《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》魔王城へ
「あら、意外と素直なのね。ますます気にったわ。そうそう、まだあなたの名前を聞いてなかったわね」
アリシア様は私の頭をでながら名前を尋ねます。
「エルザ・オル・ハルクメルズでございます。エルザとお呼びください」
私はアリシア様の前に跪く。今日からこの方が主君。この命はアリシア様のもの。
「そっ、わかったわ。エルザ、あたしは堅苦しいのが苦手なのよ。そんなに畏まらなくていいわ」
「いえ、そういうわけには……」
アリシア様はそう仰るが、私には……。
「もう、だからもっと友達みたいなじで行きましょ。あたしのことはアリシアで良いわ」
「そっそれは、無理です。アリシア様と呼びたいのです。呼ばせてください」
私は懇願しました。アリシア様は既に私の太、神のような存在です。
呼び捨てだけは出來ません。
「あなた、変わった子ね。忠誠を誓ってくれたのは嬉しいけど、ちょっと極端じゃないかしら? ――ふぅ、いいわよ。好きなように呼びなさい。でも、もうしくだけた態度を心がけるようにして」
アリシア様はらしい表で私にそう言いました。ダメです……、主君に対しておしいなんてじては……。
「それは、命令でしょうか?」
「――はぁ、そうね。命令よ、エルザ。あたしの良き友になりなさい」
アリシア様はため息をついて手を差し出しました。
「はい、かしこまりました……」
差し出された手を、私は張をしながら両手で握りました。小さくてらかい――。
このを私は忘れないでしょう。
「じゃっ、帰るわよ。目的の魔の森の主が持っていた、漆黒の魔石も手にったしね」
そういえば、歩いてくる際に何か拾われていたような……。その偶然があったから私たちは出會うことができたのですね。
“次元を司る霊よ、我が魔力を糧に開け、空間超越(エジアム)”
白いが私とアリシア様を包み込む。
――そして、私たちはその場から姿を消した。
◇
曇天の下、荒野が広がる。
目の前には寂れた町と小さな城見えました。
「ここは……?」
私は今まで見たことがある町とはかけ離れた風景に言葉を詰まらせました。
「あたしの國よ。まぁ町は一個だけだし、人口はない。でも、心強い仲間は沢山居るわ。あなたにも紹介してあげるわね」
アリシア様は私の手を引いて城の中にっていきました。
城の建築年數はかなり古いように見えます。所々がひび割れていて、床は歩くとギシギシと音が鳴りました。
「どう? ボロい城でしょ? この城から世界を獲るの。想像するだけでいつもワクワクするわ」
アリシア様は機嫌良く自らの城を貶めしました。この方はトコトン自分を信じているのですね。
私にはその楽しそうな後ろ姿を見て“抱きしめたい”と不覚にも思ってしまいました。
「あっ」
アリシア様は急に立ち止まりました。
「あなたの格好をどうにかしようと思っていたんだったわ」
“時の理を超越せよ、瞬間を凍らせよ、変質変化(メモルナ)”
アリシア様の握られた手から緑の淡いが発せられ私を包み込む。
「こっこれは一……」
が消え去ったあと、私は驚愕しました。
「どう? 気にった?」
私のはまるで浴後のようにきれいになり、所々破れた薄い布の服はまたたく間に黒い軍服に様変わりしました。
右には白いフリージアの花の紋章の刺繍が施されています。
「さあ、ここがあたし達の作戦司令室。今日は幹部集會を行う予定だからほとんどの幹部が中にいるわ」
アリシア様は扉の前で私に説明をしてくれました。
「はい。しかし、魔族の方々の集まる中に人間の私がると々と快く思われない方がいらっしゃるのではないでしょうか?」
私はもっとも心配している點を溢した。
「大丈夫よ。もしそんな奴が居たら、ウィングドラゴンのエサにしてやるわ」
アリシア様はそう仰って扉を開けました。えーっ、そんなに軽い問題ですか?
――ガチャりとドアを開けると魔族たちが一斉にこちらを向く。
司令室は円卓が設置されているだけのシンプルな構造です。席には五人ほどが腰を掛けていました。
どの方々も耳が尖っていること以外で人間と異なる點は特に見當たりません。お一人だけ翼が生えている方が居ますが……。
「待たせたわね! 漆黒の魔石は手にれたわ。今日は新しい同志を連れてきたの」
アリシア様は腰掛けている人達に私の紹介をしました。
「おい、アリシア。人攫いなんかしちゃって大丈夫なのかよ」
黒いバンダナを巻いた、青い目の男が野次を飛ばします。
「グレン、なんてこと言うの? 失禮ね、ちゃんと理的に話し合ったわ!」
アリシア様は黒いバンダナの男をグレンと呼びました。
「アリシア様が理的にお話し合いをされたとは思えませんわ」
黒い髪で青い目をした褐ののは黒い翼が生えていました。
「ミリア、聞こえたわよ……」
黒い翼の生えたはミリアと呼ばれました。
「とにかく、この子はエルザっていうの。腕の立つ剣士よ」
アリシア様は私の腰を叩きながらそう仰せになりました。
「あの、よろしくお願いします! エルザ=オル=ハルクメルズです。先輩方にはご迷かけるかもしれませんが……」
私は張してしまってました。アーツブルグでは公爵令嬢という立場でしたが、それが無くなるとどう人に接すればいいか分からなかったからです。
「固いな、張しているのか? 大丈夫だ、アリシアが連れてくるほどの者だ、誰も貴をイジメたりしないよ」
短い青髪でメガネをかけている端正な顔立ちの……、あれっ? 男ですよね?
「ん? 私の顔に何か付いているか?」
青髪のメガネは私をまじまじと見つめました。
「あははは、きっとレイシアのこと男の人なのか、の人なのか迷っているんだよー」
赤い髪のツインテールのは笑いながら、青髪のメガネを指さしました。彼はアリシア様と同じくらいの長です。
「なっ何ぃ、私のことを男だと? ほっ本當か?」
レイシアと呼ばれた青髪のは立ち上がって私に詰め寄りました。
「すっスミマセン。あまりに端正なお顔でしたので……」
私は素直に謝りました。この方はの方でしたか……。
「うむ、あまり嬉しくはないが……。いいだろう。何かわからんことがあったら遠慮なく聞いてくれ」
レイシアはあっさりと引き下がりました。親切そうな方ですね。
「あははは、ボクはメリルだよー。よろしくねー。人間の同志は初めてだから、楽しみだよー。君も名乗りなよー」
赤髪のツインテールのはメリルと名乗りました。そして、隣で腕を組んで目を瞑って座っているガッシリとした黒髪の男を肘でつついています。
「……うむ。ネルソンだ」
ひと言だけ黒髪の男は名乗ると、また目を瞑ってしまいました。
「どう? なかなか愉快な連中が揃っているでしょ? ここにいる連中の他にもすでに地上に侵攻している幹部連中が何人かいるわ。ちょっとばかり強く人間に恨みを持っている連中が、ね」
アリシア様は終始笑顔でした。主君と部下の関係がこれほどフランクとは……。
他の幹部たち――確かに別の大陸で炎の魔城や氷の魔城なるダンジョンや危ない研究をしている魔族の話は聞いているけど……。
私の持つ魔王や魔族のイメージが崩れていきました。
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