《【書籍化作品】離婚屆を出す朝に…》33、新たな未來に向かって
「紫奈……。
本當に君は早とちりばかり……。
いや、俺がもっとしっかりしていれば良かったんだな。
余計な心配をさせてしまったから……こんな事に……。
でも、紫奈。
君はやっぱり何も分かってないよ。
俺はお金なんかいらなかったんだ。
君さえいれば、他に何もいらなかった。
最後の最後にしてるなんて殘酷だよ君は。
こんなにしてる気持ちを、俺はどこに置いておけばいいんだよ。
殘酷過ぎるよ、紫奈……」
病室には那人さんと由人だけになっていた。
最後の別れの時間を、まずは家族水らずで過ごさせてあげようと三人だけにしてくれた。
那人さんの隣りでは、由人がベッドに突っ伏したまま泣いていた。
二人とも目を開いた私にまだ気付いてなかった。
もう二度と會えないと思っていた二人が、すぐ側にいる。
私の手をとって泣き言を言う那人さんが新鮮だった。
私の前で涙も見せなければ弱音も吐いた事のない人だった。
まだまだ知らない那人さんを、これから全部け止めていける。
「私は死んでもダメ出しされちゃうのね」
俯《うつむ》いて手を握ったままの那人さんに、ふふっと笑って答えた。
「!!?」
那人さんは驚いて顔を上げる。
「紫奈?」
由人も異変に気付いて涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
「お母さん?」
「二人があまりに泣くから、戻ってきてしまったわ」
「まさか……」
那人さんが立ち上がる。
「紫奈……。本當に……?」
「お母さん!!」
由人はベッドによじ登って私に縋《すが》りついた。
「夢……なのか?」
那人さんは、まだ事態が飲み込めないようだ。
「夢じゃないわ。
二人が私を呼んでくれたから、戻ってきたの」
「紫奈……」
途端に那人さんの目に涙が溢れた。
「本當に私でいいの?
那人さんには、もっと素敵な人が現れたかもしれないのよ?
私は何をやっても失敗ばかりで完璧になんて出來ないのよ。
これからも、きっとドジばかりで二人を困らせるわ。
本當にこんな私で良かったの?」
「紫奈がいいんだ。
紫奈以外は考えられないんだ。
もう、君以外をせる気がしないんだ」
そう言って那人さんは泣き崩れた。
「失敗ばかりでもドジばっかりでもいいよ。
勉強が出來ないなら、僕がいっぱい勉強して教えてあげるから。
だから……ひっく……僕を……置いていかないで……」
由人は私に覆いかぶさるようにして、わああと泣いた。
ゆっくりとが通い始めた手をかし、由人にれる。
もう手にするはずもなかった溫かさ。
再びじられる事に、じわりと涙が涌き出る。
「うふふ。こんな素敵な家庭教師がいるんじゃ、死んでる場合じゃないわね。
じゃあ、これからもいっぱい勉強教えてくれる?」
「うん。ぐすっ……いいよ」
私は由人を力いっぱいに抱き締めた。
「みんなを呼んでこよう!
