《ハッピーエンド以外は認めないっ!! ~死に戻り姫と最強王子は極甘溺ルートをご所です~》6
「ど、どうしてそれを……」
「フローライト? どういうこと? その時戻りの魔法に心當たりがあるの?」
カーネリアンが問いただしてくる。
言いたくない。だけどさすがに今の狀況で黙っているわけにはいかない。
仕方なく私は、小さく頷いた。
カーネリアンが目を見開く。
「そんな……君が、いつ?」
「……」
どこまで話せば良いものか困っていると、魔王が言った。
「時戻りの魔法は、他者の魔力を取り込み、自らの魔力と混ぜ合わせて発させる特殊すぎる魔法だ。魔力を取り込む方法は、摂取。見たところお前はまだ処のようだが――とすると、その先の未來から飛んできたのか?」
「……」
答えなかったが、カーネリアンは私の無言を肯定と捉えたようだ。「未來……」と小さく呟いている。
そうしてハッとしたように言った。
「待って……摂取?」
「そうだ。その娘は口づけやによるを摂取することで、その相手の魔力を取り込むことができる。そうして自分の魔力と混ぜ合わせ、時戻りを発させることが可能となるのだ。ちなみに、魔法を発させるトリガーとなるのも相手との接だ。魔力を取り込んだ相手に口づけながら、『戻りたい』と強く願うことが発の切っ掛けとなる。娘、思い當たる節はあるだろう?」
「……」
言われなくても、心當たりは十分過ぎるほどあった。
私はカーネリアンと、男の関係にあった。そして彼が死んだ時、口づけしたことも、過去を後悔したことだって覚えている。
もし私に本當に時戻りなんて魔法が使えるのなら、発の條件は十分過ぎるほど満たしていたはずだ。
カーネリアンが私を見る。
「……もしかして、その魔力を取り込んだ相手って私?」
「……ええ」
小さく頷く。
そうして、話した。私がどうして時戻りをすることになったのか。
ここまでくれば隠しきれないと思ったのだ。
彼が死に、その後を追い、気づいた時には十歳になっていたと、これまでのことを全部話し終えると、カーネリアンは「そうか……だから」と納得したように頷いた。
「君が、私を戦いから遠ざけていたのはそのせいだったんだね。ずっと不思議だったんだ。私が戦うと言うと、君は人が変わったように拒絶する。私はいつもどうしてそこまで? と思っていたんだけど……そうか。未來の私が、君を傷つけていたんだね」
ごめん、と謝られ、私は必死に否定した。
「ち、違う、違うの。あなたは悪くない。全部私が魔王に攫われてしまったからで、あなたは私を助けてくれたもの」
「でも、君を殘して死んでしまった。……ごめんね。辛かっただろう。二度と君を殘してひとりでなんて逝かないって約束するから、どうか君を置いていった前の愚かな私を許してはくれないかな」
「っ……! 許す、なんて……」
カーネリアンが謝る必要なんてどこにもない。
私たちの話を聞いていた魔王がクツクツと笑う。
彼は自分がもうすぐ消えるという狀況にもかかわらず、非常に楽しそうだった。
「これで謎は解けたな。ああ、せっかくだ。ひとつ言っておこうか。時戻りには後癥があると言っただろう。もう始まっているみたいだが、お前はこれからずっと、酷い後癥に悩まされることになるぞ。しかもその頻度はどんどん増していく」
「えっ……」
ズキン、と額が痛みを訴えた気がした。
カーネリアンが魔王に聞いた。
「その頭痛、続けばどうなる?」
「さあ。吾輩はそこまでは知らん。だが絶え間なく痛みが続く生活なのは確かだろうな。殘念ながら薬が効くようなものでもないし、厳しい未來が待っているのは間違いない。とはいえ、時戻りを使った代償だと思えば安いものだ」
つまらなさそうに魔王が言う。
を噛みしめた。確かに魔王の言う通りだ。
頭痛程度でカーネリアンの死を回避できたのだと思えば、私が躊躇う理由など何もないし、後悔だってしていない。
私がこの頭痛という代償を今後も払い続ければ、それで済むというのなら安いものだ。
だが、カーネリアンは納得できなかったようで、魔王に詰め寄っていた。
「治療方法は?」
「知らん」
「噓だな。もし本當にないのなら、お前はこの話を出さなかったはずだ。黙ったままで、私たちが理由の分からないまま苦しむことをよしとしただろう。それをわざわざ告げたということは、何らかの改善方法があるということ。そして、お前がそれを私との渉材料にしたいと思っていることだ」
「……」
にやり、と魔王が笑った。
逆にカーネリアンの顔からは表というものがそぎ落とされている。
「言え、魔王。お前は何をむ。何を私から條件として引き出したい」
「……大したことではない。このままだと吾輩は一時間もせず消えていく。それが嫌なだけだ。吾輩の命を助けてくれるのなら、吾輩の知る方法を教える。それが、條件だ」
魔王の赤い瞳がカーネリアンを鋭く捕らえる。
それをカーネリアンは真正面からけ止めた。
「――なるほど。生をむ、だな。良いだろう」
「契約立か? 當然、この死にかけのもどうにかしてくれるのだろうな?」
「もちろん。この私、カーネリアン・スターライトの名において誓おう」
「……承知した」
魔王が頷く。カーネリアンはそんな魔王に己の手のひらを翳した。
「では、始めようか。早いほうが良いだろうからね」
「それはそうだが――一どうするつもりだ? 吾輩の方に何かする力はもうないぞ」
「そんなこと承知の上だよ。だから、こうするんだ――」
微笑みながらカーネリアンが魔法を放つ。白いのようなそれは魔王のにしゅるしゅると纏わり付いた。
「ん?」
何かがおかしいと、魔王が眉を寄せる。だが、すでに変化は始まっていた。
魔王のがみるみるうちにんでいく。その姿はあっという間に消え――そして、彼がいたところには新たに小さな黒貓が座っていた。
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