「それじゃあ、魔法で先制攻撃を仕掛けるのと同時に、エッ君はあいつらの方へと走って行ってね。ボクもすぐに追いかけるから」

この時、ボクはもっと彼我の戦闘力というものを考えておくべきだった。

「【アクアボール】！」

ＭＰが減るかすかな倦怠(けんたいかん)を代償に、ばした両手の前にバレーボールほどの水の球が生み出される。

オーバーロードは使用していない通常のものだ。消費ＭＰは二だから、十五発撃てることになる。ＭＰ枯渇の狀態異常になるからやらないけど。

ちなみに、訓練場では威力半減の消費ＭＰ一で練習していた。ゾイさんいわく、「そっちの方が効率がいいんだぞい」だそうだ。

「いっけえ！」

ぶんと腕を振って水の球をトゥースラットたちへ向けて放り投げる。狙い違わず目標にしていた一番手前にいた一匹に見事命中！

「ヂュヂュー！？」

濁音混じりの可くない悲鳴を上げてかなくなる目標の個。

「あ、あれ？」

と、ボクが戸っている間に、近付いていたエッ君が殘り二匹に続けざまに回し蹴りと尾アタックを叩き込んだ。

「ヂュブフ！」

「ヂュウ！」

【アクアボール】の飛び散る範囲攻撃をけていたこともあり、その二匹もエッ君の攻撃をけただけでＨＰが全損してしまったのだった。

「うわあ……。やっておいてなんだけど、すっごい瞬殺だったんですけど……」

これは後からおじいちゃんに聞いた話なんだけど、練度が二十前後の攻撃であれば、例えレベル一でもトゥースラットくらいならば一撃で倒せてしまうものなのだそうだ。

ボクがようやっと【ピアス】を習得できたと喜んで報告していたので、他の技能も軒並みそのくらいなのだと思っていたのだとか。

ともかく、やってしまったものは仕方がない。エッ君も「凄いでしょ！」と言わんばかりに褒めて褒めてオーラを出しているし、ここは素直に初勝利を喜ぶことにしよう。

「こんぐらっちゅれーしょん。エッ君、やったね！」

抱き上げてでりこなでりことで回す。時々くすぐるのはご。

一通りエッ君を譽めてから倒した魔の解へ。デフォルメ化したネズミを巨大にしたようなトゥースラットだけど、短剣並みに鋭い歯を持っていることもあって、可いとは思えない造形だった。一番の理由はその大きさなんだろうけど。

「えっと……、解するには初心者用ナイフをプスリと刺して『解』を宣言すればいいんだっけ？」

初期狀態の簡易解設定ではそれだけで良かったはず。倒した瞬間にアイテムが取れる短設定もあるけど、そちらはさすがに勝手なようにじてしまう。

ちなみに、リアリティを求める人向けに、皮を剝いだりはできるようになっているのだとか。臓関係に関しては倫理面と技面――要するに、設定するのが大変過ぎたらしい。ドラゴンののつくりとか想像できないしねえ……――の両方から解不可となっているそうだ。

アイテムボックスから懐かしの初心者用ナイフを取り出して、プスリ。

するとナイフを刺したトゥースラットは、薄く溶けるようにして消えていってしまった。

《『灰鼠の皮』を手にれました。魔石は極小のため砕けてしまいました》

皮の方は、冒険者協會の資料室で調べた通りの一般的なドロップアイテムだ。魔石はレアアイテム扱いなので取れなかったらしい。

もう一つのレアアイテムである鋭歯についてはれられてもいないのはどうして？

気になったので、今度はプスリする位置を変えてみることにした。

「う……。ゲームの中でデフォルメされているとしても、頭や顔にナイフを突き立てるのは抵抗があるなあ……」

思いっきり魔法をぶつけて倒したくせに、今さら何を言うかと怒られそうだけど、リアルでは平和な現代ニポンで暮らしているとしては、やっぱりキツイものがあります。

だけど、ボクたちの生活が他の命の上にり立っているのだということを実するのにも役立ちそうではあるね。

「ふう」

一旦ナイフを地面に置いて、両手で頬をパシンと叩く。気持ちをれ替えると意を決してナイフを二匹目の頭へと刺す。

すると、

《『灰鼠の皮』を手にれました。『鼠の鋭歯』は折れていました。魔石は極小のため砕けてしまいました》

先ほどとは違うインフォメーションが流れた。どうやら簡易解設定の場合、ナイフを刺した位置によって説明が異なってくるらしい。

三匹目は再び部分をプスリしたのだけれど、皮だけでなく鋭歯もドロップしていたので、取得できるアイテムに違いが出るということはなさそうだ。

「これは戦闘そのものよりも神的にしんどいかも……」

短設定さん、勝手だとか思ってしまってゴメンナサイ。

これは確かに需要がある設定だと思う。だけど、しばらくはこのまま簡易設定で続けようと思う。まあ、それこそただのエゴなのかもしれないけれど。

余談だけど、一応は手間暇かけて解を行った方がアイテム取得率は上がるようになっているとのこと。ほんの數パーセントだけど、里っちゃんによると「その數パーセントが大きいんだよ！」ということらしい。

さらに〔解〕の技能があれば高品質なアイテムに変化することもあるのだとか。これは通常よりも高値で売れたり、加工した際に補正が付いたりするそうだ。

「ん？心配かけちゃったかな？ごめんね」

神的な疲労をじていることを察知したのか、エッ君が心配そうに寄り添っていた。

再びワチャワチャと全をで回したのは、この子の心配を取り除くためだったのか、それともボク自が気持ちを切り替えたかったのか。自分のことながら良く分からなかったのだった。

「さあ、時間はまだまだあることだし、どんどん採取をしていこう！」

それから午前中いっぱいをかけて六カ所のポイントを発見して、コナルア草を二十七本にポイポイ草を十三本、ついでに雑草を五十五本採取することができたのでした。

一方、魔の方はというと、先ほど呆気なく倒したトゥースラットだけでなく、ブレードラビットも登場していた。

茶い野ウサギっぽい外見だったけど、五十センチ近い剣狀の耳はまさに兇だった。しかも目は走ったような赤で、はっきり言って可げの欠片もなかったのだった。

まあ、一番の要因は中型犬ほどもあるその大きさにあるのだろうけれど。

今のボクたちの敵ではなく、サクッと経験値やアイテムへと変わってしまうことになるのでした。