私ことセイ・ファートは気ままに旅する錬金師。

奴隷ちゃんズのひとり、エルフのゼニスちゃんの故郷へとやってきた。

が、そこで私利私のため弱者を利用、無理矢理働かせるくそオブくそのエルフの王こと、森の王につかまってしまう。

私は獄し、このゴミ……もとい、森の王に制裁をくわえ……もとい、説得することにした。

「おねえちゃん！」「主殿！」「……セイ様！　無事でしたか！」

奴隷ちゃんズは離れた場所の地下牢に収監されていた。

わっ！　とみんなが私に抱きついてくる。

「ぶじでよかったのですぅ～……」

「それはこっちの臺詞よダフネちゃん。良かったみんな無事で」

獄した私は地下牢を歩き、こうして彼たちの居場所を探しあてたのだ。

「しかしよく我らの居場所がわかりましたな。この牢屋かなり広いでござろうに」

「魔道を使ったのよ」

「ふむ？　しかし捕まったときに我らの荷は沒収されたような？　いつのまに魔道を取り返したのでござるか？」

「ああ、違う違う。即興で作ったのよ」

目玉のついた羽蟲みたいなが、私の周りを飛び回っている。

「こ、これはなんでござるか？」

「名付けて【トローン】。魔力を込めれば自でいて、周辺の探索をおこない、目當てのを見つけると場所を教えてくれるの」

「おお！　なんだかよくわからぬが、すごいでござる！」

なんだかよくわからなくても褒めてくれる、トーカちゃんが好きよ私。

ゼニスちゃんが目を剝いてる。

「……す、すごい。これがあればダンジョン探索も容易になるでしょうし、周囲を警戒させて不意打ちを防ぐことができる。なんてすごい魔道」

ゼニスちゃんはやっぱり頭がいいわねぇ。かしこかわよ。

「……魔道をかす魔核はどうしたのですか？」

「え、そんなの大気中の微粒子瘴気を集めれば作れるでしょ？　そこらにあるんだし」

「…………」

「あれ？　どうしたの、ゼニスちゃん？　そんなあんぐり口を開いちゃって」

「……いえ。そんなことができるのは、セイ様くらいだと心しまして」

まあ何はともあれ奴隷ちゃんズが無事で良かった。

「マスター。私も捕らわれておりましたが？　以上」

「あんたは死なないでしょうが……可いこの子達と違って」

さて、と私は気を取り直して彼たちに言う。

「みんなはシェルジュと一緒に、ちーちゃんと合流して、外に出てちょうだい」

私の竜車とそれを引く地竜のちーちゃんもこの城のどこかにいる。

荷はまあなんとかなるが、ちーちゃんは掛け替えのない旅のお供のひとりだ。

「はいなのです！　だふねがちーちゃんの鳴き聲をたどって、見つけるです！」

「おおさすがラビ族。耳がいいわね。で、みんなで外出たら、ゼニスちゃん、魔法で合図して」

ゼニスちゃんは師匠の工房で、魔法を伝授したので、ある程度の呪文は使える。

「……セイ様は？」

自分たちを逃がしておいて、一人だけの殘ろうとしている私に、ゼニスちゃんが不安そうな顔をしている。

あー……優しい子ねえ。

「大丈夫。あなたたちを逃がすために、犠牲になるとか、そーゆーかっこいいあれじゃないから」

え？　とゼニスちゃんが本気で驚いていた。まあそう考えるのよねえ、この子優しいからさ。

「……で、では何を？」

「んー……そうねえ、ま、簡単に言うならそう……」

ゼニスちゃんと目が合って、ぱっと言葉が思い浮かんだ。

にっ、と私が笑って答える。

「クーデターよ！」

★

さてゼニスちゃんが逃げる隙をどうやって作るか。

ちょっと考えて私は作戦実行に移る。

「こんにちは、そこの捕まってる囚人さん」

「だ、誰だね君は……」

そう、ここは地下牢。罪人の捕らえられる場所だ。

私たちだけが捕まってるわけじゃない。他にも同様に、何らかの罪を犯したひとたちがっていた。

「旅の錬金師よ」

「はあ……」

近くの牢屋の中にっていたのは、結構ダンディなエルフさんだった。

りりしい顔つきと知の宿った瞳からは、とてもじゃないが犯罪者だとは思えなかった。

ま、今は誰がどんな罪をおかそうがどーでもいい。

「ちょっと手伝ってくれるかしら？　ここから獄を考えてるの」

「だ、獄！？　無理だ、この牢屋は神威鉄《オリハルコン》で出てきており、抜け出すことなど……」

私は鉄格子に手を置いて、錬金を発させる。

するとぐんにゃり、と格子が曲がって人一人通れるようなが開いた。

「…………」

「協力してほしいんだ。ここから安全に抜け出すためには、人手が居るの。もちろん一生ここにいたいっていうなら、別にいいけど」

犯罪者を外に出すのって大丈夫なの？　って思ったけどそもそもの犯罪者が玉座に著いてる時點で、良心の呵責なんてものは起きやしない。

私がしたいのは場で混を起こすことだからね。

騒ぎに乗じて私の大事な奴隷ちゃんたちを外に逃がすのが目的なの。

すると捕まっていたダンディエルフさんが、「なるほど……」と何かに納得していた。

「微力ながら、協力させていただきます」

「助かるわ。ええとあなた……」

「ロビンです」

「ロビンさん。このポーション使って、他に捕らわれてる人たちを逃がしてあげてちょうだい」

シェルジュにストックさせてあった、ポーション瓶のひとつを、ロビンさんに渡す。

「これは何かな？」

「溶よ。どこにでもある」

「溶……何かを溶かして作るときの、かな」

「そうそう。これをちょろっとかけると……」

さっきロビンさんが出てきた牢屋の鉄格子に、溶をかける。

どろっどろに格子がとけて何もなくなった。あとには水たまりだけが殘る。

「ね？」

「マスター、完全にドン引きしてます。以上」

「え、ええ！？　なんで！？　ただの溶じゃない！」

「どう見ても溶解毒です。以上」

魔法ポーションを作る際には、いろんな素材を溶かす必要がある。

この特殊な溶には、あらゆるを溶かす効果があるのだ。

ようは魔法ポーションを作るときの大事な薬の一つ。

それを溶解毒ですって？　失禮しちゃうわ。

「す、すごい……神威鉄《オリハルコン》をも溶かす、魔法の水だ」

「魔法でも何でもなくて、錬金だけどね。このメイドにたくさん溶もたせてるから、捕まってる人たちをこれで解放してあげて」

「承知した。ありがとう、しき救世主どの」

聖の次は救世主ときたか……。

私錬金師なんだけどね。

「それじゃなるはやでよろしく。私は次の仕込みしとくから、ここは任せた……！　アデュー！」

私は奴隷ちゃんズをシェルジュとロビンさんに任せて、その場をあとにしたのだった。