【兄レオン視點】

「ああっ……まさか、そんな……カル殿が亡くなってしまったなんて！」

システィーナ王は、カルの品として差し出された上著を前にして泣き崩れた。

俺の飛竜アレクサンダーが、例の無人島で拾ってきたボロ布だ。竜の爪に引き裂かれたようで原型を留めておらず、痕も付著していた。

まず確実に、カルは竜に襲われて死んだな。

ちっ、もし生き殘っていたら、俺の古竜退治に協力させようと思っていたのに。使えねぇ野郎だぜ。

「王殿下、殘念な結果となりましたが。竜と戦って敗れたのなら、カルは名譽の戦死というものです。何も悲しむことはありません」

俺はシスティーナ王にめの聲をかけた。

「それよりも、気晴らしに今日はこれから俺と演劇鑑賞など、いかがでしょうか？　俺のご先祖様カイン・ヴァルムの英雄譚です！」

を落とすには神的に弱ったタイミングこそ狙い目だ。

今日こそ、王との初デートを決めてやるぜ。ヒャッハー！

俺は取りあえず古竜退治の難題は棚上げして、楽しむことにした。視線は王の巨にロックオンだ。

「それは良い！　いかがでしょうか王殿下、ぜひとも我が息子レオンとの縁談を前向きに検討していただきたく。古竜討伐に功したあかつきには、外に婚約発表を……」

システィーナ王は父上のセリフを手で遮った。

そして泣き腫らした目で、俺たちを睨みつける。

「……わたくし、やっと理解しましたわ。このを引き裂かれるような。カル殿を想うと、が締め付けられて息もできないようなこの気持ちは……だったのですね」

「はぁ……っ？」

な、何を言っているんだ、このお姫様は？

俺と父上は揃ってあ然とした。

「ヴァルム侯爵ザファル殿。殘念ですが、レオン殿との婚約の話は、破棄させていただきます。

わたくしのするカル殿を、無慘にも古竜の巣食う無人島に置き去りにしたヴァルム家との縁談など、金際お斷りですわ！」

「なっ！？　し、しかし、それでは王殿下……！？」

「お黙りなさい！　もし王家と婚姻関係を結びたいとおっしゃるなら、カル殿を連れて來なさい。カル殿となら、わたくしは喜んで婚約いたしますわ！」

システィーナ王は怒り心頭で、テーブルを叩いた。

「何が名譽の戦死ですか！？　気晴らしに演劇鑑賞？　あなた方はとんだ冷漢です。恥を知りなさい！」

や、やべぇ。完全に的になってやがるぞ。

それにしても、この俺がせっかくデートにってやったのに、カルにしましたとはこのクソ姫、どういう了見だ？

この俺より、カルの方が男として優れているとでも言いたいのか？

「王殿下、しかしカルは呪い持ちの出來損ないで……もし婚約などしたら王家に呪いが移ります！　俺の方が、王殿下の夫によっぽどふさわしいと思いませんか？」

腹が立つが、ここはなんとかなだめねぇとヴァルム家の面目は丸潰れだ。

俺は渾の口説き文句をかけた。

「あなたが……？　ご冗談でしょう！　わたくしのカル殿を悪し様に言うなんて、許せませんわ。わたくしを救ってくれた彼こそ、真の勇者です！」

だが、システィーナ王は怒りに拍車をかけた。

「不愉快です。わたくしは帰ります！」

「お待ち下さい。我が息子、レオンは必ずや古竜を討伐してみせます！」

父上は慌てて、王を引き留めた。

「そのあかつきには、レオンとの縁談を、なにとぞ、なにとぞ、ご再考いただきたく！　聖竜王の脅威がある現在、ヴァルム家は王國にとって必要不可欠な存在のハズです」

「……そ、それは確かにそうですが」

システィーナ王はいくぶんか、冷靜になったようだ。

それは、そうだ。一、誰のおかげでこの王國が保っていると思ってやがる。この俺様の、ヴァルム家の活躍のおかげだぞ。

「わかりましたわ。では、もしレオン殿が古竜討伐に失敗したら、その時は、正式に婚約を破棄させていただきます。よろしいですわね？」

「ありがたき幸せ！　聞いたなレオン。必ずや古竜討伐を功させるのだぞ」

「はっ……！」

威勢良く返事をしながらも、俺は胃にが空きそうだった。

目を逸らしていた難題が、重くのしかかってきた。

カルのバフ魔法が無くなった今、俺はもう以前のような力を発揮することができねぇ。

だが、今さらできませんなどとは、口が裂けても言えなかった。そんなことをしたら、王との婚約破棄どころか、ヴァルム家そのものがおしまいだ。

「……期待しておりますわよ。レオン殿」

システィーナ王が蔑んだ笑みを投げてくる。

「お父上にここまで大見得を切らせて、失敗するなどということは、萬が一にも有りえませんわよね？」

「はっ、も、もちろんです！」

こ、この、俺が失敗すると思っているな……

準備期間として與えられた殘り12日あまりで、なんとか古竜を倒せる算段をつけねぇと……お、俺は破滅だ。

俺は心、頭を抱えた。

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