《ひねくれ領主の幸福譚 格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】》第430話 共闘立
ベトゥミア共和國首都の北部街區。政府各機関の庁舎や、要人の屋敷が立ち並ぶ地域。その一角にあるフォスター家本家の屋敷で、夜間に小さな騒が発生した。
時刻は夕食時もとうに過ぎた夜更け。既に死んだ両親の跡を継いでこの屋敷の主となっているアイリーンは、この日は久しぶりに早く帰宅し、ゆっくりと夕食をとり、自由な時間を過ごしていた。
そんな中で、ばたばたと慌ただしい足音が私室に近づき、ドアが強くノックされる。
「アイリーン様、失禮いたします」
「れ……どうしたのだ、それほど慌てて」
屋敷の警備を務めるフォスター家の私兵が、やや焦った表をしているのを見て、アイリーンは訝しげに尋ねた。
「そ、それが、アイリーン様のご友人を名乗る方が來訪されておりまして」
「友人?」
「はい。ジョセフという方で、アイリーン様の士學校時代の友人だったと名乗っておいでです。遠方の移住先から一時帰國しており、訪ねられたと……そのように伝えてもらえれば分かると、仰っておりましたが」
それを聞いたアイリーンは表を変えず、しかし心では強い喜びを覚えた。
士學校時代の友人で、今は遠方の國に住むジョセフ。アイリーンが弟と叔父を使ってロードベルク王國に伝えた報への返事を屆ける遣いに、名乗らせるよう頼んでおいた肩書だ。
このように名乗る者が屋敷にやって來たということは、ノーマンとジョージは無事にロードベルク王國へと辿り著き、現ベトゥミア政府による再侵攻計畫とアイリーンのクーデター計畫の報を伝えることができたということ。
「そうか。それは確かに友人で間違いない。応接室へ案……いや、私が自分で出迎えよう」
アイリーンは立ち上がり、報告に來た警備兵と共に玄関へ向かう。
そこにはアイリーンの古い友人――というでやって來た、當然ながら初対面の男が立っていた。歳のほどはアイリーンと同じ四十代前半。士學校出という設定もあるためか、小綺麗な格好をしている。佇まいを見ても、ロードベルク王國においてそれなりの立場の人、おそらく爵位持ちだと分かる。
「ジョセフ、よく來たな。元気そうでよかった」
「ああ、アイリーン。懐かしいな。君も元気そうで何よりだ」
互いに昔馴染みの友人であるかのように、二人は振る舞う。笑顔で握手をわし、肩を叩き合う。
「ははは、こうやって肩を叩き合うと、士學校時代を思い出す。お前は騎乗が下手で、私が何度も教えてやったな」
「そういう君は史學が苦手だったな。詰め込みの試験勉強に何度付き合ってやったことか……」
彼の返答を確認し、アイリーンは彼がロードベルク王國からの遣いであることを確信した。
騎乗と史學を教え合った。その作り話の思い出が、確認のための合言葉だ。
「ほら、早く警戒を解いてやれ。客人に失禮だろう」
そして、アイリーンはジョセフと名乗る遣いを囲む警備兵たちに言った。玄関先で、ジョセフは四人もの警備兵に囲まれていた。
「はっ。失禮いたしました。夜間の來訪者だったため、念をれて警戒すべきかと思いまして……お客様にも、心よりお詫び申し上げます」
「気にしないでくれ。彼の今の立場は私も聞いている。夜分に急に訪問した私も悪かった」
夜間の警備責任者である、アイリーンを呼びに來た兵士が、整った敬禮を見せながら謝罪の言葉を口にする。ジョセフを名乗る遣いはそれを快く許した。
フォスター家の警備は厳重だ。それはアイリーンが表向きは富國派の忠実な犬として、庶民層による暴の鎮圧などを行ってきたことが影響している。
富國派による世論導が功した今でこそ沈靜化したが、富國派への反発が大きかった過去には、この屋敷の敷地に石や小の死などが投げ込まれたこともあった。不法侵者が発生したことも一度や二度ではない。
ジョセフと名乗る遣いへの対応は、フォスター家としてはむしろできる限り丁寧なもの。これも、彼がアイリーンの友人を名乗ったからこそだ。
「さあジョセフ、ってくれ。夜も遅いが、お前が疲れていなかったらし話そう。とりあえず応接室へ。その間に客室の準備をさせる」
「分かった。それじゃあ、そうさせてもらおう」
アイリーンに招きれられ、遣いは屋敷の中へと足を踏みれる。
・・・・・
「……さて、ようやく本來の立場で挨拶ができるな」
ジョセフと名乗る遣いを応接室にらせ、メイドが酒を運びれて退室した後。クーデター計畫を知る側近たちに応接室と扉の外を守らせたアイリーンは、ソファーにどかりと座って遣いの方を見た。
「お初にお目にかかります。ロードベルク王國貴族のヴィゴ・ブルーム男爵です。ロードベルク王家に直接仕え、主に外務を擔當しております……私の立場を証明し、王國の要求を示すものとして、まずはこちらを」
