《【書籍化】萬能スキルの劣等聖 〜用すぎるので貧乏にはなりませんでした》魔剣
「グレンさん――。でも……」
私は何事もないように笑っているグレンに驚いていました。
「だから、気にすんなよ。おーい、ミリアちゃん。隠れて見てねぇでこっち來いよ」
グレンは城壁の方を見ながら大聲を出しました。
「あら、イヤですわ。お気づきでしたのね」
ミリアは黒い翼で宙を舞いながら、こちらに近づいてきました。全然気付かなかった……。
私は気配を、じ取れなかったことを恥じました。
「アリシアの奴も心配だよな。オメーもアリシアに頼まれたんだろ?」
「ええ、きっとグレン様は無茶苦茶やるからって監視を命じられていましたわ。正直、斬られたときは、し愉快でしたの」
ミリアはニコリと微笑みながら、地上に降りてきました。アリシア様、私のためにそこまで……。
「けっ、どうでもいいことをペラペラと。そんなことはいいから、とっとと治せ、ほれっ」
グレンは自分のを指さしながら、イラッとした聲を出しました。
「仕方ありませんわね。まったく、お晝くらい奢ってしいですの」
ミリアは翼でグレンの傷口にれます。
「治癒の翼(ヒーリングウィング)……!」
黒い翼は一瞬だけ白く輝き、そのが傷口を癒やします。
一秒もかからないにグレンの怪我が治ってしまったようです。回復魔法は何度か見たことがありますが、このようなスピードのものは見たことがありません。
「さすがに早いな。ありがとな、晝にカレーを奢ってやるよ」
グレンは傷口をりながらお禮を言いました。
「デザートも付けてくださいな」
ミリアは両目を瞑って要求を増やしています。
「ちぇっ、ちゃっかりしてんなー。わぁーったよ」
グレンは口をとがらせながら了承しました。
仲間というのはこういう関係のことを言うのでしょうか? アリシア様は私にこのような関係になれと仰っているのでしょうか。
それは難しいです。私にはとても――。
◇
この日から私は魔剣の修得に取り憑かれたように打ち込みました。
“第二の魔剣、雷霆陥(ライテイオトシ)”
“第五の魔剣、氷狼一閃(ヒョウロウノイッセン)”
“第十の魔剣、魔刃闇烏(マジンヤミガラス)”
半年もしないに私は実に十種類もの魔剣の修得に功しました。
アリシア様から頂いた魔力がに馴染んできて、今では一読して練習すると、技が完全に功するようになりました。
「驚いたな。もう、そこまで魔剣を修得しているのか? 君のような天才は魔族にもいないんじゃないかな」
今日はレイシアが私を見に來てくれました。
「はっはい、ありがとうございます。アリシア様の為に強くなりたいので、なるべく早く全てをマスターしようと思ってます」
私はレイシアに見つめられるとしだけ張します。だとはわかっているのですが――。
「あはは、レイシアのことまた男みたいだと思ったでしょー。レイシアはの子にモテるからなー」
メリルも私の様子を見に來たみたいです。えっと、私ってそんなに心配されているのですか?
「ああ、私たちは興味本位だから気にしないでくれ。魔剣には昔から興味があってね。グレンは脳筋だから絶対に修得しないし……」
「ボクは単純にエルザに興味があるだけだよー。まっ、気にせず修行頑張ってよ」
レイシアとメリルが見守る中、私は魔剣の練習に勵みました。
“第十八の魔剣、紅蓮飛翔撃(グレンヒショウゲキ)”
“第三十五の魔剣、雷獣咆哮(ライジュウノホウコウ)”
“第五十の魔剣、次元斷絶(ジゲンダンゼツ)”
「えっ、これは……難しいです。くっ、こんな中途半端なところで躓くなんて――」
私は五十番目の魔剣の発に失敗しました。次元を斬り裂く剣技は、他の魔剣とは比べものにならないほどの量の魔力を一瞬で剣に供給しなければならないのですが、それに失敗してしまうのです。
もっもう一度――。
だっ駄目だ……。上手く出來ません……。
「いやいや、今まで順調すぎだ。天才とかそんなレベルじゃないから、君は――。というか、ちょっと引いてるよ、私は――」
レイシアは私の側に近寄って聲をかけました。
「エルザー、単純に魔剣の練習しすぎで魔力が足りないだけじゃないのー?」
メリルはニコニコ笑いながら私に助言します。えっ、魔力って足りなくなったりするのですか?
