※流表現あり。ご注意ください。

『祝福』は祝福の魔本人にはかけられない。

そして、『祝福』は、一度かけたら消えない。

つまり、本である、魔を殺す必要がある。

アリシアがぽろりとこぼした『祝福』のことを聞いてから、すぐに出した結論だった。

しかし、他に手はないかと必死に探してしまった。

そうしている間にも、敗戦國の民は苦しんでいる。元々、もう抑えきれないと思い、ヴィンセントが直接ここに來たのだ。

彼らの限界は當然だった。

魔を、アリシアを殺さない限り、ラリーアルド帝國を攻めることはできない。

どうせ、殺されるなら。殺さねばならないなら。

――せめて、自分の手で。

◇◇◇

「ど、して」

アリシアの口からが溢れる。

原因はヴィンセントがアリシアのに突き刺した短剣だ。

「どう、して」

もう一度、アリシアが訊ねた。

「『祝福』を與えたからだ」

そうだ。そのせいだ。

それさえなければ、殺さずに済んだのに。

ヴィンセントは自分の右手についたアリシアののをじながら話す。

「あなたの『祝福』は、自分にはかけられない。そうだろう？　以前怪我をしたときに、うっかりそうらしたのは、他ならないあなただ」

アリシアはドジだった。大事なを、自分を殺そうとしている男にらしてしまうぐらいに。

「ど、して……？」

アリシアが、再び吐した。ヴィンセントは抱きしめてやりたい気持ちを我慢しながら拳を握った。

「みんな死んだ」

ぽつりとこぼした聲に、アリシアは反応した。

「両親も兄弟も、友人も、何もかも、死んだ」

アリシアの目が見開かれ、がカタカタ震え出した。

「あなたが、この國の兵士に與えた『怪我をしませんように』という、『祝福』のせいで、こちらは傷の一つも負わせられず、ただただゴミキレのように殺された！」

アリシアが、わずかに首をかした。首を振りたいのかもしれない。

「あなたのせいで、今やどの國もこの國に逆らえない！　周辺國は隷屬國にり下がった！」

首を振って、違うと言いたいのだろうか。そうだろう、きっと違う。アリシアはそんな結果をむではなかった。

「アリシア、君さえ死ねば、『祝福』に頼り切ったこの國は終わる」

殺さねばならない。

アリシアの目から、ぽろりと涙が零れ落ちた。

こんな狀況にも関わらず、しいとヴィンセントは思った。

「ごめ、なさい」

アリシアが、震えるで話す。

「知らな、かったの」

ヴィンセントは目を見開いた。

ああ、ああ。やはり。

「いいこと、してると、思ってたの。ごめ、ね。知らなかっ、た。ごめ、なさい」

謝る彼に、ヴィンセントは何も返せない。

できれば殺したくなかったと。

共に生きたかったと言ったところで、今更なににもならない。

しているとさえ、口にするのもおこがましい。

だって、自分は彼を殺そうとしている男なのだ。

アリシアが、ヴィンセントに手をばした。

「……何だ？　最後に俺を呪うか？」

そんなこと、『祝福』ではできないとわかっている。だが、できれば呪ってほしいと、願わずにいられなかった。

彼が與える呪いなら、けれられる。

ヴィンセントの考えなど知らない彼は、笑った。

「ヴィン、セント、が、幸せになれま、すように」

やめろ。

ヴィンセントはんだ。

「やめてくれ！」

俺なんかの幸せを。そんなものを願うのだけは。

恨んでくれたらいい。憎んでくれたらいい。殺したいと思ってほしい。それだけのことを自分はしている。だからだから。

アリシアの『祝福』をやめさせようとするも、がヴィンセントを包み込む。

「やめろやめろやめろ！」

そんなもの。

君のいない世界で幸せなど。

最後に彼は聲にならない聲で言った。

――幸せに、ヴィンセント。