《【書籍化】前世、弟子に殺された魔ですが、呪われた弟子に會いに行きます【コミカライズ】》番外編:デートを教えて
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「で、デートというものに行ってみたいのですけど!」
ある日、ヴィンセントがいない日に訪問すると、アリシアに懇願された。
「え? うん、行って來たらいいんじゃないかな……?」
ヴィンセントなら大喜びでついていくだろう。
しかしアリシアはもじもじもじもじとしている。
「その、そうなんですけど……でも、私田舎育ちで、デートというものを知らないのです……」
「うん?」
「だから」
アリシアはアダムの顔を仰ぎ見た。
「デートについて教えてください!」
「……はい?」
デートについて教えてくれと言われても、デートはデートだ。
「ええっと、異が仲良くなるために出かけるもので……」
「そういうのはわかります! そうじゃないです! というかアダムさんわざと言ってますね!?」
しだけいじわるしたのがバレてアダムは舌を出した。
「ごめんごめん。つまり、実際のデートがどんなものか見てみたいってことでしょ?」
「そうです! うちの実家は田舎過ぎて、デートと言えばお花畑かぐらいに行くしかなかったので!」
お花畑。ずいぶんメルヘンなデートである。
でも逆にそれがいい気もする。
「お花畑でデートしたら?」
「嫌です! ヴィンセントに田舎者だと思われます!」
今更ヴィンセントはそんなことを気にしないし、アリシアと一緒ならどこでも嬉しいだろう。
しかしアリシアは真剣だ。
「はぁー……わかった、わかったよ。でも賢者様にはアリシアちゃんから説明しておいてくれる? 俺、馬に蹴られたくないから」
斷りもなくアリシアとデートをしたらどうなるか、想像するだけで恐ろしい。なにせあの賢者様の片思いは二百年ものなのだ。アリシアへの執著心は人一倍だ。
「? 何でわざわざヴィンセントに言うんです?」
アリシアが首を傾げた。
「何でって……自分の彼が他の男と出かけたら嫌な気になるでしょう?」
そこまで言って、ようやくアリシアは何かに気付いたらしい。
「あ……ち、違います!」
あたふたと手を振り否定する。
「アダムさんとヴァネッサさんのデートを見せてもらえればと……!」
――自分と誰だって?
アリシアの言葉を理解するのにし時間を要したが、理解すると同時にアダムは「え!?」と大きな聲を出した。
「待って、何で俺とヴァネッサさんが!?」
「だってアダムさん、好きでしょう?」
アダムはギクリとする。
「ボインなのが!」
「……うん?」
想定外のことを言われて気の抜けた返事しか出てこなかった。しかしアリシアはそれをどうけ止めたのか、妙に爽やかに微笑んだ。
「いいんです、わかっていますから。アダムさんはボンキュッボンなお姉さん系が大好きなんですよね」
「待ってアリシアちゃん! その言葉だと語弊がある!」
それではまるでアダムがを目當てで選んでいるように思われる。
アダムはただ好みで言えば大人っぽいが好きなだけで、ボインであるのが絶対條件ではない。
「いいんですよ、どうせ私は児型ですから」
「アリシアちゃん結構に持つね……」
あの服選びでセクシー系は無理だと言ったのをまだ覚えているらしい。でも本當に似合わなかった。止めた自分を褒めたい。
「話は戻しますが、ヴァネッサさんとデートするときに付いて行っていいですか?」
「いや、デートの約束すらしてないんだけど」
「え!? まだしてないんですか!? 何してるんですかアダムさん!」
責められた。どうして。
「ヴァネッサさんみたいな魅力的な、すぐに相手ができちゃいますよ! はやくアタックしないと!」
「はあ……」
そうは言われても、さりげなくアタックしているつもりでも、軽く流されるのだが。
デートの申し込みなどけ付けてもらえない気がする。
どうするか――
「いいわよ」
悩んでいたら背後から聲が聞こえた。
「わっ、ヴァネッサさん!」
後ろを振り返るとヴァネッサが立っていた。てっきりいないと思っていたが、部屋にいただけのようだ。
「いいわよ、デート」
聞き間違いではなかった。ヴァネッサがデートを承諾している。
「え、え? い、いいの?」
「いいわよ。何回言わせるのよ」
「だ、だって、いつも軽く流されるのに……」
デートにったことはないわけではない。何度か一緒に出掛けないかと聲をかけるも、さらっと流されて終わっていたのだ。
――でも急に何で?
