《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》76 公主たちの狙い

公主様と公主妃様がボクと會ってみたいと考えたのは本當のことだろう。だけど二人の立場上、知り合いとなったからといって頻繁(ひんぱん)に會うような事はできない。

そうなれば必然的に繋(つな)ぎとなる人たちが必要となるはずだ。

「それがこのお二人なんじゃないかな、と思った訳です」

と、思い付いたことを述べていく。

里っちゃんによると、こういう時には堂々と語るのがポイントだそうだ。そうすることで例えあちらの思と違っていたとしても「そういう考え方もできるのか」と思わせることができるからだ。

ただし、あくまで自分の考えとして言うこと。

まるでそれが正解であり唯一の答えであるかのように自信満々で語ってしまうと、外れた時に赤面になってしまうから注意が必要なのだ。

そんな里っちゃんの指導に沿って話してみたところ、公主様たちは心したように唸っていた。

なくとも悪い印象は持たれていないみたいなので一安心といったところです。

「ううむ……。まさかこの二人に人評をさせていたことまで勘付かれてしまっていたとは……。驚いたとしか言いようがないな」

「その若さでこれだけの観察眼を持っているだなんて、冒険者協會のデュラン支部長が「引き抜かないでしい」と直訴しに來ただけのことはありますね」

あれ?デュランさんそんなことをしていたの?心配しなくてもボクに騎士や衛兵なんていう役回りが務まるはずがないよ。

「リュカリュカさんであれば、先日七つになったばかりのハインリッヒの良い先生兼お友達になってくれると思ったのですけれど……」

まさかの子守り要因としてだった!?

って七歳の子ども!?いやまあ、世界観的にそのくらいのお子さんがいなくちゃ困ったことに発展してしまいかねないのだろうけど、仲睦まじい二人の姿からはいまいち想像ができなかったので……。

しかし、今でもこの様子なのだから、新婚時代はさぞかし熱々だったんだろうね。きっとプレイヤーなら「発しろ!」とびたくなったことだろう。

「もちろん、私のお話し相手にもなってしかったのですよ」

ふわりと微笑む公主妃様。うわー、思わず無條件降伏したくなりそうな素敵な笑顔ですよ!

もしも男の子だったら一発で陥落しちゃったかもしれない。

「そのお言葉だけで十分です」

「あらあら。振られてしまいましたね」

辛うじてそれだけを捻りだしたボクに、クスクスと聞いている耳にも心地よい聲で笑い始めたのだった。

ふへー。この人間違いなく自分の笑顔の価値と威力を知った上でやってるよね……。下手な答え方をしていたら取り込まれてしまったかもしれない。

「そういう狙いがなかったとは言わないが、我らの見立てとしては自由にしてもらえる方がクンビーラの発展に寄與してくれるとじた。……お前たちはどうだ?」

「はっ!私も殿下と同じ考えであります!」

「失禮ながら、これまでの報告から鑑(かんが)みるにリュカリュカ殿は集団の枠に當てはめない方が力を発揮すると思われます」

公主様の問いに、背後にいた二人がはきはきと答えていた。中學の時の生徒會も自主參加なイレギュラー要因だったし、言われてみると枠からはみ出している方が好みなのかもしれない。

だけど、別に集団不適格者ということではないですからね、念のため!

それなりに空気は読むよ。まあ、あえて場を荒らすようなこともするけど。……あ、そこが枠からはみ出しているってことなのね。

「無理矢理に鳥籠にれようとして逃げられてしまう方が損失となる。だからこれからも冒険者として自由に活するといい。ただ、できることならクンビーラを拠點としてもらいたいものだな」

為政者としては優秀な人材が流出するのは防ぎたいところなのだろう。でも、ちょっとボクのことを持ち上げ過ぎているように思える。

「それと、これを渡しておこう」

公主様が懐から何かを取り出すと、見慣れない鎧の人の方が預かってから手渡してくれた。

それは陶製でつるりとしたりの札のようなものだった。

「これは?」

アイテム欄の説明をみたり〔鑑定〕技能を使ってみたりすればすぐに分かったのだろうけれど、ここは誰かから説明してもらうべきだとじたのだ。

「城への通行許可証と、我を始めとした城にいる全ての者を対象とした謁見許可証だ」

うおいっ!超重要アイテムじゃないですか!?

前半は何となく予想していたけれど、後半は全く想定外でございますよ!?

「なに、もうじきブラックドラゴン殿が戻ってくる頃合いだからな。彼の方との會見を始め守護竜の契約にその式典など、そなたにも參加してもらわなくてはいけないことが多數ある。その打ち合わせも必要となるだろう。當然の措置ということだ」

「城に來た際には、できれば私のところにも寄ってくださいね。あの子とも會わせてあげたいですから」

いえ、現公主妃だけでなく次期公主様なんて大は、ボクには荷が勝ち過ぎるのでできるだけ會いたくないです。

それより問題は契約の時や式典にも出席という話だよ。絶っ対に重苦しくて堅苦しいものだよね。卒業式や學式どころか、朝禮の校長先生のお話しですら疲れ果ててだらけてしまうボクには到底耐えられそうにもないんですけど!?

何とか會見の時までに回避する方法を考えておかないと。

「詳しいことは後日城に來た時にでも擔當の者と話し合ってくれ。キャシー、そろそろ戻るとしようか」

「ええ。あの子に緒で出てきましたから、急いで帰らなくてはいけませんね」

「ははっ。そうだな。我らだけ味いものを食べてきたと知ればきっと拗ねてしまうだろう。今日のことは緒にしておかねばな」

楽しそうに語り合いながら帰り支度を始めるご夫妻。

「リュカリュカよ、今日はそなたに會うことができて良かった。これからも顔を合わせることがあると思うが、我の正についてはくれぐれもにしてくれよ」

公主様、『猟犬のあくび亭』の常連は続けるつもりなのね。

護衛の二人に視線で「ご苦労様です」と告げると、疲れた顔でお辭儀を返してくれたのだった。

「二人も、今日は無理を言って料理を作らせて悪かったな」

「とても味でした」

將さんたちに挨拶すると、とんでもない珍客たちは足早に去って行ったのでした。

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