《【電子書籍化へき中】辺境の魔城に嫁いだげられ令嬢が、冷徹と噂の暗黒騎士に溺されて幸せになるまで。》第二十九話 たとえ私が消えても
誰もいない酒場を間借りし、あの繭……おそらくは悪魔の卵に対する対策會議が講じられた。悪魔のことを知り、しかし、誰もが言葉を失っている。私も何も言えなかった。
「……ともかく、國民は全員退避させるべきでしょう。この國ではなく、隣國にでも馬を飛ばし出ても、けれてもらうしかありますまい」
そう言うのはレザウント侯爵だ。しかし、それに対して別の貴族が震えた聲で言う。
「しかし、逃げたとてあの悪魔は世界を破壊しつくすでしょう。逃げ場などないのでは……?」
「時間稼ぎにはなる」
「我らの領地を捨てよと申しますか! あんな男のために!」
別の貴族は自分のことを心配しているだけだった。會議は紛糾しているが、話は進まない。それもそうだ、誰もがこのような狀況に遭遇したことがなく、そして何よりも対策を講じようとしてもどうしていいかわからないのだから。
「ひとつだけ、策はあるよ」
と、聲を出したのはイダだった。その場にいた全員がハッとしてイダの方を見る。イダは椅子から立ち上がり、私の方へと杖を向けた。
「聖の力を使い、結界を張る。結界の中では悪魔は存在することができない。それは証明されている」
おお、としの歓聲が上がる。しかし一人の貴族が首をかしげた。
「しかし、アリエス様は回復魔法しか使えないのでは……?」
「ああ、そうだったね。まずその証明をしてやらなければならない。聖よ、夫の呪いを解いてやりな、この場でね」
突然の言葉に私は驚くけれど、それで証明になるのであればやってみせようと腕まくりをしてヴァルの元へと歩み寄る。ヴァルはただ頷いて微笑んでくれた。
私は祈りを捧げ、ヴァルの呪いが解けますように、と祈った。すると薄いがヴァルを包み込み、しばらくして顔にあった紋章が消え去る。ジェームズ國王の時のようにうまくいったようだ。
「おお……これぞまさしく聖のなせる業……!」
「素晴らしい!」
「だが、これがこいつの限界だよ。もう一つ必要となるものがある」
「それがアルテミスの涙……?」
私は自分にに著けていたブレスレットを見せる。イダは頷いて見せた。その途端、貴族たちは聲をあげて喜びを表す。
「それがあるならば、最初からやれば……!」
「そうですな! これで助かりますな!」
「お黙り!」
その聲をイダが制する。その圧力に押されて、貴族たちは後ずさりしてしまった。イダは私とヴァルを見て、悲しそうな表を浮かべる。今まで見せたことのないような表だった。
「二人に問う」
まずイダはヴァルの方を見た。
「聖が力を発揮するまでの間、この場が荒れ果てようとも、聖を護ることはできるかい?」
「……つまりは、繭からの反撃が行われると?」
「そうだ。聖の力が強くなればなるほど繭は自分を守ろうと暴れるだろう。それを命を張って食い止めるだけの覚悟はあるかい?」
「この命に誓って。私は全力で守りましょう」
「私も……! レイも、奧様をお守りいたします!」
ヴァルが迷うことなく言った。続くようにレイも名を挙げる。続けてリール男爵も、レザウント侯爵も名を挙げた。そうなると退くにひけないのが貴族なのだろう。ほとんどの貴族が聲を上げた。
イダはふむ、と唸った後、私の方を見た。
「そして聖よ。お前は何があっても、たとえ人々が死んでも、力を使い続ける覚悟はあるかい?」
「私も、この力に誓って」
「……わかった。ならば、最後に問う」
イダは言葉を詰まらせ、しばらく沈黙した。私たちは固唾をのんで見守る。再び顔を上げたイダの顔は悲しみにあふれていた。
「その力を使いつくした後、お前が生きている保証などないと言っても、それでもやるかい?」
その言葉に沈黙が走った。私の命がかかっている。それはなんとなく予想できていた。けれど、改めて問われると私は何も答えられない。
「聖様……」
貴族の一人が私に聲を掛ける。それは縋るような思いなのがわかる。命を捧げてくれ、と言っているものだ。ヴァルは苦しげな顔でその男をにらみつける。貴族は「ひっ」と悲鳴を上げて俯いた。
「呪師イダよ、聖の力を使えば、それは死を意味するのか?」
「千人の聖たちが悪魔を祓った時も、生き殘ったのはたった一人だ。アルテミスの涙は、こういった有事のために、一人の聖だけでも千人分の聖の力を発揮できるように作られた。だけれど、それが意味することは分かるね?」
