ゼノとの出會いから數か月が経過した頃、寒い季節になった。雪が降るほどではないが、厚著の外套を羽織っている者が多い。クラリスとアルトもまた皮のコートにを包んでいた。

「寒さは冬が近づいている証拠ですね」

「寒いなら手でも繋ぐか？」

「ふふふ、それは良き考えです」

絡めた指から互いの溫が伝わる。心まで溫かくなり、幸せを実できた。

「寒くても街は活気づいていますね」

「魔バブルはまだ継続中だからな。それに聖堂教會が活躍しているおかげでもある」

「ゼノ様の慈善活ですよね？」

「スラムの貧困層に食住の提供だけでなく、就労支援もしているそうだ。その者たちが働き手となり、経済を回す。そのサイクルが街の活気を生んでいるのだ」

労働人口が増えれば、領地は稅収で潤う。聖堂教會の存在はアルト領にとっても大きなプラスになっていた。

「売り切れていた人気商品を荷しました！」

「ふふふ、客引きの聲も活気に満ちていますね♪」

「聖様グッズ、ただいま限定販売です！」

「え？」

聞き捨てならない臺詞にクラリスは足を止める。聲が聞こえた店まで近づくと、そこには信じたくない景が広がっていた。

「これは聖様。よくぞいらっしゃいました」

「ゼノ様、こちらの店は……」

「聖様グッズの専門店です」

「わ、私の……グッズ……」

理解できないと、頭の中が真っ白になる。

店頭に飾られているのは、クラリスの顔を模した『聖様クッキー』だ。傍には羊で作られた『聖様人形』まで置かれている。恥ずかしさに白いが耳まで紅く染まる。

「あ、あの、私なんかのグッズを買う人がいるのですか？」

「いますとも。ほら、公爵様も買われています」

「アルト様！」

「そりゃ、クラリスのグッズだぞ。買うだろ」

「～～～～っ」

どちらかといえば引っ込み思案なクラリスである。自分のグッズが売られている現狀に、恥じらいをじてしまう。

「あ、あの、グッズ販売を考え直していただけませんか？」

「これでは數がない。もっと大量生産しろということですね！？」

「え、あの、ちが……」

「さずがは聖様、お優しい！　恥じらいを我慢してでも、慈善事業へと協力していただけるとは」

「じ、慈善事業ですか？」

「我々、聖堂教會は貧困層に食住の提供を行っています。その資金源の一つが、聖様グッズなのです」

「私のグッズが人を救うと？」

「それはもう。最近発売した『聖様をイメージした香水』は大ベストセラーでしたし、私も用しています。この香水のおかげでいつでも聖様を傍にじることができるのです。ああ、聖様の慈悲に謝をっ」

「～～～～っ」

香水の販売を止めさせたいが、その利益が慈善事業に使われているため、強く出ることができない。恥ずかしさは頂點に達し、目には涙まで浮かんでいた。

「折角の機會です。聖様のご威を、あの子たちにもじてもらいましょう」

「あの子たち？」

「みんな、出てきなさい」

ゼノが呼びかけると、店の奧から子供たちが顔を出す。みすぼらしい格好をしているが、顔は優れている。食事をきちんと取れている証拠だった。

「こちらの聖様が、恥を忍んでグッズ販売を認めてくれたおかげで、みんなの住む孤児院を建てることができたのです。お禮を言いましょう」

「ありがとう、お姉ちゃん！」

子供たちが笑顔を向けてくれる。それだけでクラリスの恥じらいは吹き飛んだ。

「ゼノ様のおかげで、アルト領には幸せが満ちていますね」

「私の力ではありません。資金はすべて聖様の力添えがあってこそですから」

「それでも。私はあなたを尊敬しています」

クラリスの尊敬をゼノは背筋をばしてけれる。満足げに彼は微笑んだ。

「アルト公爵領の布教活は目途がつきました。あとは部下に任せ、次はフーリエ領へと向かいます」

「どうしてフーリエ領に？」

「あそこは貧富の差が激しいのです。領主のフーリエ公が酷い男で、貧民を見殺しにしているとのこと。我が聖堂教會が救いの手を差しべなければなりません」

フーリエ公は貴族を絵に描いたような傲慢な男だ。もしトラブルでも起きたらと、ゼノのことが心配になる。

「必ず無事で帰ってきてくださいね」

「心配は無用です。悪徳領主の相手には慣れていますから」

「しかし……」

「フーリエ公が失腳し、聖様たちが治めてくれれば……いえ、今のは余計な発言でしたね。忘れてください」

ゼノは微笑みを口元に刻む。その笑みに狂気が混じっていることを、クラリスたちは気づくことができなかった。