《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》氷の魔城
氷の魔城――アルバニア王國の北西に位置する氷の大地にある魔王の幹部、氷の王ケルフィテレサの居城。
世界中に散らばる魔王軍の拠點の中でも最難関ダンジョンと呼ばれるものの一つで、生半可な実力のパーティーは挑戦することさえ許されていません。
大型ギルド所屬の上位パーティー、もしくは各國の王宮などに所屬する特別なパーティーのみが挑戦する権利が與えられ無駄な犠牲をなくしていました。
「これが最難関ダンジョンってやつか。見るからにヤバそうな雰囲気が漂ってやがる」
「こんなところから二十回以上も生還したというのか? いやはや、エリス殿たちは恐ろしい経験をしておられる」
「誇れることではありませんわ。逃げることになる前提で必死になって空間移魔法(テレポーテーション)を覚えたのですから」
エリスは勇者ゼノンのパーティーの一員として二十回以上、こちらのダンジョンに挑戦して敗れ去っています。
その経験は確かに稀有で貴重なものであれど彼にとってはトラウマの回數なのでしょう。
落ち著いているように見えますが、彼の言葉は自嘲気味となり気分が落ちているように思えました。
「エリスさん、お辛いかもしれませんが私たちにはあなたが絶対に必要です。生きて帰るために全力で頼らせてもらいます」
「ソアラ先輩がわたくしを頼りに……? はい! もちろん、いつでも何処でも頼って下さい!」
殘酷なことを口にしたと思えど、エリスはにっこりと微笑んで頼りにするという私のセリフをけれて下さいました。
いつでも、と言っていますが既に頼りにさせてもらったあとです。
「ブリザードスネーク、アイスゴーレム、ホワイトクロコダイル、スノウグリズリー……。この城だとよく見かける魔です。わたくしにお任せを――。いつもはSランクスキル“栄への道(シャイニングロード)”で一掃していますから」
氷の魔城に一歩踏み込んだ瞬間に多くの魔たちが私たちを歓迎しました。
なるほど、エリスは最初から最大火力のSランクスキルを利用して魔たちを相手取っていたのですね。
「ストップですよ、エリスさん。魔を全部やっつける必要はありません。ある程度はやり過ごしつつ、戦闘は必要最低限にしましょう。幸いゴーレム以外は魔獣系統。睡眠魔法(スリーパル)や麻痺魔法(パライパル)が有効ですから」
「でた、姐さん得意の省エネ戦法!」
「長い道中で回復アイテムにも限りがある中で最も有効な戦だ。うーん、蕓的な観點からもしい」
私はエリスにいざという時の為に魔力を溫存するように忠告しました。
彼の大火力は絶対にしい場面が來ますから、弱い魔に使うのは勿ないです。
「さて、僕もしくも儚い剣技で魔たちを倒してやろうじゃない」
「あれ? 斬られた魔のきが遅くなってませんか?」
「僕のサーベルには神経毒が塗られているからね。管に一撃與えてやると、強い魔でもきが鈍くなるのさ。これが僕の蕓だよ――」
パーティーを結すると決めたその日から私たちは協力しあって戦うこと、如何に効率よく自らの力を発揮できるかを話し合いました。
スピードに自信のあるロレンスはサーベルに様々な毒を塗り込み戦うという戦法もそのときに考えついたのです。
「ッッッッ――!」
「す、凄いです。一撃でゴーレムの首を吹き飛ばした」
「悟りを開くために普段は閉じている拙僧の目は一度(ひとたび)開眼すると、ゴーレムであろうと急所を見極めることが出來るゆえ……」
ジンの眼は鑑定士の鑑定眼に近い質を持っており、一日に10分間だけ相手の全てを見極めることが出來る力を持っています。
そのせいで私生活では常に閉じて生活することになっていますが……。
「エリスもさすがは聖だな。狀態異常を引き起こす魔法も一通り使えるのか」
「いえ、エレインさんのような(・)程(・)はわたくしにはありませんから」
そして、エレインの強みはハイエルフの高い知能力を活かした式の程です。
通常、魔法の効果範囲は目に見える範囲が限界です。見えなくては當たらないのですから、當然ですが……。
しかし、エレインは本気を出せば數キロ先の敵も知して魔法を當てることができます。
暗殺魔法士(アークアサシン)の異名を持つ彼のからは誰も逃げられないのです。
「正直に申しまして、各々の個人的な能力は勇者ゼノンのパーティーの方が上でした。しかしながら、こんなにも余力を殘してここまで來ることが出來たことはありません」
偵察とはいえ、魔王軍の幹部と遭遇してしまう事態を想定して私はとにかく余力を殘すことだけに気を配りました。
最低限の敵を倒して、迅速に進むことをワタシは徹底したのです。
とはいえ、流石に三割ほどは消耗してしまいましたね……。
「あ、姐さん! あっちに何かありますよ! あれは氷像……?」
「い、いや違うぞ。ひ、人だ! 人が氷漬けにされている!」
「こりゃいかん! 早く助けねば――」
「お、お待ちください! あの古代文字には見覚えがあります。恐らくはトラップかと……!」
氷漬けにされている方々の救出はもちろん最優先ですが、空間呪法のトラップと思しき古代文字の記された札を発見した私は、炎系魔法でそれを燃やします。
――中々燃え盡きませんね。このトラップを仕掛けた人は相當な手練だということが予測できます。
「これで大丈夫です。早く救出しましょう!」
トラップを解除した私は仲間たちに氷漬けにされた方々を助けようと聲に出しました。
これで氷に付與された魔力は消えたはずですから普通に火を使えば溶けるはずです。
「そ、ソアラ先輩! この方々は――!」
「勇者様たち、ですよね。ひと目見てわかりましたよ。私もそれなりに長い付き合いでしたから」
「えっ……!?」
一人だけ見知らぬ方がいますが、ゼノンとリルカ、そしてアーノルドの姿は氷像になっても認識出來ないはずがありません。
「早く溶けてくれ!」
「生きていれば、回復アイテムも多數取り揃えている! 何とかなる!」
「よしっ! 心臓はいておる! これなら――」
「ソアラ先輩、ゼノン様たちを恨んでは――」
「さぁ、どうでしょう? ただ一つ言えることは、恨んでいても、いなくても私のすることは変わらないということです。治癒魔法(ヒール)――」
「ううっ……、そ、ソアラ……? そ、そんなはずがないか……、うっ……」
私は氷漬けから解放されたゼノンにヒールをかけました。
彼は一瞬だけ目を覚ましたが、損傷による痛みなどが強過ぎて再び倒れてしまいます。
さて、他の三人も命に別狀はないみたいですが、これ以上の治療は――
「エリスさん、三人を連れて空間移魔法(テレポーテーション)で安全な場所へ。回復アイテムも半分持って行ってください」
「そ、ソアラ先輩……?」
「くっくっくっ、久しぶりに見知らぬ者共がやって來たのう……。どれ、味見をしてやろう」
「氷の王ケルフィテレサ……!!」
エリスに私が三人を連れて逃げるように指示をするのと同時に現れたのは氷の王ケルフィテレサ。
この城の主にして魔王軍の幹部です。
「私たちは今から戦闘をします。どうか、足止めをしているうちに早く――」
私たちパーティーの実力がどれほど通用するか分かりませんが、足止めくらいはしてみせます。
これは偵察では済まなくなりましたね――。
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