セイがエルフ國アネモスギーヴの王都へ向かう一方そこの頃。

Ｓランク冒険者フィライト、そして人の冒険者ボルスは人外魔境《スタンピード》の地をようやく抜けた。

人外魔境《スタンピード》を渡り終えた後、一緒にパーティを組んでいた仲間と別れ、フィライトたちは南へと向かう。

その道中での出來事だ。

「フィライト。ちょっと休憩しようぜ。さすがに馬も疲れてるしよぉ」

「そうですわね。どこかで休める場所はないかしら？」

「旅人の話じゃよぉ……エルフ國は今やべえ狀況らしいぜ」

人外魔境《スタンピード》の地へる前に、あらかじめ報を仕れておいたのだ。

「なんでも國中で謎の病気が流行ってるって話だ」

「謎の病気……ですの？」

「ああ。肺やをやるやつが多いらしい。あと水とかが飲めないくらいに汚染されてるってよぉ」

「まあ……」

ボルスは警告する。

「聖さまを探したいっていっても、命あっての種だからよぉ？　ひきかえ……」

「聖さまは素晴らしいですわ！」

は？　とボルスが目を點にする一方で、フィライトは続ける。

「これでセイ様がエルフ國アネモスギーヴに向かう機がわかりましたわね！　窮地のエルフ國を助けるために向かわれたと……！」

フィライトはセイ信者なので、彼のすることなすことをすべて、好意的に捉えるのだ。

「こうしてはいられないですわ！　我々も早急にエルフ國へ向かいますわよ！　そこには大勢の困ってる人たちがいるはず！　わたくしたちも冒険者として、聖さまのように、人の役に立つ活をするべきなのです……！」

