そして何だかんだと數日後、ついに〔槍技〕の練度が十に上がり、闘技の【ピアス】を習得した。そして使用してみて、サイティーさんが言っていた理想的な攻撃という意味が分かった。

「【ピアス】！」

と口にした瞬間、まるで流れるように自分のがき出して突きを放ったのだ。

それは足運びから腕のかし方まで、サイティーさんに教わった時にできた一番良いきをさらに鋭くしたような、まさにボクが頭の中で思い描いていた理想のきをしていたのだった。

ただし、やっぱりというか案の定というか、デメリットも存在した。

勝手にがくのは……、まあ、許容範囲だとして、き終わった後に一定時間の直が発生してしまうのだ。【ピアス】の場合で時間にして半秒くらいきが取れなくなってしまった。

武道でいう殘心に近いもの？でも、あちらは油斷せずに張を持つという意味合いだったと思うから違う気もする。

どちらかといえば闘技を連続で使用できないようにする制限の意味合いの方が強いのかもしれない。

ともかく、これで街の外へと採取をしに行く準備は整った。後は材料となる薬草類を集めれば〔調薬〕にも挑戦できるようになるね。

え？調薬をするための道はどうしたのかって？もちろん買いましたとも！

……ただ、そのための資金作りにはちょっぴり反則技を使ったけど。

「はいよ！『うどん』一つお待ちどうさま！」

「こっちには『うどん』を大盛りで頼む！」

「あいよー！」

えへへ。『猟犬のあくび亭』に、リアルでのボクの地元のソウルフード、うどんを教えちゃいました！

いやあ、お小遣い稼ぎにでもなれば良いかなと気軽に教えたんだけど、思っていた以上にウケが良くて驚いております。おで基礎調薬セットを購することができたので萬々歳だったね。

うどんについてはまた後日話すとして、お外に向かう準備の最後の一つ、初心者用槍の長さとバランス変更をした時の話をしておこうと思う。

ボクが槍を購、というかチケットと換したのは、騎士であるグラッツさんに紹介してもらった『石の金床』という武屋兼工房だった。

クンビーラの街の騎士団員たちが使用している鎧兜といった防は、雇用主である支配者側から支給されているのだけど、武の方については個人の裁量に任せられている。

屋、屋外を問わず使えることや取り回しのし易さから、大抵は剣を選ぶそうだけど、中には槍や巨大な斧にハンマーなどを選ぶ人もいるのだとか。

そうした騎士団員たち用達の武屋の一つが『石の金床』という訳だった。

職人長でもある店主さんを始め、職人の人たちは全員強面の男ドワーフという新米冒険者にはなかなか敷居の高いお店でした。

寡黙だけど親切な人たちだと分かってからは、すぐに打ち解けることができたけどね。

「たのもー」

「ん？ああ、リュカリュカか。今日はどうした？」

お茶目なボクの掛け聲に奧の工房から店の方へと現れたのは、店主であるゴードンさんだった。

「こんにちは。ちょっとお願いしたいことがありまして。……それにしてもゴードンさんがすぐに出てくるなんて珍しいね」

「今日は工房の休みの日だからな。良いを作るためには休息は欠かせんのだ」

こんなことを言えるから、人の上に立つことができるなんだろうね。どこかの支部長さんにも聞かせてあげたい言葉だよ。

「それで、リュカリュカのお願いとは何だ？」

「この前チケットと換してもらった初心者用の槍なんですけど……」

「返品はけ付けんぞ」

「しませんよ！……柄を短くして、短槍にしてもらいたいんです」

お願いを告げると、ゴードンさんは大きく「はあー……」とため息を吐いた。なに！？

「試しに振ってみることもせずに仕舞いこんでしまったから、てっきり調整する先に當てがあるのかと思っていたが……。リュカリュカ。普通そういうことは買ってすぐにやるものだぞ」

「そうなの？言ってくれれば良かったのに」

「だから、それをする當てがあるのかと思っていたんだよ。……はあ。そんなことならちゃんと指導してやるんだったぜ」

疲れ果てたようにがっくり肩を落とすゴードンさん。

……ふみゅ、指導か。

「ゴードンさん、これからでもいいので、ぜひ々教えてください。戦い方の基本は冒険者協會で教わったけど、手れの仕方とかはさっぱり分からないので！」

「それを自慢げに言うのはどうかと思うぞ……。というか本當に初心者の新米だったんだな」

「えっへん！」

「だから、威張るな。そしてエッ君に悪影響だから止めろ」

ゴードンさんが顎をしゃくって示した先には、ボクの真似っこをして？を張っているエッ君の姿があった。

「おっとと……。これは失敗」

好奇心旺盛なエッ君は何でも真似てみたいお年頃だからね。教育上よろしくないことはしないように心掛けないと。

「あ、しまった」

「どうしたんですか？」

「すまねえ、リュカリュカ。手れの方法を教える事はできるんだが、ただという訳にはいかないかもしれん」

ゴードンさんが申し訳なさそうにそう言ったのには訳がある。武や防などのメンテナンスは、武屋さんや鍛冶工房などの大切な仕事の一つとなっているからだ。

簡単ではあっても持ち主に手れの仕方を教えるということは、その仕事の數を減らすことになる。

「まあ、そこまで大げさに考えているやつはほとんどいないがな。武を買った客に手れの仕方を教えるなんてどこの店でもやっていることだ」

分かり易く言えば、購特典だね。売るだけの人はともかく、ゴードンさんのような作り手ともなると、できるだけ長く、良い狀態のまま使ってしいだろうから。

「ただ、この武を『買った』というところが問題でなあ……」

「……ああ！ボクの場合はチケットと換だったから、購したと言えるか微妙なところなんですね？」

「悪いがそういうことだ」

「うーん……。かといって新しい武を買うつもりもないですし……」

あくまで特典だから、お金を支払えば教えてくれるというものでもない。

困ったなと悩んでいると、足元にいたはずのエッ君が、いつの間にかいなくなっているではありませんか！？

「エッ君？あ、いた！」

幸いすぐに見つかったのだけど、彼がいたのは、鋲で強化されたグローブなどが陳列されていた棚の前だった。

なんだかその尾も、いつもより楽しそうに振られているような気がする。

「そうだ！ゴードンさん、エッ君の尾に裝備できるような武か防を作れませんか？できれば安く！」

「んあ？また妙なことを言うじゃないか……。まあ……、できなくはないか。ちょっと待っていろ」

と一言殘して奧の工房へと行ってしまった。

そして五分後、持ってきたのがこちら。

「フォレストウルフの皮の端材に金屬の鋲を取り付けてみた。それをぐるっと撒いておけば尾用の武兼防になるだろう。値段は……、百五十デナーってところか」

「買います！」

「まいど。それじゃあ商品も買ってもらったし、簡単な手れの方法を教えておくぞ」

「その前に、槍の柄を短くするのをお願いします」

「おっと、そうだったな。それじゃあ、奧の工房へ來てくれ」

そんな訳で、槍の調節をしてもらっただけでなく、エッ君用の武兼防も手することができたのでした。