たかったんだよねえ」
「はあ!? そんなもの転移魔法使えばすぐに城(いえ)に帰れるだろ!」
「いや、アレスこそ何言ってんの? ロザリアちゃんとのことをご報告しないとダメでしょう? こういうのは最初が肝心なんだよ?」
「いや、それなら俺ひとりで……」
「ダーメ、僕も付き添うよ。これも親の務めだし」
「くっ……」
どうやら決著がついたようだ。
珍しく竜王様がまともなことを言っているようにじるのは気のせいか。何より私がアレスのプロポーズをけたと何故わかったのか。多疑問に思うものの、竜王様だからわかることがあるのかと納得する。
このやりとりの間、サライア様とお母様が穏やかに私が新しく開発した魔道について意見換をしていた。
部屋の準備が整うまで、応接室でその報告をすることになった。ジュリア様は庭の花々が気になるようだったので、セシリオに案を頼んでカイル様と散歩を楽しんでもらっている。
お客様用の上質なソファーにテーブルを囲むように腰を下ろした。メイドが用意したお茶に口をつけて本題にる。
「スレイド伯爵様、やっとお嬢様が私の妻になると頷いてくださいました。この場でお嬢様を幸せにすると、竜のに誓ってお約束いたします」
「そうか……ついにか……」
お父様が寂しげな笑顔で私とアレスを見つめている。どこか懐かしむような眼差しが私の涙腺を刺激した。
お父様もお母様も私のことをとても大切にしてくれている。たっぷりのをかけて貰えたから、今までやってこられたのだ。
「お父様、お母様、今までありがとうございます。私こそアレスを世界一幸せにしてみせますわ」
そうなんだ。互いに幸せを願わなければ明るい未來などやってこない。一方通行のなんて枯れるだけなのだ。
夜空の瞳はいつでも私を優しく見つめて、大きな手のひらは迷いなく私の手を引いてくれる。だから私も目一杯のを込めて名前を呼ぶ。あなただけが特別なのだと、私がしいのはあなただけなのだと、告げるように。
「アレス、もう二度と手離さないから覚悟してね」
「むところです」
そっと重ね合わせた手のひらは、もっと近寄りたいと指を絡める。
その様子を見ていたお父様が咳払いして、ギロリとアレスを睨みつけた。アレスはまったく気にした様子もなく、指を絡めたままだ。お母様に「諦めて」と諭されたお父様がシュンと肩を落とした。
「ところでロザリア、あなたどうして瞳のが変わったの?」
「え? 瞳の?」
「ええ、ほら深緑の中に金の粒がキラキラしてるの」
お母様の何げない問いかけに何のことかと首を傾げた。
部屋に控えていたメイドが気を利かせて手鏡を貸してくれて自分の瞳を覗き込んでみれば、確かに地味な深緑の虹彩に金の模様が浮かび上がっていた。まるで、アレスの……竜人の瞳のように。
「ええ! ど、どうして?」
「ああ、お嬢様が私と番の契りをわしたからです。だからが変化したのです」
「え? 契りって何? いつわしたの!?」
「それは……ここで言ってもいいのですか?」
「ははっ、アレスは恥ずかしがり屋だね。よし、僕が説明しよう! 竜人とその番がの換をすると、人間である番のが変化して、僕たちと同じ竜人となるんだ。だから瞳も変わるんだよ。変わると言っても竜人のように長壽になって、病気に強くなるくらいかな。數時間程度のタイムラグはあるけどね」
竜王様の発言を噛み砕いて飲み込んでみた。
の換とは? とはに含まれる、またはから分泌されるのことだ。、汗、涙、唾。
……………………唾。
そうね、確かに數時間前に換したわ。つまりは私とアレスが口づけしたと竜人の方々にはバレていたというの!?
あああ! 知ってるわ! これこそ知らぬが仏というのよ……!!
「ロザリアちゃん、どうしたの? 石像みたいになっちゃって」
「父上っ!」
「ソル……黙って」
「え? なんで? 別に恥ずかしいことじゃないでしょ」
「————————アレス、つまりはを換するようなことを婚姻前にしたというのか?」
地獄の底から聞こえてくるような低い聲でお父様が靜かにブチ切れた。
竜人をものともしない父の怒りは凄まじく、私の恥ずかしさなど一瞬で霧散する。竜王様は口を一文字に結び、アレスは青くなっている。なかなか目にすることのない貴重な場面だけど、このままにしておけない。
「お父様、私はこれでも一度離縁しているの。まるっきり未婚の令嬢ではないわ。その辺りはご理解いただいてもいいと思うのだけど?」
「それでも夫婦でもない男が、そのようないかがわしいことをするべきではない!!」
「いかがわしい……? その言い方、引くわ」
「いやっ、待ってくれ、ロザリア! 私はただお前が心配で——」
「あなたそれ以上食い下がったらロザリアに嫌われますわよ?」
「ぐぬっ……!」
お母様がお父様にとどめを刺してくれた。見事な一撃だ、見習おう。
「お見苦しいところをお見せしましたわ。ロザリアの神的な瞳がさらに綺麗になっていたから、ちょっと気になっただけですの。他にも竜人の方特有の習慣などございますの?」
「そうですね……竜人は人間で言うところの十二歳程度の見た目で一度長が止まります。その後は番を見つけると再度長期にって大人の姿になるのです」
「そうでしたの! ああ、だからアレスはロザリアに會ってから大きくなったのね。実は長速度が速すぎると思っていましたのよ」
「他にもこんなことがありまして……」
すっかり大人しくなった男たちをよそに、ここでもサライア様とお母様は終始なごやかにお話をされていた。最終的には魔道の開発に必要な人員の派遣や、竜人だから採取できる貴重な素材の輸出まで話が広がり、互いに私益を生む容でまとまった。
竜王様とお父様は今後のための的な打ち合わせをすると言って執務室に移していった。
お母様もサライア様ともっと話がしたいとサンルームへと移り、応接室には私とアレスだけが殘された。
「はあ、本當にどうしてこうなるのかしら?」
「し肝は冷えましたが、スレイド伯爵にご報告できてよかったです」
「そういえばアレスはいつの間に王太子になったの?」
「それはお嬢様の手紙を読んだ後です。王太子妃になると書かれていたので立太子しました」
「え、そんな理由で!?」
いいえ、違うわね。アレスのことだから、これは私の意図をわかったうえで逃げ道を塞ぐためにガチガチに固めてきたわね?
「はい、最悪私の王太子妃になればよろしいと口説くつもりでしたので。今更返上できないのでそれは諦めてくださいね?」
やっぱり……! くぅ、そんな風にうっとり微笑んでも誤魔化されないんだから! 結局、私は王太子妃になるのね……まあ、ラクテウスのために働くのなら全然構わないけど。むしろ喜んで働くけれど。
「はあ、わかったわ。それならアレスは王太子だし結婚式は挙げるのよね?」
「私たちは番さえいれば特にこだわりがないので、その辺りはみんな伴に合わせています。結婚式を挙げない夫婦もたくさんおります。お嬢様はどうしたいですか?」
アレスの質問にしだけ考えた。
正直いうと結婚式にいい思い出はないし、なくてもいいかという気持ちもある。でもふたりの新しい門出だからちゃんとした形でケジメをつけたい。
「そうね……ねえ、アレス。し我儘かもしれないけど、聞いてくれるかしら?」
「もちろんです。私はお嬢様のみを葉えるために存在するのですから」
そんなくすぐったい臺詞を聞いて、私たちの門出にふさわしいセレモニーの相談をしたのだった。
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