「お祭り？」

首を傾げ、アリシアは訊ねた。

「そう、お祭り！」

また食卓にり込んだアダムは、にかっと明るく笑いながら言う。

「一年で一番大きな祭りが、今夜あるんだ！　屋臺もいっぱい出るから、晩飯は食べないほうがいいかもね！」

揚げ鳥を口に放りながら言うアダムに、アリシアはお祭りとはどういうものだろうかとワクワクしていた。

アリシアは田舎の出だ。小さな祭りはあっても、大きな祭りなど経験がない。

ワクワクしながら、アダムが揚げ鳥を嚥下するのを待った。口の中のを飲み込んだアダムはまたにかっと笑う。

「最後にね、葉っぱに願いを書いて、川に流すんだ。この街に、大きな川あるの見た？」

「あ、はい」

「そこに流すんだ。願いが葉いますようにって。確か、二百年前に、賢者様が始めたんじゃなかった？」

アダムの問いに、ヴィンセントは頷いた。

「……人に教わったまじないだ」

「そうですか」

アリシアはが溫かくなった。だって、それはアリシアが教えたおまじないだ。

昔、ヴィンセントとずっと一緒にいられるようにと書いて、川に流した。

願いは葉えられなかったけれど。

でも再び會うことはできた。

「賢者様と一緒に行ったら？」

「え？」

「興味あるんでしょう？」

興味はある。大きなお祭りなど初めてだ。

「夜にの子一人は危ないよ。酔っ払いもいるし。せっかくだから、社會勉強として賢者様に連れて行ってもらいなよ」

アダムの言うことはもっともだ。

の一人歩きは危ない。しかもアリシアはのどかな田舎出だ。治安の悪さなど考えたこともない。

そんなアリシアがお祭りに一人でなど行けるはずがない。

でも、行ってみたい。

アリシアは、ヴィンセントを見た。ヴィンセントもアリシアを見ており、目が合ってどきりとする。

「あの……」

「行きたいのか？」

ヴィンセントに真っすぐに見られながら、アリシアは頷いた。

「行ってみたいです」

「わかった」

「え？」

ヴィンセントのあっさりした答えに、アリシアはきょとんとした。

「祭りに連れて行ってやる。一人で行かれて拐でもされたら困る」

拐。されることがあるのだろうか。

都會って怖い。アリシアはプルプル震えながらも、ヴィンセントと出かけられることに歓喜した。