みんなびっくりするよ」
那人さんはナースボタンを押して、病室の外に走っていった。
◆ ◆
「じゃあ、會社は倒産しなくて済むの?」
「ああ。もちろん當分は厳しい経営になるだろうけど、當面の危機はなんとか回避できた」
翌日、まだ検査院している私を那人さんが會社帰りに見舞いにきた。
「今までみたいに贅沢はさせてやれないかもしれない。
苦労をかけるかもしれないけど、俺の側にいてくれるか?」
那人さんは改めて尋ねた。
答えなど決まっている。
「那人さんと由人がいれば、何もいらないわ」
那人さんはベッドに座る私に、ゆっくり顔を近付ける。
そして……。
ためらいがちに、優しくキスをした。
なんだか初めてのキスのようにお互い照れくさかった。
「そ、それでその資産家のお婆さんにお禮を言いに行くの?」
し赤く染まる顔を俯け、尋ねる。
「あ、ああ、うん。
漬好きで有名らしいから、デパ地下で何か手土産を買っていこうと思うんだ」
「漬?」
ふと、何かがつながった気がした。
「そ、そのお婆さんって……まさかヨネって名前じゃないの?」
「ああ、そういえば夏目はヨネ婆さんって呼んでたな」
「ヨネ婆さん!!!」
私は驚いてんだ。
「なんだ、紫奈、知ってるのか?」
「あは、そっか。ヨネ婆さん……」
「知り合い?」
「ううん。知り合いじゃないけど……。
ふふふ。漬石だけはよく知ってるの」
「漬石?」
那人さんは首を傾げた。
「ねえ、今度ご挨拶に行く時、私も連れていって」
「もちろんいいよ。由人も一緒に三人で行こう」
「うん!」
次の課題まで……
だまりの時間を三人一緒に……
大切に過ごして行こう……。
……………………………
「……」
「どうやら無事元の世界に戻れたようですね」
天井のスクリーンを見ながら、青翁は赤翁に言葉をかける。
「しばし幸福の時が訪れることだろう。
じゃがしかし、人生の課題は一つだけではない。
充分な活力を蓄え、また更なる課題に取り組まねばならぬ。
それが生きるという事じゃ」
「苦労すると分かりながら、みんな懲りずに次の生を求めるのですね」
「面倒に思うかもしれぬが、苦しみもがきながら課題に取り組む先に、幸せも喜びも転がっておる。
楽な方に逃げてはならぬ。
わざわざ辛い道を選ぶ必要はないが、自分が正しいと思う道が険しいなら、信念を持ってその道を突き進むべきじゃ。
正しく険しい道の先にこそ、本當のも幸せも落ちているのじゃ」
黃翁が手を下ろし、スクリーンがゆっくり閉じていく。
ようやく長い事例が終わったと、翁達が立ち上がる。
しかし……。
青翁がメガネの裏を読んでんだ。
「お待ち下さい、みなさま!
たった今、リベンジシステムの治験者希の問い合わせがきました」
「なんじゃ、やっと1例目が終わったばかりじゃというのに」
「どうやら芥城紫奈の功を見て、是非にもやってみたいとんでいるようです」
「仕方がないのう。どのような者だ」
「はい。対象者は山康介。
非常にらしい容姿に生まれついたせいで時からちやほやされ、顔だけで人生を要領よく渡ってきた男のようでございます。
すべて顔で解決出來ると思っていたのが、年齢と共にうまくいかなくなり、結婚詐欺まがいの事をやっては失敗し、やけになって薬に手を出したようでございます。
致死量の薬を取りれ、意識不明で間もなく病院に運ばれるようです」
「呆れたバカ者じゃのう……」
「やれやれ、次はどんな愚か者がやってくるのか……はひ」
「まったくじゃ……はひはひ」
「楽しみな事じゃのう。はひはひはひはひ……」
翁達の忍び笑いが……厳粛な霊界中に……響き渡った……。
完
完結です。
本當に大勢の方々に読んで頂き、心よりお禮申し上げます。
ありがとうございました。
わがまま娘はやんごとない!~年下の天才少女と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~
―――― この作品は、ヒロインの女の子のかわいさをお楽しみいただくための作品です。 冴えないけど誠実な主人公が、最強スペックだけど性格が殘念なヒロインに口説きまわされつつ、一緒に正體不明の妖怪「ヌエビト」の正體を明らかにしていきます。 そのため、マイルドな會話と少しのミステリー成分を含んでおります。 謎解き、のじゃ口調、積極的な女の子が苦手な方は、食中毒にご注意の上でお読みください。 大丈夫、死ぬことはありませんから。 ―――― 2017.4/3~4/5 日間ジャンル別推理ランキング1位になりました。 2017.4/5~4/9 週間ジャンル別推理ランキング1位になりました。 2017.12/31 本編完結しました。 第二回モーニングスター大賞「社長賞」頂きました。 本當にありがとうございます! ―――― 表紙のイラストは「ぶわる」様に描いていただきました! 作中の地図はINKERNATE WORLDs(https://inkarnate.com/)様で作成しました。
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