「千人分の祈りを一人が背負う、ってことね?」
「そうだ。……あんたは強かだ。強い子だ。千人分の祈りを支えちまうなんて、できてしまうだろうよ。だけれど、その結果どうなるかはわかりゃしないんだ」
「……それでも、この世界が救われるのであれば、私は……」
「……くっ……」
突然ヴァルが立ち上がり、酒場を後にする。私はどうしていいかわからなかったけれど、イダが視線でヴァルを追いかけろと言ってきたから、私は追いかける事にした。ヴァルは酒場のすぐ外、繭が良く見える場所にいた。
「ヴァル……」
「アリエス……俺は卑怯者だ。お前を失いたくないと思いながらも、國を守らんとする気持ちがそれを抑え込んでしまった。私は二度と獨りにはなりたくない。アリエス、お前を失いたくないんだ」
「ヴァル」
「犠牲になってくれ、などと言えるはずがないだろう! お前を……お前を犠牲にして、この國を守ってどうするんだ!」
「ヴァル!」
私は彼の名をんだ。ヴァルは涙を流していた。その涙を私は指でぬぐう。そして笑みを浮かべた。
「さっきイダが言っていたよね。千人の聖のうち、一人しか生き殘らなかったって」
「ああ、だから」
「だけど、それは一人生き殘ったってことになるんだよ。可能はゼロじゃない。私が生き殘る未來だって、必ず殘されているはず」
「アリエス……」
ヴァルは悔しそうに表をゆがめる。だけれど、私は彼に笑ってほしかった。私は微笑んでみせた。優しく微笑むことができたかな。
「大丈夫。私に任せて。私は必ず、生き殘る。だからヴァルも生き殘る。約束よ」
「……くそ、勝手にしろ」
「ふふ、久々に聞いた、そのセリフ」
ヴァルはハッとして、そしてだんだんと笑みを浮かべてきてくれた。私もクスクスと笑う。もう、迷う必要なんてない。やれることをやるだけだ。
私たちは覚悟を決め、皆にそのことを伝えた。皆もまた手足となってくれることを誓ってくれた。その場にいた全員が覚悟を決めた。
そして作戦は始まる。まずは王都の民をアレキサンドロス公爵領のほうへと避難させることにした。レザウント侯爵がこれを指揮し、民の避難は須らく終わった。
そして私は王城の一番上。展臺にいる。高いところで祈りをささげるほうが、遠くまで屆くのだとか。イダはただ、靜かに語った。
「最初に出會ったときは、ただの娘だと思っていたがね」
「そうでもなかったでしょう?」
「馬鹿な娘だと思っているよ。まったく」
「ふふ、それでいいんだよ」
「……本當にいいんだね」
「大丈夫、私は生き殘れる。だから」
私はイダに言った。
「ヴァルにも伝えて、行ってきますって」
「……わかったよ。ちゃんとただいまを言うんだよ」
「わかっているって。それじゃ……」
イダがいなくなるのを見た後、私は祈りを始めた。私が祈りを始めると同時に、戦闘の音が聞こえてくる。繭に対して攻撃を行い、こちらの注意をそらしているのだ。もちろん打撃は與える事ができないけれど、時間稼ぎにはなるということだった。
私は祈り続けた。だんだんと腕のアルテミスの涙がり始めているのがわかる。その瞬間、私はドクッと心臓が鳴るのをじた。そして、目をつぶっているのにもかかわらず、みんなが戦っている姿が映し出される。これは、あの繭が見せているのか。兵士が一人、また一人と貫かれて黒い靄として消えていく。私はそれでも祈り続けた。強い力が浮かび上がるのがわかる。
「あんたなんか生まれてこなかったほうがよかったのよ」
聲が響き渡ってきた。これはヴェイラの聲だ。家族に迫害をけていた時のころが映し出され、私を痛めつけようとする。
祈り続けた。私はただ、祈った。この世界が平和になりますようにと。
繭からの干渉が一層強くなるのがわかった。私の祈りの力も強くなり、押さえつけられなくのをじる。でもまだだ、まだ足りない。
私は祈り続けた。みんなが健やかに過ごせる日々が訪れますように、と。
私は祈り続けた。悪魔を祓えますようにと。
「アリエスッ!」
ヴァルの聲が聞こえた。それでも祈りは止めない。
私は祈り続けた。ヴァルに幸せが訪れますように。と。
その瞬間、すべての力が私から解き放たれるような気持ちになった。が広がり、包み込む。
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