《【書籍化】王宮を追放された聖ですが、実は本の悪は妹だと気づいてももう遅い 私は価値を認めてくれる公爵と幸せになります【コミカライズ】》第二章 ~『舞踏會での想定外』~
王國で最もしい街を問われれば、百人が百人同じ答えを返す。それは間違いなく王都であると。
柿の屋瓦と煉瓦造りの住居が並ぶ。整備された居住區にはゴミ一つ落ちていない。王都の法律でゴミを落とせば、罰金刑が課されるからだ。
「やはり王都は綺麗ですねぇ」
「私の領地も王都に負けない立派な街にしないとな」
荷馬車から街の景を眺める。王宮から追放された日はしい景を楽しむ余裕などなかった。だが今は違う。麗な街並みに心からのを覚えた。
「王宮に到著したようですね」
馬の嘶きと、荷馬車の揺れで目的地に到著したと知る。荷馬車から降りると、目の前に白亜の王宮が聳え立っていた。
「私の役目はここまでです。聖様、公爵様。ご武運を」
「ありがとな」
「ありがとうございます」
グランに禮を伝えると、王宮への階段を登る。憲兵が向かってくるアルトたちに警戒心を示すが、彼のなりから貴族だと気づき、背筋をピンとばして敬禮する。
「失禮ですが、どなたのご紹介でしょうか?」
「王子からの招待だ」
「王子の……ということは舞踏會へのご參加で?」
「ああ。これが招待狀だ」
招待狀はハラルド王子の直筆だ。教育をけている憲兵が見間違えるはずもなく、それが本だと確信できる。だが憲兵の顔は晴れない。
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもありません……」
アルト公爵を舞踏會へと招くと招待狀には記されている。しかし風の噂で聞いた容貌は、この世のものとは思えないほどに醜いという話だ。
しかし目の前にいる彼は、男でも見惚れるほどの丈夫だ。噂と現実の違いに疑念が湧くが、さすがに公爵相手に「あなたはもっとブサイクですよね?」とは質問できない。
招待狀があるのだから、きっと本人なのだろうと、憲兵は疑いを心のに引っ込める。王宮へ足を踏みいれることを許可するように扉を開いた。
「舞踏會の會場は廊下の突き當りの大広間です」
赤絨毯の廊下を進んだ先、にぎやかな聲が聞こえてくる空間へと向かう。
「アルト様、いよいよですね」
「覚悟はできているか?」
「もちろんです。なにせ隣にアルト様がいるのですから」
大広間へと足を踏みれた二人に視線が突き刺さる。著飾った男たちは海千山千を乗り越えてきた貴族たちだ。舞踏會を楽しみながらも、新たな參加者の値踏みを忘れない。
「綺麗な男ね。あんなにしい人は見たことがないわ」
「寄り添っているも彼に劣らずしいね」
「きっと名家の生まれに違いないわ」
「いったいどこの誰だろうね?」
大広間に突如として現れた男にざわめきが広がり始める。ヒソヒソと囁く聲が認識できるほどに大きくなった頃、本日の主役であるハラルド王子が顔を出した。
「皆の衆、笑うのはそこまでだ。弟は隣にいるのも恥ずかしくなるほどの不細工だが、顔の醜さは罪ではないからな!」
クラリスにアルトの隣にいるのは恥ずかしいと思わせるために、あえて大聲で宣言する。だが侮蔑の笑みを浮かべている者はいない。いったいどういうことだと、弟に視線を合わせる。
「お前は……いったい、誰だ?」
鏡に映る自分に瓜二つの男に、ハラルドは困する。黒髪黒目の明のある彼は、ナルシストのハラルドだからこそ嫉妬するほどにしい。
「兄上、久しぶりですね」
「俺にお前のような弟はいない……奴め、恥を掻くのが嫌で代わりを送ってきたな」
「…………」
口で言っても信じてもらえないと理解し、アルトは手の平に魔力を集めた。魔力は炎に変換され、メラメラと燃える焔火が浮かぶ。
自然現象をる魔法は王族にしか扱えない。噓の吐けない証拠に、目の前の男子が弟であると信じるしかなかった。
「何があったんだ?」
「私の顔が醜かったのは呪いが原因だったのですよ。それをクラリスに治して頂きました」
