セイたちがパワーアップして、エルフ國アネモスギーヴへ出発した、一方その頃。

聖を追いかけるＳランク冒険者フィライト、およびその人のボルスはというと……。

「ぜえ……！　はあ……！」

「な、なんて過酷な道程なんだ……！」

フィライトたちは大汗を搔きながら、しずつ荒野を進んでいく。

冒険者數名と臨時パーティを組んで、この人外魔境《スタンピード》の地を進んでいる最中だ。

セイたちの通った後には、魔除けの効果で、モンスター達が寄りつかない。

とはいえ、それはあくまでランクの低いモンスターに限った話(とはいってもＢランク以下なのだが)。

Ａランク以上のモンスターが、ここいらではうじゃうじゃと出現する。

敵とエンカウントするたび戦闘になる。また、太を遮るもののないこの荒野では、殺人的な日差しが彼らから水分と力を奪っていく。

定期的な休憩を挾まないと、とてもじゃないが、進んでいけない。

聖に追いつきたいという、強い気持ちのあるフィライトですら、1時間もしないうちにダウンしてしまうほどだ。

「な、なめてたぜぇ……こんなにも、きちぃとはよぉ～……」

聖の通った道の上に、馬車を停止させて、彼らは休息を取る。

「とはいえ、以前よりは格段に楽になりましたよ。やはり聖さまの、聖なる魔除けのおかげでございますな」

セイに助けられたことのある、パーティのリーダーがそういう。

彼が偶然渡した魔除けのポーションの効果は、彼ら、そして聖が歩いたあとに、魔除けの力を付與する。

そうして聖が歩いた後には魔が一切よりつかない、聖なる道となった。

「この……ぜえぜえ……道を、【聖街道】と名付けるのは……どうですの？」

疲れ切ってるというのに、フィライトはしたり顔でそんなことを言う。

リーダー達はみな笑顔で賛同していた。

完全に信者だ……とボルスは若干引いていた。

「まあこの魔除けのおかげでよぉ、行き先ははっきりしてるがよ。しかしなっかなか進まねえなぁ」

魔が避ける道を進んでいけば、いずれセイたちの居る場所にたどり著けるはず。

とはいえ、道中の魔との戦い、そして灼熱の太が、彼らの進みを鈍くしてる。

「もどかしいですわ……」

と、そのときだった。

「や、やべえ！　大変だ！　魔の群れだ！　【黒犬《ブラック・ハウンド》】の！」

「「「なっ……！？」」」

彼らの顔からの気が引く。

黒犬。それはＡランクの兇悪なモンスターだ。

ベテラン冒険者パーティでも、一倒すので一杯。

そんなやつらが群れをなしているだなんて……。

普段の彼らが、いつも通りの力を発揮できれば倒せる相手。

だが今は全員が疲弊している。このタイミングでの黒犬。しかも、大群。勝てるはずがなかった。

「戦いますわよ、みなさん……」

絶に沈むなか、フィライトだけが武を手に取って立ち上がる。

「何もしなければ、モンスターの餌になります。我らが食われれば、他の力なきものたちの命も失われてしまいます。立ちましょう！」

「ああ！」「そうだな！」「やるぜ……やったるぜえ！」

フィライトの言葉には力がある。彼が持つカリスマゆえにだろう。

その貌に、凜としたたたずまいは、彼らに力と勇気を與える。

今は聖の信者みたいになってるが、フィライトは世界最高峰の冒険者の一人なのだ。

しかし……。

黒犬たちは、彼らの間を抜けていった。

「おれたちを……避けた？」

「そんな、ありえませんわ。モンスターが人間を避けるなんて。魔除けの力……？　いや、そんなじじゃない……どうして……」

と、そのときだった。

ずもぉお……！　と荒野の地面が盛り上がり、そこには……。

「「「…………」」」

おぞましい化けが出現した。

見上げるほどの巨大なミミズだ。

頭部には鋭い牙がびっしりと生えており、そのよだれは地面をじゅうじゅうと焼いている。

表は固そうな瓦のような鎧につつまれていた。

その巨、そしてその異形な姿に……彼らはすっかり戦意を喪失していた。

フィライトですら、武を落として、子のように震えている。

もうおしまいだ。誰もがそう思った。

そのモンスター……砂蟲《サンドワーム》は、彼らを丸呑みにしようとした……。

そのときだ。

ばちゅんっ……！

砂蟲《サンドワーム》の頭部が、一瞬にして消し飛んだのだ。

「な、なんだぁ……？」

「見ろ！　魔除けの力だ！　あいつは聖さまが付與なさった聖なる力によるダメージをけたんだ！」

確かに、自分たちを襲おうとした瞬間、砂蟲《サンドワーム》はなにかにはじかれたようにのけぞった。

きらきら……と今のフィライト達の周りには聖なるが展開してる。

砂蟲《サンドワーム》はそのに怯えるように、地面の中に消えていった。

「おお！　すげえ！」「聖さまのお力は、あんな化けすら退けてしまうなんて！」「Ｂランク以下を近づけず、さらにあんな化けから守ってくれるだなんて！」

「「「聖さま……まじすげええ！」」」

ボルスは戦慄していた。先ほどの砂蟲《サンドワーム》は、完全にＳランクのフィライトの技量では倒せないほどの、化けだった。

ということは、Ｓランクを超えるモンスター……ＳＳランクとも言える怪異。

その攻撃を軽々とはねのけるほどの、聖なる力を付與した。

「やばいな……あの嬢ちゃん……すごすぎだろ……」

一方でフィライトは靜かに涙を流していた。

ボルスは慌てて人の元へ向かう。

「お、おい大丈夫か！？　どこか怪我したのか！？」

ふるふる！　とフィライトが強く首を振る。

「聖さまの業に……涙の涙を流してるのですわ……」

「ああ、そうかよ……」

心配して損した……とボルスは力する。

彼氏の心配など全く意に介した様子もなく、フィライトがぶ。

「聖街道には、あのような化けですら我ら無辜の民を守る力があります！　広めましょう、人々に！　聖さまが我らの安全のために作った、この神の道を！」

「「「おー！」」」

しかし殘念ながら、セイは別にこの道を作ったわけではない。

単に、無自覚に聖なる力を振りまきながら歩いた結果、そこが道になっただけである。

真実を知らぬ彼らの手によって、セイの偉業をますます広めていくことになる。