「ぐぅっ！　敵はかなりの數だね。私はカル兄様の指示に従うよ！」

怒濤の勢いで、海原を引き裂いて海竜の軍団が迫ってくる。

先頭にいる島のような巨の多頭竜が、古竜か。

古竜と戦った経験が無かったら、圧倒されてしまったであろう威容だった。

「……よし、まずは取り巻きを倒そうと思う。これから、ヤツらを海面に飛び出させるから、シーダは魔法で撃ってしい。アルティナは力を溫存しておいて」

「うむ！」

「そんなことができるの！？」

シーダは呆気に取られた様子だった。

海竜たちは、空にいる僕たちを視界にれるために首を海上に出している狀態だ。ここからその首を魔法で狙っても、海中に潛られたら威力が散らされてしまう。

無論、アルティナの【黒炎のブレス】なら、ヤツらに大ダメージを與えられるだろうけど、大技は古竜対策に取っておきたかった。アルティナの魔力も無限ではないからね。

「ティルテュから學んだ【水流作】をさっそく試すのじゃな！　小娘、おぬしの兄は最強じゃから、安心して指示に従っておれ」

「冥竜王にそこまで信頼されるなんて、さすがはカル兄様！　わかった！　それじゃ、最大威力の範囲攻撃魔法をぶちかましてやるよ！」

シーダは目をつぶって詠唱にる。

僕は海竜たちの周囲の海水を、【水流作】で、僕たちに向けて強引に引き寄せた。

元々、海竜たちも同種の魔法で、海中を高速移していた。それがさらに加速したことで、彼らは勢い良く海面に飛び出すことになった。

「「グォオオオオン！？」」

僕が【水流作】を使えることを知らない海竜たちにとって、これは完全な不意打ちだった。魔法障壁も張らない無防備まま、空中に投げ出される。

「【炎の嵐】（フレア・ストーム）！」

シーダから灼熱の炎の旋風が放たれた。海竜たちを飲み込んだ炎は、大量の海水を瞬時に気化させて、水蒸気発を起こす。

スドォオオォーオオン！

慌てて飛竜アレキサンダーに後退を命じなければ、僕もその発の煽りをけていただろう。

予想より、シーダの魔法の腕は上がっていた。

「おおうっ！　さすがはカルの妹じゃな！　人間とは思えぬ見事な魔法じゃ」

「えへへっ！　私の得意屬は、火だからね。火竜だって焼き盡くしてやるよ！」

「……僕の妹ながら、恐ろしい」

人間の扱う魔法は、竜魔法の下位互換だ。だけどシーダの火魔法は、古竜にすら通用する域にあると思う。

「【ウインド】！」

僕はシーダが撃ちらした海竜を、収束させた風の刃でバラバラに切り刻んだ。

ヤツらを海中に逃がす訳にはいかない。

海竜が未だ混狀態にあったのも幸いした。連に優れた無詠唱魔法の利點を活用し、一匹殘らず片に変える。

「えぇええええっ！　な、何？　その連は！？」

「何って……基礎魔法【ウインド】だから、連しても負荷がかからないだけだよ」

「はぁ！？　い、今のが基礎魔法なの！？　海竜を切り刻んじゃってるけど……」

シーダは何か気圧された様子だった。

「小娘、この程度で驚いておってはが持たんぞ。カルの真骨頂は【竜魔法】にあるのじゃからな」

「りゅ、【竜魔法】って！　うっ、うーん。私の知っている魔法の常識と違い過ぎる！　そもそもカル兄様の得意屬って、風だっけ？」

そう言えば、僕は自分の得意屬を知らなかった。

なにしろ、呪いで詠唱を封じられていたせいで、魔法がマトモに使えなかったからね。本來は修行の過程で得意屬を知って、その系統の魔法をばしていくものだ。

「おぬしたち、戯れはそこまでじゃ。真打ち登場じゃぞ」

「ま、まさか……人魚族でも無い者が、海竜を超える【水流作】だと……！」

７つの首を持った多頭竜が、敵意を剝き出しにして迫ってきた。さすがにこの巨は、【水流作】で空に飛ばせない。

「だが、この古竜フォルネウスと、海で戦おうなどとは笑止千萬！　貴様の得意とする風の魔法などでは、我がを裂くことはできんぞ！」

「えっ……多分、僕の得意屬は風ではないような」

では、何かと問われると……わからない。多分、冥屬ではないと思う。

一度、アルティナの【黒炎のブレス】をマネして使ってみようと試したけど、うまくいかなかった。

冥屬の魔法は、先天的に冥屬が得意な者以外は修得できない。

「はっ？　では、水屬か！？　ハハハハハッ！　確かに見事な【水流作】だったが、なおさら貴様に勝ち目はないぞ！　真の海竜がる水の竜魔法の恐ろしさを、たっぷりと教えてやる！」

「それも違うような気が……」

人魚族の【水流作】は使えたけど、あまりしっくり來るような覚ではなかった。

いや、それよりも。

「もしかして、水の竜魔法を教えてくれるのか？　それは、とてもありがたい！」

不謹慎だけど、ぜひ、お願いしたいところだった。僕はもっともっと魔法を極めたい。

「えっ？　カル兄様、何を言って……」

「カルは前に古竜と戦った際に、雷の竜魔法を見て盜んでしまったのじゃ。一度、見聞きした魔法の式を、頭の中で完璧に再現できるようじゃな」

「……ごめん、カル兄様って人間なの？　天才過ぎて、何がなんだか」

妹は呆気にとられていた。

「もちろん人間だよ」

「魔法に関しては、人間を遙かに超越しておるのじゃ。古竜ごときでは、おそらく相手にはならぬのじゃ。この勢いで長すれば、いずれ竜王をも超えるじゃろうな」

「ぐっ！　人間風が侮るなよ！　水の竜魔法を貴様がごときが扱えるハズがなかろう！　海の藻屑と消えよぉおおお！」

古竜の咆哮が大海原に響き渡った。