「いや、しないはずないだろ。魔力は魔師の燃料みたいなものだ。私やアリシアはともかく、普通は使い続けたら消費して無くなる。まぁ、休めば回復するが……。魔剣は消費がない方だが、50番目の魔剣は例外みたいだな」
レイシア、メガネの位置を直しながら説明した。知りませんでした。ずっと剣一筋でしたから……。
「しかし、まだ休むには……」
私はここで修行を中斷するのは後ろめたい気がした。
「もー、エルザは頑張り屋さんだなー。ほいっ」
メリルは私の手を握った。すると――。
――パァァァァとまばゆいが私たちを包み込む。
そしてメリルの手から暖かいものが流れてきた。前にアリシア様から口づけをされたときに似て――。
はっ、私はなんてことを思い出したのでしょうか――。あのらかい覚……。
「はいっ、ボクの魔力を分けてあげたよー。って、エルザはなんで顔が紅いのー?」
メリルは不思議そうな顔で私の顔を覗き込んだ。
「ひゃいっ! なっ何でもないです……。すみません、ありがとうございます」
私は溫が上がっているのを実しながら、慌てて誤魔化しました。
「それでは、もう一度、チャレンジしてみます――」
“第五十の魔剣、次元斷絶(ジゲンダンゼツ)”
ズドンと重たい音とともに地面が十メートルほど裂けた……。しかし……。
「駄目です……、失敗しました――」
私は力なく首を振りました。
「えっ、今のが失敗なのか? 凄まじい威力に見えたが……」
「ボクも足がし震えちゃったよー」
レイシアとメリルが顔を見合わせました。
「いえ、魔力の供給スピードがかなり遅れてしまったので、剣撃に全ての力を込めることが出來ませんでした―― 」
「……お前は技の瞬間に手から魔力を供給しようとしているから遅れるのだ。剣をの延長だととらえて、増幅するイメージをしろ」
「えっ」
私は驚いて後ろを振り返りました。振り返るとネルソンが立っていました。
いつの間に……。
「おーっ、ネルソンがアドバイス送ってるー。珍しいなー」
「きっと、エルザの才能に発されたんだろ。彼もエルザに似て魔力を拳に供給して放つ、魔法拳の使い手だからな」
メリルとレイシアは微笑みながら、ネルソンを見た。
「……ふん。やかましい音で瞑想に集中出來なかっただけだ。変な勘繰りはやめてもらおう」
ネルソンはそう言い殘して去って行こうとします。
「あのっ、ネルソンさん! ありがとうございます」
私はネルソンに頭を下げました。
「……」
ネルソンは返事をせずに去って行った。しかし、私には彼の溫かい心は伝わっていました。
「では、今度こそっ! 剣をの延長と考えて、魔力を増幅するイメージっ!」
“第五十の魔剣、次元斷絶《ジゲンダンゼツ》”
――ずしりと剣の切っ先が重くなるのをじた。だけど――。
て、手応えがない……。まさかっ……、失敗?
「こっこれは……、この世の理(ことわり)を超えている……」
「うへぇ、こんなの食らったら絶対に死んじゃうよー」
レイシアとメリルは目を丸くして地面を眺めています。しかし、手応えは……、なっ!
私の足元から十メートルほど剣の厚さ分の地面が《消滅》していました。
底がまったく見えないのです。地面がその分削り取られて無くなっています。
次元斷絶は私の仮定ですが、萬を斬り裂くことが出來る剣技なのでしょう。
しかし、レイシア曰く魔力は他の魔剣とは比べものならないほど多く消費するので、多用は出來ないようです。
そして、この魔剣の修得後は更に楽に修得可能になっていました。これも、皆さんのおかげです。
“第八十八の魔剣、夢幻刀夜(ムゲントウヤ)”
これで、全ての魔剣修得です!
私はなんとか全ての魔族の奧義を極めた。
アリシア様は褒めてくださるだろうか?
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