アダムが疑問に思っているのがわかったのか、ヴァネッサがアリシアをちらっと見る。
「勘違いしないでよね。この子のためよ」
この子、とアリシアを指差した。
自分のため、と言われてアリシアはパアっと顔を輝かせた。
「わ、私のためですか、ヴァネッサさん……!」
「そうよ。だからしっかり學んで賢者様を悩殺しなさいよ」
「はい!」
デートは悩殺する場ではない。
そうツッコミたかったが、期待にを膨らませているアリシアには言えなかった。
◇◇◇
「これが噂の『かふぇ』!」
アリシアが瞳を輝かせる。
そのアリシアの目の前にはこぢんまりした可らしいお店がある。店の外にいても、香ばしいコーヒー豆の香りがする。
デートの定番。カフェだ。
「見た目からして可いなんて、さすが『かふぇ』!」
「ほら、お客様の邪魔だからるわよ」
「はいっ!」
ヴァネッサに促されて、アリシアが扉を開ける。
「いらっしゃいませー!」
可らしい制服にを包んだが出迎えてくれる。
「ふわあ、店員さんも可い……」
「三名よ」
「かしこまりました」
店員さんに見惚れていたアリシアの橫でヴァネッサが素早く店員に人數を伝える。そのまま席に案された。
「メニューが決まりましたらまたお呼びください」
「はいっ!」
アリシアの張ぶりに、店員はどこか微笑ましそうにしながらその場を離れた。
「メ、メニューがよくわかりません……」
メニュー表を開いたアリシアが目を白黒させていた。
「ウィンナーコーヒー……ってなんですか?」
「コーヒーの上にホイップクリームが載ったやつよ。苦いの苦手よね? それにしといたらどう?」
「た、確かに……これとチーズケーキにします!」
「私はエスプレッソとチョコケーキにするわ。あなたは?」
「あ、俺はカフェオレとオレンジケーキ」
ヴァネッサに促されてアダムはようやく口を開いた。というか口を開くタイミングを失っていた。
ヴァネッサがさきほどの店員を呼び、メニューを伝える姿を見ながら、おかしい、デートのはずなのに、と考えていた。
「いやおかしよ。おかしい」
「どうしました? アダムさん」
「なにかあった?」
二人が不思議そうな顔をするのでアダムのほうがおかしいのではないかと思えてくるが、やはり普通におかしい。
「いやアリシアちゃん何で普通に同じ席にいるの!?」
そう、これはデートというなのだ。なのに、ヴァネッサの隣にアリシアがちょこんと座っている。
「え……ダメでした?」
「いやダメかダメでないかで言ったらダメだよ! デート中のカップルの間にったらダメだよ!」
これではただ友人とお茶を飲みに來ただけである。
「いいじゃない。こういうデートもあるわよ」
ヴァネッサがテーブルに置いてある水を口に含んだ。
「ダブルデートって言うのよ、覚えておきなさい」
「ダブル、デート……?」
「そう、二組のカップルが一緒にデートするの。賢者様がそこにいると思って楽しみなさい」
「な、なるほど……! そんなデートの仕方が……!」
アリシアが驚きながらも心している。
ダブルデートは特殊なデートなのでぜひ賢者様とは普通のデートをしてほしいと思うアダムである。
「ヴァネッサさん、そりゃないよお」
アダムがテーブルに突っ伏しながら言うが、ヴァネッサはどこ吹く風だ。
「アリシアにデートを教えるならこれで問題ないでしょう」
そう言ってプイっと逸らされた顔はし赤い気がしたが、きっと気のせいだろう。
「二人だと恥ずかしいじゃない……」
「何か言った?」
「なにも」
ヴァネッサが小聲で何か言ったが聞こえなかった。本人が話してくれないので、もう聞けそうにない。
アダムははあ、とため息を吐いた。
「し期待したのになあ……」
がっかりである。
アダムだってこっそり期待していたのだ。ほんのしだけ。ちょっとイチャイチャできるかなとか、ほんのしだけ思っていたのだ。
これではただ友人とお茶を飲みに來ている図だ。
デートとは……一……。
はあ、とアダムがため息を吐いたとき、店員が注文した品を屆けに來た。制服はやはりかわいい。あれが販売していたらアリシアに著せたい。
「何ジロジロ見てるのよ」
「え?」
店員の制服を眺めていたら、目を吊り上げたヴァネッサが視界にった。
「あのの子をジロジロジロジロ。まさか、気があるんじゃないでしょうね?」
「え? まさか! 違う違う! 制服がかわいいなって見てただけだよ!」
まるで浮気した夫のように問い詰められ、アダムは慌てて否定した。実際見ていたのは制服である。
アダムの否定にヴァネッサは店員をとアダムをチラチラ見比べて、チョコケーキに手を付けた。
「ややこしいことしてるんじゃないわよ……」
小聲でそうらしたヴァネッサの頬が心なし赤く見えるのは気のせいだろうか。
――もしかしたら、チャンスがあるかもしれないな。
アダムは途端に気が良くなった。
デートと言うにはどうかと思うが、なかなか得るものがあった。
そして何より、ここにヴィンセントがいるのを想像しながらはしゃぐアリシアが楽しそうなので、まあいいか、と笑みがこぼれた。
結局アダムはアリシアが幸せそうな姿を見られたらそれで満足なのだ。
注文したオレンジケーキはし酸味が効いていた。
後日「ダブルデートしましょう!」と言われたとき、さすがにお斷りした。
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