アルトの背中に隠れるように、クラリスは顔を出す。気まずそうに眼が泳いでいる。
「お久しぶりですね、ハラルド様」
「――――ッ」
クラリスと再會を果たしたハラルドは、生唾をゴクリと飲み込む。面はともかく外見はリーシャの方が上だと思っていたが、その認識は間違っていたと思い知らされたのだ。
黃金を溶かしたような金髪に、明のある白磁の。そしてリーシャと違い、容貌に優しさが満ちていた。
面のしさが顔にまで影響を與えたのだ。一年前とは別人のようにしくなった彼を前にして、ハラルドは聲が震えてしまう。
「お、俺はお前を迎えに行ったのだぞ。どうして斷ったのだ?」
「好意は嬉しいのですが、私、好きな人ができたんです」
「好きな人だと……」
「アルト様と生涯を共にするつもりです」
口元に攜えた笑みが、アルトにを向けていることを証明していた。だが諦めきれないと、ハラルドは下をギュッと噛み締める。
「もし俺が婚約破棄したことを恨んでいるのなら謝ってやる。だから……」
「私はアルト様と結婚します。王宮へ訪れたのも、婚姻屆けを提出するためなのです……認めてくださいますよね?」
選択を迫られたハラルドは鬼の形相を浮かべる。
プライドを傷つけられたことが原因ではない。大勢の貴族たちの前で恥を掻かされたことも些末な問題だ。
怒りを湧き立たせているのは、クラリスに斷られても尚、彼に強いを抱いている自分を許せなかったからだ。
「衛兵。こいつらを捕まえろっ!」
「ハラルド様、いったい何を……」
「俺は王子だ。男爵家の娘なら、本人の意思を無視して婚姻することもできる」
「本気、なのですか?」
「本気だ」
「殘念です。私のしたハラルド様ならこんな暴を働いたりしませんでしたよ」
「――――ッ、う、五月蠅い。俺は王子だ。俺は……」
悲しみで目を伏せるクラリスに、ハラルドは戸いを見せる。その隙を突くように、アルトは彼の手を引いて、大広間から飛び出す。
「アルト様!」
「いまは何もいうな。兄上は話ができる狀態じゃない」
「で、ですが……」
「その証拠に前を見てみろ」
廊下を駆ける二人の前に二人の衛兵が立ちふさがる。腰から剣を抜く彼らは、ハラルドの敵意の証明だ。
「止まってください、公爵様!」
「私の邪魔をするなら容赦しないぞ」
「わ、私たちも仕事なのです。ご覚悟を」
二人の衛兵は剣を構える。だが口と違いは正直だ。公爵相手に剣を向ける度はないのか及び腰になっていた。
そんな彼らの握った剣を風の魔法で吹き飛ばす。頼みの綱の武を失った衛兵たちは、魔法を扱える貴族に勝てるはずもなく、道を開けるように、その場から退いた。
王宮を飛び出し、階段を駆け降りる。衛兵が追ってくる気配を背後からじる。
「公爵様、聖様! こちらです!」
階段下に荷馬車が止まっていた。グランが出発の準備を整えてくれていたのだ。
馬車に乗り込むと、勢いよく馬が走りだす。窓の流れていく景が、王宮から離れていることを実させてくれた。
「助かりました、グラン様」
「王子には仕えて長いですから。彼の格を考慮すると、こうなることも想定のです」
「ですがそれでは立場が危うくなるのでは?」
「はい。ですので雇ってくれますよね、公爵様?」
「任せておけ。倍の給料を払ってやる」
「そうこないと」
世渡り上手なグランに心するように笑みが零れる。その笑みには他にも意味が込められていた。
「アルト様は隨分と嬉しそうですね」
「それはそうだろ。なにせ兄上との婚約をはっきりと斷り、私と結婚すると大勢の前で宣言してくれたのだからな」
「~~ぅ……思い返すと恥ずかしく思えてきました」
「恥ずかしくないさ。なくとも私は嬉しかった。ほら、口元の笑みがいつまでたっても消えてくれない」
「ふふふ、本當ですね」
荷馬車に揺られながら、二人は幸せを実するように笑い合う。婚姻屆けが理されることはなかったが、心の絆はより強まったのだった。
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