鬼姫《きき》が家に帰ると『座敷子』が彼の前に現れた。

おそらく、鬼姫《きき》の気配を察知したからだろう。

山本《やまもと》　雅人《まさと》の部屋で対峙《たいじ》した二人はしばらくその場からかなかった。

「ロリ！　おかっぱ！　こけし！」

「ツンデレ！　がさつ！　鬼！」

二人がお互いの悪口を言っていると、雅人《まさと》の妹である夏樹《なつき》が姿を現した。

「二人とも、どうしたの？　ケンカ？」

彼がキョトンとしていると、鬼姫《きき》は彼を人質にした。

「かないで！　もし、妙なことをしようとしたら、この子の首を切り裂くわよ！」

「なっ！　ひ、卑怯者！　あなたは相変わらず、悪意の塊《かたまり》のような鬼ですね！」

鬼姫《きき》はニヤリと笑う。

「あー！　気持ちいいー！　あたしにとっては、そんなの褒め言葉だわー！」

「あ、あなたに心はないのですか！」

座敷子は必死に彼を威嚇《いかく》するが、彼は全《まった》く相手にしていない。

その時、夏樹《なつき》が彼の（今は雅人《まさと》の）急所を蹴《け》った。

「あ……わ……忘れてた。今、あたしには、あるんだった」

鬼姫《きき》が膝《ひざ》から倒れる前に夏樹《なつき》は彼の襟首を摑《つか》んだ。

「お兄ちゃんを返して……」

「い……今はちょっと……」

夏樹《なつき》は黒い長髪で彼を拘束すると、彼に顔を近づけた。

「もう一度だけ言うよ。お兄ちゃんを返して」

「あ……はい……分かり……ました」

その直後、彼は気を失った。

「おっ、どうやら戻ってこられたようだな……って、なんかに、とてつもないダメージが」

「お兄ちゃん！！」

夏樹《なつき》は彼に抱きつくと、いつもよりきつく抱きしめた。

「お、おい、夏樹《なつき》。今はちょっとタンマ」

座敷子は二人の邪魔をしないように、靜かにその場からいなくなった。