貓耳族の村に向かうと、ミーナが手を振りながら抱き著いてきた。

「カル様！　見てくださいにゃ！　みんなの新しい家が建てられましたにゃ！」

「えっ、もう？」

まだ、古竜ブロキスとの戦いから２日ほどしか経っていなかった。

「カル様の筋力バフ魔法のおかげですにゃ。パワー倍増ですごい勢いで作業がはかどって、今は宴會の真っ最中にゃ！」

その言葉通り、丸太を組みあせて作った真新しい小屋がいくつも並んでいた。

貓耳族たちは村の中央に集まって、どんちゃん騒ぎをしている。

「うわっ、この鹿、信じられないくらい、おいしいのにゃあ！」

「うまい！　うまい！　死んだバアさんにも食わせてやりたかったにゃ！」

「ほれほれ、ドンドン焼くぞ。おぬしたち、遠慮なく食すが良いのじゃ！」

「うぉおおお！　冥竜王様、最高ですにゃ！」

アルティナが串刺しにした鹿を豪快に焚き火で、あぶっていた。

しかも、調味料として振りかけているのは古竜ブロキスがドロップした【古竜の霊薬】だ。

アルティナから貓耳族をパワーアップさせたいので、【古竜の霊薬】を使わせてしいと頼まれて、快く渡していた。

そう言えばこれは、どんな効果があるのだろう？

「はぁあああああああ──ッ！　力が力がみなぎってきたニャアアアンッ！」

を食べた貓耳族の男が雄びを上げる。筋が盛り上がり、全から発的な魔力が立ち昇った。さらに髪が黃金に輝く。

「な、何これ、どうなっているの……？」

「カル様にゃぁあああ！」

貓耳娘たちが僕に群がってハグしてきた。このハグは、どうやら貓耳族のによる親のあいさつらしい。

しかも、彼たちは全員が、昨日會った時よりも格段にしくなっていた。

この魔めいたしさはアルティナに近い。

というか、顔が近いぃいいい。うわっ、が當たって……！

「ええい。おぬしら、さかるのはやめるのじゃ！　カルよ、王との會談は終わったのじゃな？」

アルティナがやってきて、貓耳たちを僕から引き剝がした。

毎回、こんなあいさつをされるとが保たないな。

「う、うん。それで一、貓耳族たちは、どうしちゃったの……？」

「うむ！　【古竜の霊薬】を口にした者には、竜の力が宿る。生として、ワンランク上の存在に進化するのじゃ」

アルティナが誇らしげに解説した。

「貓耳族は、貓耳族を超えた存在【ウェアタイガー】となったのじゃ！　これなら、人間や竜が襲ってきても、十分に戦えるぞ！」

「おおっ！　アルティナ様、ばんにゃーい！」

「もう何も怖くないにゃ！　人間の軍隊でも竜でもドンと來いにゃ！」

貓耳族はアルティナを神のごとく、褒めたたえる。

「カルには最も味しい部分を殘してあるのじゃ。これを食べれば、さらに魔力が強くなるぞ」

アルティナが細かく切って、【古竜の霊薬】を振ったを渡してくれた。

貓耳族が進化するなら、人間である僕はどうなるのだろう？

一瞬、不安になったけど、好奇心が勝った。なにより、魔力が強くなると聞いては無視できない。思い切って頬張る。

「うまぁぃいいい！？」

熱いを滴らせるが、脳髄を痺れさせるような旨味をもたらす。

さらにが熱くなり、魔力が発的に増大するのをじた。これはスゴイ……

「気にってもらえたようで何よりじゃ！　まだまだあるぞ。カルは宴會の主役なのじゃから、遠慮なく食べるが良いのじゃ！」

アルティナがうれしそうに、さらに焼いたを渡してくれる。

「貓耳族のみんなも魔力が大幅にパワーアップしているみたいだね。これなら魔法の習得もしやすそうだ」

「えっ！　もしかしてカル様はミーナたちに、魔法を教えていただけるのですかにゃ！？」

「すごいにゃ！　すごいにゃ！　この前のカル様みたいなことが、できるようになるのにゃ！」

貓耳族たちは興に目を輝かせている。

「そうだよ。ミーナたちを襲う外敵からを守れるようにね。

最初はごくごく簡単な風魔法【ウインド】からだね。これから一緒に修行していこう」

といっても、僕が使える魔法のレパートリーは多くない。僕自も、もっともっと魔法を極めていかないとね。

「はいにゃ！」

「カル様、さっそく教えてしいにゃ！　ミーナがカル様の一番弟子にゃ！」

「あたしもあたしも、カル様に教えてしいにゃ！」

「オイラにゃ！　オイラが先にゃ！」

貓耳族たちが一斉に、せがんでくる。みんなスゴイやる気だった。

「この村の繁栄のためにも、ぜひお願いあたしますにゃ。魔法が使えるようになるなど、我らにとっては夢みたいな話ですにゃ」

村長にも頭を下げられた。

「もちろんです。といっても僕は呪いで魔法の詠唱ができないので……ふつうの教え方ができません」

魔法詠唱は、発音が命だ。魔韻を正しく踏んだ呪文を発する必要がある。

詠唱をしようとすると聲が出なくなる僕では、呪文を教えるのがそもそも不可能だった。

家族を迎えに行っている竜騎士ローグか、アルティナに代わりにやってもらうのが、良いかも知れないけれど……

「そこで考えてみた伝授法があります。ミーナ、頭を出して」

「はいにゃ！」

ミーナがうれしそうに頭を差し出した。

読心魔法の使い方を逆転させて、僕の心の聲を、ミーナの頭に屆ける。

ミーナの脳で再生しているのは【ウインド】の魔法詠唱だ。

「あっ、あっ、カル様の聲が心に……これが魔法詠唱にゃ？」

「うん。これを心の中で正しく再生して、魔法式を組み上げるんだ。神を集中して……世界に干渉する覚を摑めるかい？」

「難しいのにゃ。こうにゃ？　こうにゃ？」

ミーナは僕の教えたやり方を必死に再現しようとする。

「魔法詠唱は正しくやらないと駄目だから、覚をに著けるまで毎日繰り返す必要があるね。焦らず気長にやっていこう」

「はいにゃ！　カル様、ご指導よろしくお願いしますにゃ！」

「あーっ！　ミーナばかり、カル様に頭をでてもらってズルいのにゃ！　あたしもあたしもでてもらいたいのにゃ！」

「私にも魔法を教えて下さいにゃ！　カル様に頭でで！　でっへぇ！」

「うわっ……ちょ、ちょっとキミたち！」

貓耳族のの子たちが、我も我もと押し寄せてきた。

やる気があるのは良いことだけど、なにか彼たちは、頭をでてもらうことを目的にしているような……

僕が頭に手をおくと、の子はみなうっとりとした上目遣いになる。

うーん。彼たちは、心にだいぶ雑念があるようだ。

無詠唱魔法の伝授は始めたばかりだし、試行錯誤しながら、気長にやっていくことにしよう。