※表現あり。ご注意ください。

「ああ、ようやく來ましたか」

城の一室にいた年は、ヴィンセントを見るとほっとしたように微笑んだ。

みどろのヴィンセントに微笑みかけるなど、正気の沙汰とは思えない。

ヴィンセントはに濡れた剣先を年のに突き付けた。

「……他の皇族は、全員片を付けた」

「それは何よりです。……もちろん、父の首も取ってくれましたよね？」

確認するように問う年に、ヴィンセントは頷いた。年は満足そうに微笑んだ。

「僕と姉の無念を晴らしてくれて、ありがとうございます」

嬉しそうに笑いながら、年は自分のに突き付けられた剣を握りしめる。年の手からの玉がポタリポタリと落ちた。

「では僕を殺せば、このは絶えるということですね」

年は自分の手が傷塗れになるのも厭わずに、ヴィンセントに微笑んだ。まるで、殺してくれと言っているように。

「僕と姉は地位の低い側室の子でした」

年は、そこにいない人を見るように、ヴィンセントから視線を逸らして話し出した。

「僕たちは、國を継ぐに値しない人間でした。いずれ、政略的に利用されたでしょうが、それは、こんな形ではなかった」

剣を握る青年の手に力がる。

「姉と僕は、もっと一緒にいられたはずだった」

ギリ、と年が歯を噛み締めた。

実際そうだったのだろう。アリシアが、力に目覚めなければ、年頃になるまで、この姉弟は仲良く過ごせていたことだろう。

すべては、アリシアが力を持ってしまったことから起きた不幸だ。

ヴィンセントは年を睨みつけた。

「……君は、祝福の魔の弟だな」

「ええ」

年は笑う。とても嬉しそうに。

「俺が、アリシアのもとへ行くように手引きしたのは、君だな」

ヴィンセントの問いに、年は笑みを深くした。

「ええ、僕ですよ」

年は剣を更に力強く握りしめた。

「先読みの魔が、姉の未來を、見てくれました」

ヴィンセントは年から目を離さない。

「未來はいくつか用意されています。普通なら抜け道がある。しかし、姉の場合、どの未來も、殺されるものしかなかった」

ポタリポタリとが落ちる。

「僕は、姉が嬲り殺されるのは我慢ならなかった」

にこり、と年が笑う。

アリシアに、よく似た顔で。

「だから、一番姉にとっていい死に方の、あなたを選んだんですよ、ヴィンセント王子」

アリシアによく似た顔で、年は微笑んでいる。

「僕は、姉に似ていました。この國の兵士は、姉に恩をじている人間が大半だ。姉によく似た僕がお願いしたら、あなたを招きれるのは簡単だった」

アリシアの警備はありえないほど手薄だった。誰かが手引きでもしない限り。

「お前は、姉が死ぬとわかっていて、俺をれたのか」

剣をかさないままヴィンセントが問う。アリシアの弟は微笑んだ。

「ええ。……それが姉のみでしたから」

ポタリ、ポタリ、とが落ちる。アリシアと、同じが。

「手を離せ」

ヴィンセントが命じると、年はあっさり手を離した。

「あなたは、これから英雄になる」

アリシアに似た顔で、年が言う。

「……それは、そうだろう。俺は、帝國を討った男になる」

「ええ、魔の弟子のあなたが英雄になる。姉が願っていたことです」

英雄。そんなもの。彼を犠牲にして得た地位など――

ヴィンセントは剣を握る手に力をれた。

アリシアによく似た弟は微笑んだ。

「さあ、僕を殺してください」

アリシアの弟が両手を広げ、殺せと言ってくる。

だから、ヴィンセントは――

「斷る」