「いやぁ……やめておいたほうがよくねえか……？」

セイたちとちがって、フィライト一行は謎の病気に対する防衛手段を持ち合わせていない。

行ったところで、病気になってダウンする未來しか見えなかった。

それでもフィライトのセイに対するリスペクト、およびセイに會いたいという気持ちは強かった。

結局フィライトに押し切られる形で、エルフ國へと國した、のだが……。

「こいつぁ……いったいどうなってやがるんだぁ？」

エルフ國には緑かな大森林が広がっていた。空気がよどんでいることもなければ、道中立ち寄った湖の水が汚染されてることもなかった。

「前評判と隨分とちげえじゃねえか、どうなってやがんだ……？」

清らかなる湖のほとりで、休憩を取ってるボルス達。

そこへ……。

「おや、旅人さんですか？」

エルフのが湖の水を汲みに、やってきたのだ。

彼はララと名乗った。

「ああ、ララちゃん。おれらは旅をしてるんだが、ちょっと聞いていた話とちがくてよぉ」

「ああ、なるほど……それは聖さまが來る前の國の様子ですね」

「聖さまですってぇえ……！」

セイたちがエルフ國に向かったので、いつかは彼と流を持った住民と會えるだろうとは思っていた。

だが、まさかってすぐにセイを知る人と會えるとは……。

「ええ。聖さまは我らの村をお救いになられ、風のように去って行かれました！　この湖も昔は汚泥のようだったのに、聖さまの一瞬できれいに浄化なさったのです！」

「やはり聖さまの力は素晴らしいですわ－！」

セイを盲目的に信じているフィライトとは異なり、ボルスは素樸な疑問を口にする。

「しかしよぉ、なんで聖さまは先にララちゃんたちの村にいかなかったんだ？　村人から頼まれて浄化ならわかるんだけどよぉ」

「フッ……やれやれ。そんなこともわかりませんの？」

「あ？　なんだよ。おめーにはわかるのかフィライト？」

「ええ、もちろん。聖さまのことなら何でもわかりますわ！」

今のところ彼の考察が當たっていたことは一度たりともない。

だがセイの真意を知るものはこの場に誰もいない。

「聖さまともなれば、人に聞かずとも異変に気づけるものですのよ！　だってエルフ國が國全域で病気が流行ってることも、ここへ來る前から知っていたのだし！」

全くの見當外れであった。セイがこの國を訪れたのは観目的(いちおうゼニスの母親探しも兼ねてる)で、この湖に先に寄ったのは、水浴びがしたかったから。

「セイ様はきっと困ってる人の聲を聞く特別な耳をお持ちなのですわ！　はぁ～……♡　すばらしい……すてき……♡」

言うまでもなくそんなものはない。

単に行く先々でトラブルに巻き込まれているだけだった。

「旅人様もそう思いますよね！　聖さまはすごいお方なんです！」

「ええー……同調してるよこの子……」

ララは自分の村を救ってくれた、聖のエピソードを語る。

その素晴らしさにフィライトが、の涙を流していたそのときだ。

ぞく……！　とフィライトの背筋に悪寒が走った。それはボルスも同様だったらしい。

ふたりがララの前に立って武を手に取る。

「ど、どうしたんですかふたりとも……？」

「やべえやつがこちらに來る……かなりの、やり手だ」

茂みをかき分けて現れたのは、金髪で、長の騎士だった。

白銀の鎧に白いマント、そして首からは杖にまとわりつく蛇のペンダント……。

「！　て、天導教會《てんどうきょうかい》の聖騎士じゃねえか！」

そう……セイが出會って助けたこの人は、この世界の【治癒】を司る巨大宗教組織【天導教會《てんどうきょうかい》】。

その組織の一部、聖騎士だったのだ。

「なんで天導の聖騎士がここにいやがんだよ……！」

ボルスは現れた聖騎士に対して、敵意を向ける。それはしょうがないことだ。

基本、天導教會《てんどうきょうかい》は人間に優しい。だがそれは、組織に屬する人間に限った話だ。

通常の聖騎士達は信者しか守られない。あとの人間はどうでもいいと切り捨てる。

自由がモットーの冒険者と、組織と信者の安寧のみを優先させる聖騎士とでは馬が合わないのだ。

とまあ冒険者からすれば評判のよろしくない聖騎士だが……。

それとはまた別に、フィライト達が警戒する理由も存在する。

それはひとえに……聖騎士が強いからだ。

天導教會《てんどうきょうかい》に所屬する聖騎士達は、聖なる力の加護をけているためか、通常の冒険者より遙かに強いのである。

今も金髪の騎士からは異質なオーラが漂ってくる。木々がざわめき、湖面の水が振している。

「なん、ですの……あなたは」

すると金髪の騎士は口を開く。

「……すまない。人を探しているんだ。危害を加えるつもりはない」

聖騎士がオーラを引っ込める。まだ完全に警戒を解くわけにはいかないが、いちおう戦う意思はなさそうだ。

フィライト達もさっきよりも警戒レベルをしだけ下げる。

「人捜し……ですの？」

「……ああ。黒い髪で、ものすごいポーションを使うんだ」

「！　それって……」

フィライト達の脳裏にセイの姿が映る。

すぐさま彼の名前を口にしそうになって、とめた。

フィライトもバカではない。相手は天導の聖騎士なのだ。

彼らは組織の人間と信者のみを第一優先する。

セイは天導に所屬しない聖だ。となれば、協會側が敵視しているかもしれない。

聖の奇跡は天導が獨占するものなので、セイの存在は許されない、という理屈だ。

「その方を探して、何をするつもりなのですか……？」

事と次第によっては、ここで剣をえるつもりだったのだが……。

「……好きに、なってしまったのだ」

「「は……？」」

あきれかえるフィライト達。

一方で金髪の騎士が頬を赤らめながら言う。

「……おれはあのお方のことをいっとう好きになってしまったのだ。強く、優しく、かっこいい……まるで聖母のようだ。おれは彼をしてしまったのだ……！」

はぁ……とあきれかえるフィライト。

もしそれが本當だとしたら、天導に所屬しない聖、つまりはターゲットであるセイを好きになったことになる。

「……おれはあの人を探し出して、を告げたい……！　だから探してるのだ……！」

「そ、そっか……ちなみにあんた、どうするんだ。その人探して、自分の子を産んでしいとか言うのか？」

「……それは無理だ。おれはだ」

「はぁっ！？　お、ぁ……！？」

確かに中的な顔つき、そして聲をしている。

線は細く、なるほどと言われると納得のいくビジュアルをしていた。

「お、おまえの探してるやつはなんだろ？」

「……ああ。だがに別は関係ない。おれは彼に出會って理解したんだ。本當にするこの気持ちに、男もも関係ないと……！」

よくわかった。やべえやつだ。ボルスは思う。あまり近づかない方がいいなと。

「おいフィライト。さっさと離れようぜ……」

しかし……。

「わかります！　わかりますわ！」

「ええー……まさかの同調してる……」

フィライトもまたセイを敬してるため、そこにシンパシーを覚えたのだろう。

「貴、よろしければわたくしたちとともにあの方を追いませんこと？」

「……いいのか？」

「もちろん！」

……こうしてボルス一向に新たなる旅の仲間が加わったのだった。

「ちなみに、あんた名前は？」

「……おれか？　おれはウフコック。聖騎士のウフコックだ。よろしく」