セイたちが村を出発して半月ほどが経過したある日のこと。

彼たちを追跡するＳランク冒険者、フィライトが、ふらふらとなりながら悪魔の塔を踏破した。

「フィライトさん！　ご無事でしたか！」

人のボルスをはじめ、同行してきた冒険者達は、塔のり口で待っていた。

フィライトを抱きしめてあげるボルス。大分お疲れのようだった。なにせクリアに2週間もかかったのだ。

「お疲れ。そんで、手がかりはつかめたのか？」

「ええ、ボルス……ここは、聖さまのお師匠様の塔でしたわ……」

「師匠？」

「ここで聖なる技を鍛えた、とのこと。塔の最上階にいた、侍様より聞きましたわ……」

フィライトはこの塔であったことをボルス達に語る。中には難解なトラップ、強力なモンスターなどがうろついていた。

聞いただけでボルス達は震え上がるほどの、恐ろしい罠が仕掛けられていたのである。

「聖さまはこの塔をなんと、數秒でクリアしたと、侍様よりうかがいましたわ！」

「おお！」「すげええ！」「フィライト様が2週間もかかった試練を數秒でなんて！」

セイへの評価がまたも上がりしていく。だが実際にはセイは転移ポータルを使っただけで、塔のトラップなどは全くひっかかっていない。

そのことを知らない彼らからすれば、Ｓランク冒険者すら苦戦する危険な場所を、楽々と越えていった聖すごいとなるわけだ。

「しかしよぉ、聖さまここに何しに來たんだ？」

「見ればでしょう、ボルス。この高い塔を見れば」

「いや、さっぱりだ」

「聖さまはこの世界を高い場所から見下ろし、この暗黒に包まれている世界の窮狀をなげき、祈りを捧げていたのです……！」

と勝手に妄想するフィライト。ボルスはそんなわけあるか、とわかってる。だがこの人、セイに関してだけはポンコツでかつ意固地なのだ。

ここで異を唱えたらおそらくは激怒するだろう。らぬ神に祟りなしとばかりにスルーする。

「そんで、聖さまはどこへ向かわれたって？」

「そのまま南下して行ったそうですわ」

「じゃあまっすぐエルフ國アネモスギーヴに向かったのかもな。行こうぜ」

と冒険者の一団を連れて、ボルス達は塔を後にする。そんな風に歩いていると……。

「な、なんじゃあありゃあ」

とても立派な村が……否。

城塞都市が見えてきたではないか。

なんとも見事な外壁が、荒野の中にぽつんとあった。すさまじいくらいの場違いである。

補給の意味合いもかねて、ボルス達は都市に立ち寄ることにした。

「す、すげえ……」「なんて立派な城塞都市なんだ……」

そこは辺鄙なところにある都市とは思えないくらい立派で、整っていた。整地された道路に、整然と並ぶ建群。

都市で暮らす人々はみな溌剌としていて、すさまじいスピードで都市開発が進んでいた。

ボルスは近くに居た都市の人に尋ねてみる。

すると數日前までは、砂蟲《サンドワーム》に襲われて壊滅寸前の村だったことを聞いた。

「たった半月でここまで立て直したのか？　一全どうやって？」

すると町の人は誇らしげに、彼らをとある場所へとった。それは都市の中心部にある噴水公園だ。

「なっ！？　あ、あの嬢ちゃんじゃねえか……！」

「素晴らしい……！　神像ならぬ、聖像ですわねー！」

鉱を削って作られた、巨大な聖像を前に、フィライトは目を輝かせ、ボルスはあきれていた。

こんなを作るなんて……。よほど、この町の人間達はセイに謝してるのだろう。

「この元村は、砂蟲《サンドワーム》の被害をけ死にゆく定めでした。そこへ聖さまがお仲間を連れて現れ、我らに無償で治癒を授けてくれたのです」

実際には作ったばかりのポーションの実験だったのだが、そんなことはセイしか知らない。

セイの偉業を次々と口にしていく。村人を治し、死者を蘇生させ、町を再生したと。

「そ、そこまでやってくれたんか、あの嬢ちゃん……すげえ……」

「ええ、ええ。しかも無償でございます！　我らが対価として、魔銀《ミスリル》鉱山の採掘権をお渡ししようとしたのですが……」

「なっ！？　魔銀だって！？　そんな高価なもんが取れるのかここ！？」

「ええ。この人外魔境《スタンピード》の地には、いくつもの魔銀鉱山があります」

「まじか……採掘権をもらわないなんて、あの嬢ちゃん何考えてるんだ……？」

フィライトはやれやれ、とあきれたように首を振るった。

ボルスはまたか……とこちらもまたあきれたようにため息をつく。

「聖さまのほどこしは無償の。お金など無用ということですわ。はぁ～……すばらしい♡　これだけの偉業をなさったうえで、しかも対価を求めない……まさに無償の！」

実際にはこれ以上長居すると、またいろいろ頼まれて面倒だ、という無償のもへったくれもない理由で出て行っただけだ……。

魔銀の採掘権についても、聞く前に出て行っただけである。

「そして我らに激勵を與えてくださり、さってゆきました……。その後、聖さまの聖なる力をけた我らは、この通りすっかり元気になりまして！」

「で、このご立派な町をあんたらが作ったって訳か」

セイが彼らに與えたのは通常のポーションだった。しかしただのポーションでも、並の錬金師が作るものより遙かに高品質な。

セイのポーションは彼らの細胞を活化させた。おかげで、うちにめた潛在能力すらも開花。この村の全員が、才能を開花させ、結果このような立派な都市を作り上げることに功したのだ。

「この都市は【聖都市】として、この人外魔境《スタンピード》の地を訪れた人たちに、無償で施しを與える都市として、この先も運営していこうと思います！」

それを可能にするだけの人材が、この都市には集まってると言うことだ。

全員がセイの出來立てポーションを飲んで、英雄レベルにまで、潛在能力を引き上げられた英雄たち。

「素晴らしい……聖街道に聖都市！　これほどのものを作り上げるなんて……聖さまはやはり素晴らしいですわー！」

フィライトのなかで聖セイの評価は、天上に屆くレベルでガンガンと上がっていくのだった。