古い友人を演じていた先ほどまでとは打って変わって真剣な表を見せる遣い――ブルーム男爵は、巻狀にまとめられた書簡を取り出す。
書簡に施された封蝋は、アイリーンも見たことのあるロードベルク王家のもので間違いない。これが確かに王家の用意したものであることを確認した上で、アイリーンは封蝋を割り、書簡を開く。
容に目を通し、顔を上げてブルーム男爵を見た。
「なるほど、卿の分が確かなものであることは分かった。そしてロードベルク王國としての意思も……貴國はこちらの提案に乗ってくれるか」
「はっ。我が國としても、ベトゥミア共和國――現在のベトゥミア政府とその軍には大きな因縁があります。政変の起こった貴國と國を回復させるとしても、その前に舊政権への復讐を果たしたいものも多い。そもそも、ベトゥミアの再侵攻が決定事項である以上、フォスター將軍閣下のご提案に乗るのが我が國にとって唯一かつ最大の利益を得られる選択肢。國王陛下はそのように判斷されました」
穏やかな表で答えたブルーム男爵の目が、そこで鋭くなる。
「ですが、戦後の捕虜返還と國回復にあたっては、そちらの親書に記された我が國の要求をけれていただく。これは絶対的なものであり、渉の余地はありません」
男爵に言われ、アイリーンは再び書簡に視線を落とした。
二萬人とも三萬人とも言われる、ベトゥミア共和國へと連行されたロードベルク王國人奴隷の返還。これには連行後にベトゥミア共和國で生まれた二世奴隷も含まれる。
そして、二百四十億レブロ相當の、貨幣もしくは金、銀による賠償。
これはベトゥミア共和國が推定するロードベルク王家の歳の、およそ三年分の金額だ。あちら側もこんな額を一度にけ取っては困るのか、五か年かけての分割払いを指定している。
それでも、ロードベルク王家からすれば一年に使える予算が五割以上増えることになる。前回の侵攻による被害も含めた王國南部の復興、返還された王國民たちの生活再建の支援、ベトゥミア共和國との國回復を見據えた港の整備や防衛力のさらなる強化。各分野に金を注ぎ込みたいだけ注ぎ込めるようになるだろう。
「……いいだろう。政変の後に政権を握ることとなる國民派議員たちと話し合って決めなければならないが、この條件ならば十分にけれられるはずだ。一週間以に、貴國の要求を全面的にけれると正式な返答を用意しよう。政変後の首相となる國民派議員の代表と、私の連名でな」
「謝します、閣下。我が主君もお喜びになることと存じます」
アイリーンは氷の浮かんだ蒸留酒のグラスを傾け、ブルーム男爵にも勧める。本題を話し終えたブルーム男爵は、安堵した表で蒸留酒に口をつけた。
「……ところで、卿はこちらの返答を屆けにロードベルク王國へと帰るのだろう?」
「はい。今は三月ですので……五月中にはロードベルク王國の王都リヒトハーゲンへと帰還し、我が主君にご返答をお屆けする所存です」
話題を振られたブルーム男爵は、グラスを置きながら答える。
「そうか。帰路はどのような道のりで?」
「まずはデラール人の奴隷運搬船に金を払って同乗させてもらい、ポーラー共和國へ。そこからどこかの商船に同乗してハルマー王國、ベンダム王國を経由して帰ろうかと考えております」
ブルーム男爵が挙げたデラール人は、ベトゥミア共和國の東に位置する地域の民。ポーラー共和國とハルマー王國はロードベルク王國のあるアドレオン大陸の南東に位置する島國。ベンダム王國はパラス皇國の東側にある小國の名だ。
デラール人も一応は遠洋航海の技を持つが、ベトゥミア共和國から見るとやや未で危なっかしい。また、ポーラー共和國とハルマー王國の二國を経由するのは、デラール人とハルマー王國の仲が悪く、両者を直接繋ぐ船がないためだろう。
「その道のりだと時間もかかるし、無事に帰れる確率は九割あるかどうかといったところだろう。ベトゥミア共和國の國民派の議員が有する商船の中に、ハルマー王國まで直接向かう便がある。それに乗れるよう私から手を回してやる。九割九分は安全に帰れるはずだし、早ければ四月のうちにロードベルク王國へとたどり著けるはずだ」
「それは……願ってもないお話です。ご厚意に謝いたします」
「気にしないでくれ。こちらとしても、卿には生きて返答を屆けてもらわなければ困るからな」
喜を見せるブルーム男爵に、アイリーンはそう答えた。
それから十日後。アイリーンと國民派議員代表の連名での書簡を預かったブルーム男爵は、アイリーンの手配した帰路についた。
ブルーム男爵の運んだ書簡による返答をもって、ロードベルク王國とベトゥミア共和國國民派の共闘が正式に立した。
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