アリシアには弟がいた。

アリシアと同じ髪に、同じ瞳の。

誰から見ても姉弟とわかる、自分によく似た、可い弟。

「姉上」

いつも一緒に遊んでいた。

その日も、いつも通りだった。

「あっ」

ただ違ったのは、弟が転んだこと。そして怪我をしたことだ。

「い、痛いです！」

痛みにビービー泣き出した弟がとても可哀想だった。アリシアは弟に駆け寄った。それでも弟は泣き続ける。

弟をあやそうと、アリシアは弟に明るく言った。

「痛くなくなりますように」

泣く弟の頭をでながらアリシアが言うと、ほわり、とが舞った気がした。何だろうと思う間もなく、弟が喜をにじませた聲を上げた。

「姉上、痛みがなくなりました！」

それはよかったとアリシアは微笑んだ。しかし、弟の顔がまたくしゃりと歪んだ。

「でも、まだが止まりません……」

弟はまだ小さい。流れ出るが怖いのだろう。アリシアは先ほどと同じように、弟のために、頭をでながら言った。

「怪我が治りますように」

ふわり、とまたが舞った。今日は天気がいいから、何か反したのだろうかとアリシアが不思議に思っていると、弟が大きな聲を上げた。

「姉上！　怪我が治りました！」

何を言っているのだろう。アリシアもまだ子供だが、怪我というのは、小さな傷であっても、當日に治りきることなどまずないということは知っている。

アリシアは弟の膝を見た。

ない。

流れ出たもどこかにいき、まるで何事もなかったかのように、怪我がなくなっていた。

「え？」

さすがのアリシアも驚き、呆然とその部位を眺めた。すると、どこかでび聲がした。聞き覚えがある。自分たちが遊んでいるのを見守っていた、母の聲だ。

「ば、化け……」

母の聲は恐怖に埋め盡くされ、その目はアリシアを見つめている。

「か、母様……」

アリシアは何が何だかわからず、母に近寄ったが、縋る手は母によって払いのけられた。

「化け！」

今度はしっかりと、アリシアを見て言った。

化け。

「母様、私……」

「私の子供が魔だなんて！」

まじょ。

この間弟と読んだ絵本に書いてあった、魔のことだろうか。

なぜ母は自分を魔と言うのだろう。自分は魔ではないのに。

「姉上？」

自分と同じように、狀況がわからずきょとんとしている弟がいる。アリシアは思わず弟に駆け寄り、そのをぎゅっと抱きしめた。

「姉上？」

弟が不思議そうな聲を出す。訳がわからないのだろう。アリシアもわからない。だけど、たぶんよくないことが起きている。

「大丈夫よ」

アリシアは不安そうにする弟を勵まそうと、そう言った。

大丈夫ではないと知るのは、そのすぐ後である。