【聖竜セルビア視點】

私、聖竜セルビアは偉大なる聖竜王様の腹心よ。

……だけど、この前まんまとカルに騙されて大敗北し、ドラゴン仲間からは『人間ごときに負けるとは、聖竜のとんだ面汚しよ』と嘲笑されたわ。

くぅうううっ、今に見ていなさい。

カルの陣営を壊滅させるために、アルスター島に潛り込んで、その報を丸にしてやるんだから。

いくつもの王國を部から崩壊させてきたこの【白翼の魔】を侮らないことね。

という、訳で……

「あはははははっ！　ほら！　ミーナ、そっちに行ったわよ！」

私は大はしゃぎで、飛んできたビーチボールをトスして、貓耳ミーナに打ち返した。

ここは、アルスター島の砂浜よ。

私は水著姿で、貓耳族のの子たちと戯れていた。

「にゃーん！　シルヴィアさん、パスですにゃーん！」

「うわっ、とと！　やるわねぇ！」

ビーチボールを砂浜に落としたら負け。というルールで私たちは遊んでいた。

もちろん、本気で楽しんでいる訳ではないわ。バカンス客に溶け込み、敵を油斷させるためのフリよフリ！

私は砂金のように輝く自慢の金髪を、銀髪に染めて変裝。貴族令嬢の分を偽り、バカンス客としてアルスター島にやって來た。

名前もシルヴィアと偽名を使ったおかげで、誰も私が恐ろしくもしい【白翼の魔】だとは気づいていないわ。

ふふーん、優雅で知的な私は、変裝だってお手のなのよ。

「シルヴィアさんの負けですにゃーん！　ジュース、ゴチになりますにゃん！」

「うん、もうしょうがないわね！」

負けたらジュースをおごるという罰ゲーム付きだったので、テンションが上がる。

アルスター島に自生している天然の果から作ったジュースが、これまた格別に味しいのよね。

犬型獣人イヌイヌ族が経営している海の家で、みんなで仲良くジュースを買って飲んだ。

「うわっ、キンキンに冷えてますにゃ！」

「きゃぁああ冷たい！」

氷の魔法で冷やされたジュースが、火照ったに心地良い。

ちなみにお金は、聖竜王様から必要経費として出されるので、私の懐は痛まないわ。

もう最高よね。今までの過酷な任務で溜まった疲労が、洗い流されて行くのをじるわ。

アルスター島のリゾート最高。ステキな場所よね。

ああっ、もう何ヶ月でもここにいたいわ……

「って、はっ……！　つい任務を忘れて楽しんでしまったわ！」

パラソルの下のベンチで、まったりお晝寢休憩していた私は我に返った。

「にゃー、にゃー、もうお魚にゃ、食べれませんにゃ……」

隣では貓耳ミーナが、ベンチに橫たわって、だらしなくグーグー寢ていた。

ここにやって來て、もう５日ほど経っているわ。そ、そろそろ果を出さないと、マズイわね……

私はここ數日、島を調べて立ちり止區域になっている場所を発見していた。

『立ちり止。魔法の修業エリア。ったら死にます！　命の保証なし！』

と赤い文字でデカデカと書かれていたけど……

ふんっ、神に近いとされる聖竜である私にとっては、人間の修行場なんて別に危険でも何でもないわ。

迷子になったフリをして、立ちり止區域を探索してやるとしましょう。もしかすると、トンデモナイが隠されているかも。

ふふふっ、暴いてやって聖竜王様にお褒めいただくのよ。

そう思って、私はいそいそと出発した。

「えーっと……ここね」

立ちり止になっている巖場にやってくる。

さすがに、周囲に人はまったくいないわ。魔法の修業というのは、どのあたりでやっているのかしら？

そう思ってキョロキョロしていると……空を覆うような巨大な火の玉が、轟々と音を立てて落ちてきた。

「はっ……？」

あまりに非現実的な景に、私は一瞬、直してしまう。

「おわぁああああ！　なんなんのよぉおおお──っ！？」

あんなモノの直撃をけたら、死ぬわ。

空間転移の発には、數秒を要する。

私はより早く発できる【聖竜盾】（ホーリーシールド）の魔法障壁を多重展開して、必死にガードした。

どどぉおおおおおーん！

直後、大発が起こって、私は木の葉のように吹っ飛ばされる。

「きゃあぁああああ！？」

ゴロゴロと巖場を転がった私は、大巖に激突して止まった。

「痛ったたた……水著でなんて來るんじゃなかったわ」

全がひどく痛む。

今のは本気で命の危険をじた。

私が上位聖竜じゃなかったら、１００％死んでいるわよ。

よく見れば、あたりはクレーターのような大がいくつもできていた。おそらく、今の魔法を放ってできただわ。

地形さえ変えてしまうなんて、非常識な威力！

見たことも無い魔法だけど、もしかして、カルのオリジナル魔法かしら……？

「すみません、大丈夫ですか！？　生きてますか！？」

すると、飛竜にまたがったカルが私の目の前に降りてきた。

「ここは立ちり止エリアですよ！？　とにかく、この回復薬を飲んでください！」

一瞬、ギクッとしたけど、カルは私の正には全く気付いていないようだった。

私の変裝は完璧だから、當然ではあるけどね。

「あっ、ありがとうございます……！」

素直に回復薬の小瓶をけ取って、あおる。

ふっ、私が誰ともわからずにバカなヤツ……

えっ？

そのとたん、手が痺れ、思わず回復薬を地面に落としてしまう。

が側から焼けるような猛烈な痛みが襲ってきた。

「良かった。これは今売り出し中の【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】の改良版です。どんな生のどんな怪我でも治しますが、ドラゴンにだけは猛毒になるようにしたんですよ。これを作るには、毒と回復の両方の魔法式を……ぺらぺら」

カルは楽しそうに解説した。

なんですってぇえええ！？

ま、まさかコイツ、私の正に気付いてこんな手の込んだ攻撃を？

「あれ？　お顔が真っ青ですよ。もしかして、気分でも悪いのですか？　おかしいな……」

カルが私の顔を心配そうに覗き込む。

演技だとしたら、大した役者だわ。とにかく逃げなくては……！

「わっ、わわわ、わたし！　お腹痛くて！　お花を摘みに行ってきますぅうううう！」

「えっ……？」

トイレに行きたいというにあるまじき理由を告げると、私は兎のごとく逃げ出した。

そのまま、草むらに飛び込むと同時に、空間転移で隠れ家まで長距離ワープする。

「くぅううう……！　やってくれたわね！　次を見ていなさい！」

私は究極の回復薬【エリクサー】を棚から取り出して一気飲みする。痛みが引いて、ようやく人心地がついた。

それにしても。

「うぅうううっ！　せっかくの私のバカンスがぁあああ！」

私の嘆きが部屋にこだました。